米国株の取引時間が、2026年12月6日から1日23時間になります。市場が完全に閉まるのは、日本時間の午前10時から11時までの1時間だけです。
先に結論をお伝えします。インデックスファンド(日経平均やS&P500など市場全体に自動で分散投資できる金融商品)を積み立てている方にとって、この変更でリターンは1円も変わりません。
ただ、私がこのニュースで本当に気になったのは、そこではありませんでした。「アメリカ一強」が予測ではなく、すでに進行中の事実として動いていることのほうです。この記事では、その動きを4つの事実で整理したうえで、私たちが何をすればよいのかまで書きます。
結論:延長されるのは「取引時間」であって「リターン」ではありません
メンテナンスの1時間を除けば、ほぼ24時間営業です。この事実を知ったとき、私は素直に衝撃を受けました。
ただ、よく考えてみると不思議な話でもありません。ビットコインは24時間動いていますし、これまでも時間外取引はありました。世界がつながっていて時差がある以上、市場が24時間開くのは自然な流れとも言えます。
それでも、長期のインデックス投資家にとって変わるものは1つもありません。指数の長期リターンの源泉は企業の利益成長であって、取引所が何時間開いているかではないからです。
変わるのは、売買しようと思えばいつでもできてしまうという環境のほうです。そしてもう1つ、この変更で確実に儲かるのは、投資家ではなく取引所と証券会社です。
この記事の要点を先に3つ挙げます。
- 企業・時間・個人という3つの壁が消え、「アメリカ一強」は予測ではなく進行中の事実になっています
- 取引時間の延長は投資家への「施し」ではなく、取引量を増やすための商品です
- それでも積立の設定を変える理由は1つもありません。増えるのは市場に注意を奪われる時間だけです
事実①:PayPayは東証を素通りして、ナスダックに上場しました
まず、企業の側から壁が消えています。2026年3月12日、PayPayがナスダック(アメリカの新興企業向け株式市場。アップルやマイクロソフトも上場しています)に上場しました。ティッカー(銘柄の略称)はPAYPです。
注目すべきは、東京証券取引所を経由しないアメリカへの直接上場だったことです。
数字を並べます。公開価格は1株あたり16ドルでした。これは仮条件(想定していた価格の範囲)である17〜20ドルを1ドル下回る値決めです。ただ初値は19ドルまで上がり、公開価格から約19%の上昇となりました。調達額は約8.8億ドルで、日本企業のアメリカでの新規上場としては過去最大規模です。
上場前には、クレジットカード国際ブランドのビザ、カタール投資庁系のカタール・ホールディング、アブダビ投資庁が、合計2.2億ドル規模の購入意向を示したと報じられました。
ここで見るべきは株価ではありません。選択のほうです。日本で誰もが知る決済アプリが、資金を集める場所として東証ではなくナスダックを選びました。世界の投資マネーに直接届く場所だから、という理由でです。
日本経済新聞は、世界のお金と優良企業が母国市場を素通りしてアメリカに集まる動きを「大リーグ化」と表現しました。私はこれを将来の予測としては読みませんでした。今年の3月に、もう起きたことだからです。
このグラフは、23時間取引に至るまでの動きを年表にしたものです。
事実②:時間の壁が、12月6日に消えます
次に、時間の壁です。23時間取引の中身を確認します。
2026年7月、SIP(証券情報プロセッサー。複数の取引所をつなぎ、株価情報を集約する共通インフラ)の稼働時間を延ばすことを、米SEC(証券取引委員会。日本の金融庁にあたる機関)が承認しました。本番稼働は12月6日です。これで最後の障害が消えました。
新しい1日はこうなります。デイセッションが米東部時間の4時から20時まで。1時間のメンテナンス休止をはさんで、ナイトセッションが21時から翌4時までです。合計23時間になります。
取引週は日曜21時から金曜20時まで(米東部時間)で、市場が完全に閉まるのは週末の約49時間だけになります。なお9時30分の寄り付きと16時の大引けのベルは残り、公式の終値や投資信託の基準価額は、従来どおりここに紐づきます。
このグラフは、2026年12月6日以降の米国株の1日を日本時間で示しています。
