親知らずを抜いたとき、20万円近くかかると言われました。
実際に払ったのは、9万円ほどでした。
差額を埋めたのは民間の保険ではありません。高額療養費制度(1か月の医療費の自己負担に上限を設ける公的な仕組み)です。健康保険証を持っている人なら、誰でも使えます。
その制度が、2026年8月から変わります。上限額が引き上げられ、新しく「年間上限」が設けられます。保険会社にとっては、医療保険をすすめる絶好の材料です。
ただ、厚生労働省の資料を読むと、話は逆でした。この記事では、私が今も入っているがん保険を解約すると決めた理由を、公的な数字だけで説明します。
結論:保険は「起きたら破綻するか」だけで決めています
先に結論を書きます。私が保険を選ぶ基準は、ひとつだけです。
入っておかないと破綻するものだけに入る。
ここでいう破綻とは、貯金が尽きて生活が回らなくなる状態を指します。困る、痛い、では足りません。生活が壊れるかどうかで判断します。
この基準で並べると、答えは驚くほどはっきりします。
自転車で人にぶつかって高額な賠償を負えば、破綻します。火事を起こして大家さんへの賠償が発生しても、破綻します。私が死んで、残された家族の生活費が消えれば、家族が破綻します。
では、がんになったらどうでしょうか。
つらいことは間違いありません。ただ、破綻はしません。理由は後の章で数字にします。
そして、多くの人が見落としている点があります。確率が高いものほど、保険には向きません。ここが今回いちばん伝えたいことです。
がんは「万が一」ではありません
国立がん研究センターの最新統計によると、生涯でがんと診断される確率は次のとおりです。
男性61.1%、女性50.1%(2023年のデータ)。
女性はおよそ2人に1人です。男性にいたっては、3人に2人に近い数字になります。
これは「万が一」ではありません。どちらかといえば、標準的な出来事です。
確率が高いと、保険は成り立ちません
保険という仕組みは、めったに起きないけれど、起きたら耐えられない出来事に対して使うと効率が良くなります。大勢で少しずつお金を出し合い、当たってしまった人に集中させる仕組みだからです。
ところが、対象になる出来事の確率が上がるとどうなるでしょうか。
集めた保険料の多くが、そのまま給付として出ていきます。すると保険料は、給付額に近づいていきます。
そして保険会社も会社ですから、人件費も広告費も利益も必要です。その分だけ、加入者全体で見れば必ずマイナスになります。
私はここに14年気づきませんでした。2人に1人が当たるものは、保険ではなく積み立てで備えるほうが理にかなっています。
がんになったら、いくら払うのか
ここからが本題です。がんになったとき、実際にいくら払うのでしょうか。
会社員の多くが当てはまる年収約370万〜770万円の区分で見てみます。現在の1か月の自己負担の上限は、次の式で決まります。
80,100円 +(医療費の総額 − 267,000円)× 1%
ここでいう医療費の総額とは、窓口で払う3割ではなく、10割の金額です。
この式の大事なところは、医療費が増えても、自己負担はほとんど増えないという点にあります。超えた分にかかるのは1%だけだからです。
グラフにすると、傾きの緩さがはっきりします。
私の9万円を、式に入れてみます
冒頭の親知らずの話に戻ります。
窓口で20万円払う予定だったということは、3割負担なので医療費の総額はおよそ66.7万円です。これを現在の式に入れます。
80,100円 +(667,000円 − 267,000円)× 1% = 84,100円。
ここに食事代などの保険がきかない分が乗って、9万円前後になります。記憶と計算がぴたりと合いました。
あなたの場合を計算してみてください
ご自身の年収区分で、1年間にいくら払うことになるのかを計算できるようにしました。2026年8月の改定前後を並べて表示します。
高額療養費シミュレーター(2026年8月改定 対応)
この制度、名前は知られています
私は正直なところ、高額療養費を知らない人はいないと思っていました。
調べてみると、半分だけ当たっていました。制度の名前を「知っている」と答えた人は93%にのぼります(2025年6月・400名調査)。
ところが、内容についてはどうでしょうか。上限額の引き上げについて「詳細を知らない」と答えた人が58.3%いました(2025年3月・300名調査)。
名前は知られている。けれど、いくらで済むかは知られていない。民間の医療保険は、この空白に売られていると考えられます。
2026年8月、高額療養費はこう変わります
では、来月からの変更を見ていきます。数字はすべて厚生労働省の資料によります。