日本時間に直すと、大事なことが1つ見えます。ナイトセッションは日本時間の11時から18時です。東証が開いている時間に、ほぼ真上から重なります。
ロンドンも追いかけてきています
この流れはアメリカだけではありません。2026年7月21日、ロンドン証券取引所が夜間取引の新市場「LSE 24」を発表しました。ロンドン時間の17時から翌朝7時50分まで稼働し、2027年前半にまずETF(上場投資信託)などの上場商品から取引を始める計画です。約300年の歴史で初めての大改革になります。
主力銘柄のアメリカ、金のロンドン。世界の取引所が、開いている時間の長さで投資マネーを奪い合う局面に入りました。
事実③:言葉も制度も資金も、壁はとっくに消えていました
3つめは、個人投資家の側の壁です。「米国株は特別な人のもの」という感覚は、制度の面ではもう過去のものになっています。
| 壁 | 今どうなっているか |
|---|---|
| 言葉 | 主要ネット証券はすべて日本語の画面で米国株を扱えます |
| 制度 | 新NISAの成長投資枠で米国株・米国ETFを買えます |
| 税金 | 売却益への課税は国内株と同じ20.315%です(日米租税条約により、売却益にアメリカ側の課税はありません) |
| 資金 | 米国株は1株から買えます。コカ・コーラなら約82ドル(2026年7月20日終値)で、1万円台前半から株主になれます |
日本株は原則100株単位なので、値がさ株(1株の値段が高い株)だと数百万円が必要になります。1株から買えるという点だけを見れば、米国株のほうがむしろ入りやすいとも言えます。
そして最後に残っていた壁が時間でした。米国株の通常取引は日本時間の深夜22時30分から翌朝5時まで(夏時間)です。会社員が値動きを見ながら注文しようとすると、睡眠を削るしかありませんでした。12月6日、その壁が消えます。
ただし、日本の証券会社が一斉に対応するわけではありません
ここには大事な但し書きがつきます。アメリカ側のインフラが動き出すことと、日本の証券会社のシステムがそこにつながることは、別の話です。
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 2026年1月 | 楽天証券がプレマーケット(通常取引の前の時間帯)に対応 |
| 2026年6月22日 | 同社がアフターマーケットにも対応し、最大16時間まで拡大 |
| 2026年7月時点 | 各社とも対応拡大を検討中ですが、23時間対応の開始日はどこも発表していません |
なお楽天証券を傘下に持つ楽天証券ホールディングスは、アメリカで初めて23時間取引の認可を受けた取引所を運営する24X US Holdingsに出資しています。早期に対応する姿勢は明確です。
事実④:東証の70年ぶりの延長は、「30分」でした
4つめは、対岸の話です。日本経済新聞は2026年7月23日、東証が取引時間のさらなる延長に消極的だと報じました。
東証の直近の延長は2024年11月で、大引けを15時から15時30分に動かしました。約70年ぶりの延長が、30分です。しかもきっかけは市場間の競争ではなく、2020年のシステム障害で終日取引が止まった反省、つまり守りの対応でした。
夜間に日本株を売買したい個人の受け皿としてはPTS(私設取引システム。証券取引所を通さずに株式を売買できる電子的な取引の場)がありますが、信用取引は使えず、流動性も日中の取引所には遠く及びません。
このグラフは、東証と米国市場の取引時間を日本時間で並べたものです。
アメリカが7時間のナイトセッションを新設し、ロンドンが24時間市場を作る一方で、日本は70年かけて30分。攻めの7時間と、守りの30分です。
日本が消極的だと聞いて、私は正直に言って残念に思いました。これから世界との差がますます広がるのではないか、とも感じています。本気で資金を集めたい企業にとって、東証に上場する意味は薄れていきます。少なくとも海外展開を狙う企業なら、なおさらです。PayPayの選択は、その最初の答え合わせだったのかもしれません。
では、誰が儲かるのでしょうか
ここまで4つの事実を見てきました。歓迎する声も、アメリカ一極集中を心配する声も、どちらも間違いではありません。ただ、どちらも一番単純な問いを素通りしています。誰がこの変更で儲かるのか、という問いです。
取引所のビジネスは単純です。売買が成立するたびに手数料が入ります。取引時間を23時間に延ばすのは、お店の営業時間を延ばすのと同じで、売上を増やすための経営判断です。証券会社も同じ構造の中にいます。
つまり23時間取引は、投資家のために用意された「施し」ではなく、取引量を増やすための商品です。ここを見誤ると、判断を間違えます。
具体的なコストを挙げます。時間外の時間帯は参加者が少なく、流動性(売りたいときに売りたい値段で売れる度合い)が低くなります。流動性が低い市場では、買値と売値の差(スプレッド)が広がります。この差は目に見えない手数料として、売買のたびに投資家が負担します。
ただし、投資家に効く副産物もあります
公平に書きます。日本の証券会社の多くは、米国株の一部を「店頭取引」(取引所を通さず、証券会社が自分の勘定で顧客と直接売買する形式)で提供してきました。
この店頭取引の価格については、金融庁が2025年から、証券会社が自社に有利な値付けをしていないかという問題意識で監視を行っています。日本時間の日中にアメリカの取引所へ直接注文を出せるようになれば、店頭取引の価格が妥当かどうかを、投資家自身が取引所の価格と見比べられるようになります。価格の透明性は、構造として上がります。
「なら証券株を買えばいいのでは」への答え
ここまで読んで、こう考えた方がいるはずです。「取引所と証券会社が儲かるなら、証券株を買えばいいのでは」と。気持ちは分かります。ただ、思いついた時点で、たぶん遅いです。
理由を3つ挙げます。
まず、さきほどの「店頭取引の透明化」は、投資家のメリットであると同時に証券会社の利益率の圧迫です。為替手数料はすでに主要ネット証券でゼロになりました。そこに23時間分のシステム増強と市場監視のコストが乗ります。売上が増える話と、利益が増える話は別物です。
次に、タイミングです。23時間取引の材料は2025年から公開情報でした。SECの承認手続きも、ナスダックの計画も、すべてニュースになっています。個人投資家が報道で気づいた時点で、市場はとっくに織り込みを済ませています。
最後に、銘柄と恩恵の距離です。楽天グループの実態は通信会社であり、証券事業の寄与は一部にすぎません。マネックスグループは暗号資産の比重が大きく、松井証券は米国株では後発です。テーマに一番近い銘柄を探していくと行き着くのは取引所を運営するナスダック自身ですが、これも当然、とっくに知られた話です。
思いつきの連想ゲームで買える「うまい話」は、公開情報になった瞬間に消えています。これが個別株の難しさであり、私がインデックスに戻ってくる理由でもあります。
出口の自由度は、1時間も増えていません
このブログでは、金融商品を「出口の自由度」(自分のタイミングで、罰を受けずに現金化できる度合い)という物差しで評価してきました。
23時間取引は、一見すると出口の自由度を上げるように見えます。いつでも売れるからです。ところが、インデックスファンドの長期保有者にとって、出口の自由度はもともと確保されています。特定口座やNISAで持つ投資信託・ETFは、翌営業日を待てば現金化できます。深夜3時に売れるかどうかは、10年単位の資産形成において出口の自由度を1ミリも変えません。
むしろ私が気にしているのは、逆の面です。
インデックス投資は、いいことばかりではありません。いつでも取引できるということは、それだけ買い増しも売却もできてしまうということです。一定以上下がったときに買い増すのは私の哲学どおりですが、基本的に売買を繰り返さず「放置」するのがインデックスの正解です。余計な情報に振り回されて売ってしまうことは、リスク以外の何物でもありません。
これまで米国市場は、日本人が寝ている間に開き、起きる頃に閉じていました。強制的な「見ない時間」が、制度として存在していたわけです。12月以降、その防波堤はなくなります。値動きは起きている間ずっと更新され続け、SNSはそれに反応し続けます。
注意力は資産です。本業の収入を伸ばすのも、副業を育てるのも、家族と過ごすのも、すべて同じ注意力を使います。株価を見る時間が1日3時間増えるなら、それは年間1,000時間を超える注意力を市場に無償で提供することを意味します。取引所の売上には貢献しますが、あなたの資産形成には貢献しません。