| 年収の区分 | 現在の月額上限 | 2026年8月〜 | 年間上限(新設) |
|---|---|---|---|
| 約370万〜770万円 | 80,100円+1% | 85,800円+1% | 53万円 |
| 約770万〜1,160万円 | 167,400円+1% | 179,100円+1% | 111万円 |
| 約370万円まで | 57,600円 | 61,500円 | 53万円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 36,900円 | 29万円 |
私たちの多くが入る区分では、月の上限が5,700円上がります。負担増であることは、そのとおりです。
けれど、長く治療が続く人は「減ります」
ここが見落とされている点です。
今回の改定では、年間上限が新しく作られます。月ごとの上限に届かない月があっても、1年の合計が上限に達したら、それ以上は払わなくてよくなります。
さらに、多数回該当という仕組みがあります。12か月の間に3回以上上限に達した人は、4回目から上限が下がる制度です。
この金額は、44,400円のまま据え置かれます。
1か月あたりの医療費を100万円として、それが12か月続いた場合を計算してみます。
現在は、87,430円×3か月 + 44,400円×9か月 = 661,890円。
2026年8月以降は、月額上限が92,940円に上がります。それでも年間上限53万円で止まるため、530,000円です。
つまり約13万円、負担が軽くなります。
厚生労働省も試算を示しています。これまで多数回該当にならなかった人は、年57.3万円が53.0万円へ下がります。
極めて高額な医療を受けた人にいたっては、年76.7万円が53.0万円になります。年23.7万円の負担減です。
国が「保険とは何か」を思い出した改定です
厚生労働省は、今回の狙いをこう書いています。
「低所得の方の負担に配慮しつつ、主に療養期間が短期の方に追加のご負担をお願い」する、と。
短期で終わる人の負担は増え、長く続く人の負担は減る。言い換えると、破綻するリスクだけを手厚く守る方向に舵を切ったということです。
これは私が保険を選ぶ基準と、まったく同じ考え方でした。
「先進医療があるから」は、理由になりません
医療保険をすすめる側の、最後にして最大の根拠が先進医療です。
先進医療とは、有効性の評価が進んでいる段階の治療で、公的な健康保険の対象外になっているものを指します。高額療養費も効きません。
金額は確かに大きく、陽子線治療で約276万円、重粒子線治療で約315万円かかります。この事実は否定しません。
問題は、そこに月々の保険料を払う価値があるかどうかです。
先進医療は「卒業」していきます
先進医療は、効果が実証されると公的保険に移ります。そして先進医療の枠から出ていきます。
| 時期 | 公的保険に移った治療 |
|---|---|
| 2016年4月 | 陽子線治療=小児がん/重粒子線治療=骨軟部腫瘍 |
| 2018年4月 | 陽子線治療=前立腺がん・頭頸部がん/重粒子線治療=前立腺がん・頭頸部がん |
かつて先進医療の代表例として語られていた治療が、次々と公的保険の側へ移りました。
ここから分かることがあります。先進医療特約が守ってくれるのは、いつでも「まだ効果が確定していない治療」だけだということです。
効果が確かめられた瞬間に、その治療は高額療養費の世界へ移ります。特約の出番は、そこで終わります。
もうひとつ、数字を出します。2024年度に最も多く実施された先進医療は、不妊治療で使われる技術で89,316件でした。がん治療ではありません。
なお、粒子線治療のすべてが保険適用になったわけではありません。肺や消化管などを対象とする治療は、現在も先進医療のままです。そこは正確に書いておきます。
私が入っている保険と、切る保険
ここまで数字の話をしてきました。では、書いている本人はどうなのか。正直に並べます。
| 保険 | 私の状況 | 読者の方が考えるべきこと |
|---|---|---|
| がん保険 | 加入中。解約します | 貯金で上限額を払えるなら不要と考えられます |
| 貯蓄型の保険 | 満了が近いので受け取ります | 残り年数で判断が変わります |
| 掛け捨ての死亡保険 | 加入中。60歳まで | 扶養する家族がいる期間だけ必要です |
| 火災保険 | 加入中 | 借りている家なら賠償の備えが要ります |
| 自動車保険 | 運転しないので、借りるたびに加入 | 乗る人は対人無制限が前提です |
| 自転車の賠償 | 加入中 | 後述します。ここは要注意です |