ちなみに私は今も、そしてこれからも、結果を見るだけです。インデックスに対する姿勢を変えるつもりはありません。
| 項目 | 私(投資歴18年) | 読者の方への検討材料 |
|---|---|---|
| 米国株の持ち方 | VOO・QQQをドル建てで直接保有(2020年のコロナショック起点で6年) | 円建ての投資信託で十分です(eMAXIS Slim全世界株式など) |
| 23時間取引への対応 | 何も変えません。結果を見るだけです | 積立設定を変更する理由にはなりません |
| 個別株 | 主軸にしていません。証券株も買いません | 指数を通じてなら、意識せず全部に乗れます |
まとめ:12月6日までにやること
やることは3つです。すべて「やらないこと」の確認になります。
- 投資方針は変えないことです。広く分散されたインデックスファンドの積立を続けます。23時間取引は、積立設定を1文字も変更する理由になりません
- 取引時間の延長を「使う理由」を探さないことです。「便利になったから少し短期売買を」が入口になります。使える機能と、使うべき機能は別物です
- 株価アプリの通知を切ることです。12月以降、値動きの更新は途切れなくなります。見ない仕組みは、意志ではなく設定で作ります
そのうえで、米国株や米国ETFをすでに持っている方、これから持つ方に向けて、税金の注意点を2つ添えます。
配当の二重課税は、23時間になっても残ります。米国株の配当はアメリカで10%が源泉徴収され、そのあと日本で20.315%課税されます。特定口座なら確定申告の外国税額控除で米国分の一部を取り戻せますが、NISAでは日本側が非課税である代わりに外国税額控除を使えず、アメリカの10%は取られたままになります。取引時間の話題の陰で忘れられがちですが、コスト構造としてはこちらのほうが本体です。
外貨のまま売買を繰り返すなら、為替差益は雑所得になります。ドルで売ってドルで買い直すことを繰り返すと、株の損益とは別に為替の損益計算が発生します。銀行アプリが表示する「為替差益」と、税務上の数字が約25倍ずれていた話は、配当500ドルを円転したら、銀行表示の利益25,689円が「幽霊」だったに書きました。
証券口座について(私の使い分け)
私の主軸はSBI証券ですが、用途によって使い分けています。米国株を実際に触ってみたい方にはマネックス証券、少額から始めたい方やサポートに相談しながら進めたい方には松井証券が向いています。ただし、どこで買うかより、取引時間が延びても売買を増やさないと決めるほうが結果を左右します。
市場が23時間開こうが、ロンドンが24時間市場を作ろうが、長期リターンの源泉は企業の利益成長であって、開場時間ではありません。
市場は延長戦に入りましたが、こちらは定時で帰っていいのです。
▶ この記事を動画でも解説しています(約9分):
余談:上場する場所は、全部同じになっていきます
PayPayの上場を調べていて、SpaceXの上場を追いかけたときと同じ感想を持ちました。PayPayも、SpaceXも、次のAI企業も、上場する場所は結局ニューヨークです。この流れについてはSpaceXがまた借金、OpenAIは延期、Anthropicは上場間近にまとめました。
ついでに書くと、ニューヨークはアメリカの初代首都でした。ワシントン初代大統領の就任式は、ウォール街のフェデラル・ホールで行われています。ニューヨーク証券取引所の起源は1792年、ウォール街のスズカケの木の下で仲買人68人が交わした「すずかけ協定」だとされます。政治の首都はその後ワシントンD.C.へ移り、金融の首都はウォール街に残りました。230年あまり経って、そのウォール街がほぼ眠らない市場になります。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。制度・取引時間・各社の対応状況は2026年7月25日時点の公表情報にもとづきます。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
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