がん保険については、失敗だと思っています。
入った当時の私は、2人に1人ががんになるという言葉を、入る理由として受け取りました。今は逆に読みます。2人に1人が当たるなら、それは保険として成り立ちません。
以前の記事から、一段絞り込みます
私は以前、14年間入っていた貯蓄型保険の記事で「保険は掛け捨てで最低限、増やすのはNISAで」と書きました。
あの書き方では、掛け捨てなら何でもいいと読めてしまいます。今回、そこを絞り込みます。
掛け捨てであっても、破綻しないリスクには要りません。私のがん保険も掛け捨てです。それでも切ります。
基準に当てはめると、必要なのは4つでした
基準に当てはめると、多くの人に必要なのは次の4つに絞られます。
自動車、火災、自転車、掛け捨ての死亡保険。
どれも共通点があります。自分の貯金では到底払えない金額が、一瞬で発生する可能性があるという点です。
いちばん抜けやすいのが、自転車です
自転車保険は、2025年10月時点で34都府県が義務化、10道県が努力義務としています。合わせて44都道府県です。
ところが加入率は、全国平均で62.7%にとどまります(国土交通省調査・2022年3月時点)。
不要な保険には入っているのに、義務化されている保険には入っていない。この逆転が、いま起きています。
原因のひとつは、たぶんここです。クレジットカードに付いていると思い込んでいるケースがあります。
調べてみると、個人賠償責任の補償は無料で自動的に付いてくるものではありません。多くは自分で申し込む有料のオプションです。三井住友カードの「ポケット保険」は、2025年1月7日に新規の受付を終了しています。
正直に書きます。私自身、自分がどの契約でカバーされているのか、いま確認しているところです。加入しているという記憶はあります。ただ、家族も対象なのか、上限はいくらなのかまでは即答できませんでした。
自転車の事故は、子どもが加害者になる例も少なくありません。家族が対象かどうかは、今日のうちに確認する価値があります。
保険は、資産が積み上がるまでの橋です
私の掛け捨ての死亡保険は、60歳で終わります。その後は入り直すつもりがありません。
理由は単純です。そのころには子どもが独立していて、資産もそれなりに積み上がっているはずだからです。守るべきものが減り、自分で払える額が増えます。
つまり保険とは、一生持ち続けるものではありません。資産が積み上がるまでの、期間限定の橋です。
そして橋は、渡り終えたら降りるものです。
ここに、この記事をお金のブログで書いている理由があります。保険を見直して浮いたお金を投資に回すと、資産が増えます。資産が増えると、必要な保険がさらに減ります。
減った分をまた投資に回せます。この循環に入れるかどうかが、長い目で見た差になっていきます。
浮いた保険料は、寝かせずにNISAへ
私の主軸はSBI証券ですが、用途で使い分けています。米国株まで視野に入れるならマネックス証券、少額から始めてサポートを重視するなら松井証券が有力です。どちらも口座開設・維持は無料です。
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まとめ
- 保険に入るかどうかは、確率ではなく起きたら破綻するかで決まります。確率が高いものほど、保険には向きません。
- がんの生涯罹患率は男性61.1%・女性50.1%ですが、高額療養費があるため破綻はしません。2026年8月からは年間上限53万円も加わります。
- 先進医療は効果が実証されると公的保険に移るため、特約が守るのは「まだ確定していない治療」だけになります。
まずは、ご自身の年収区分での上限額を調べてみてください。そのうえで、いま払っている保険料と見比べると、判断はかなりはっきりします。
私は今月、がん保険を解約します。14年かけて貯蓄型保険で学んだことを、もう一度、別の商品で確かめただけでした。
保険を売る人も、買う人も、悪意があるわけではありません。ただ、破綻しないものにお金を払い続けている——その一点だけは、自分で気づくしかないようです。
動画でも解説しています
この記事の内容を、9分19秒の動画にまとめました。数字を耳で追えるように作ってあるので、手が離せないときは音声だけでも大丈夫です。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品や保険商品への加入・解約を推奨するものではありません。制度の内容は2026年7月時点の公表資料に基づいています。保険や医療費の判断はご自身の状況に応じて行ってください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
