お金の使い方に正解はない、でも判定軸はある——服と装飾品は全部外れ、当たりは誰にも見せない部屋着でした【観客テスト】
今年の8月、私はこのブログに「お金の使い方に正解はありません」と書きました。それは今も変えません。
ただ、正解はないで止めてしまうと、レジの前で何も決まりません。
正解はない。でも、判定軸はある。私の場合それは「観客がいなくても、それをやりたいか」でした。この軸で自分の買い物を並べ直したら、結果がきれいに割れました。人に見せる服と装飾品は全部外れ。当たりは、誰にも見せない部屋着の短パンだけでした。
この記事で分かること
- 625人の銀行取引を調べた研究が見つけた、支出と満足度の関係
- 同じ「服」というカテゴリで、私の買い物が真っ二つに割れた理由
- 削るべき支出と、削ってはいけない支出の見分け方
- 買う前に自分にかける3つの問い
「正解はない」で止めると、レジの前で何も決まらない
お金の使い方に正解はありません。人によって効くものが違うからです。
私はそれを人生で損するお金の使い方【7つの罠】という記事で書きました。正解はないけれど、必敗法はある。だから避けるべき型を7つ並べました。
あの記事は間違っていません。ただ、足りませんでした。
避ける型が分かっても、目の前の一つを買うかどうかは決まらないからです。罠を避けた先に残った選択肢が10個あったとして、そこから先を決める道具がない。
今回はその続きです。避け方ではなく、選び方の話をします。
この記事の立ち位置
8月15日の記事=避ける型(何をやめるか)
この記事=選ぶ軸(残ったものから何を選ぶか)
どちらも「正解はない」という前提の上に立っています。立場は変えていません。
625人の銀行取引が示したこと
手がかりになる研究があります。
2016年、ケンブリッジ大学のサンドラ・マッツらの研究チームが『Psychological Science』という心理学の学術誌に発表した論文です。625人分、76,863件の銀行取引の記録を分析しました。銀行が持っている112の支出カテゴリを59に集約し、それぞれの人の性格と照らし合わせています。
性格の枠組みにはビッグファイブを使っています。心理学で広く使われる5つの因子で、開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向の5つを指します。
分かったこと
まず、人は自分の性格に合ったものにお金を使う傾向がありました。
- 外向性が高い人は、パブでの支出が年におよそ52ポンド多い
- 誠実性が高い人は、健康・フィットネスへの支出が年におよそ124ポンド多い
ここまでは、まあそうだろうという話です。大事なのは次です。
性格と支出が合っている人ほど、生活の満足度が高かった。しかもその関係は、その人の総収入や総支出よりも、満足度をよく説明していました。
研究チームはさらに追試をしています。参加者に書店かバーで使えるバウチャーを配り、どちらで使うかを指定しました。すると、外向的な人はバーで使ったときのほうが幸福度が上がっていました。相関を見ただけでなく、指定して差が出たということです。
この研究をどこまで信じるか
ここは正直に書きます。
この研究は2016年の発表です。対象はイギリスの、ひとつの銀行の顧客625人。日本人で同じ結果が出るとは、この論文だけからは言えません。
それから、先ほどの52ポンドや124ポンドは支出額の差であって、幸福度がどれだけ上がるかの数字ではありません。この2つを混ぜて「52ポンド使えば幸せになる」と読むのは誤りです。
私がこの研究から受け取ったのは、数字そのものではありません。お金の効き方を、金額ではなく「自分に合っているか」で見る発想のほうです。
世の中の言い方では、私の買い物が説明できない
お金の使い方について、よく言われることが3つあります。どれも私の実物には合いませんでした。
| よくある言い方 | 私の実物では |
|---|---|
| 節約しろ、支出を削れ | 削ることしか言っていない。何に使えばいいかは教えてくれない |
| モノより経験に使え | 私のいちばんの当たりは部屋着の短パン。モノです。この二分法では説明できない |
| 高い買い物は無駄 | 私の外れは、勢いで買った安い服のほうでした。当たりのほうが高い |
3つに共通しているのは、買うものの外側の属性で決めていることです。モノか経験か。高いか安いか。必要か贅沢か。
どれも、買う人の中身を見ていません。
同じ「服」で、結果が真っ二つに割れた
自分の買い物を思い出して並べてみます。
当たり:部屋着の短パン
ブランド物で、部屋着としてはかなり高い買い物でした。
履き心地と使い勝手が、とにかく良い。今はもう履き古してクタクタで、正直ボロボロです。それでも代わりが見つからないので、そのまま使っています。
これは良い買い物でした。
外れ:勢いで買った服と、装飾品
こちらは全部だめでした。無駄遣いの極みだったと思います。
私は途中から、同じ服を着回すいわゆるジョブズスタイルに切り替えました。その話は7つの罠の記事に書いたので繰り返しません。ここで大事なのは結果のほうです。
そう決めた瞬間に、服と装飾品がいらなくなりました。
惜しくもなんともなかった。それまで買っていたものが、決め方ひとつで丸ごと不要になったということです。
分かれ目は、カテゴリでも金額でもなかった
短パンも、外れた服も、同じ「服」です。カテゴリでは割れません。
当たりのほうが高い。金額でも割れません。
着る頻度でもない。どちらも毎日着ていました。
割れているのは、ひとつだけです。
観客がいたかどうか。
観客テスト
ここから、買う前に自分にかける問いを作りました。
観客テスト
誰も見ていなくても、それをやりたいか。
短パンは観客ゼロです。部屋の中でしか履きません。誰にも見せないのに、それでも良かった。だから当たりでした。
外れた服には、観客がいました。見せる相手を想定して選んでいた。だから、見せる必要がなくなった瞬間に価値がゼロになりました。
観客テストは、その支出が自分の満足のためのものか、他人の視線のためのものかを分ける道具です。
削る支出と、削ってはいけない支出
ここで、私が過去に書いたことと矛盾しないか、自分で点検しておきます。
私は格安SIMの記事で、20年間auに惰性で払い続けた通信費を晒しました。あのとき私は「規律のない支出を放置する人は、規律のある投資を続ける資格がない」と書いています。かなり厳しい言い方です。
その私が今回「短パンに高い金を払ってよかった」と書いている。矛盾に見えるかもしれません。
矛盾していません。削る対象と、伸ばす対象が別物だからです。
| 惰性の支出 | 意図の支出 | |
|---|---|---|
| 中身 | なんとなく続いている。決めた記憶がない | 自分で選んだ。理由を言える |
| 私の例 | 20年払い続けた携帯料金 | 部屋着の短パン |
| 観客テスト | そもそも問われたことがない | 通っている |
| どうするか | 削る | 削らない |
私が「規律がない」と言ったのは、金額のことではありません。決めていないことを言っています。
20年間、私は携帯料金について一度も決めていませんでした。決めないまま払い続けていた。そこに規律がなかった。
だから、規律とは締めることではありません。意図を持つことです。
見せびらかしの王様を、私は見せない理由で欲しがっている
ここからは、自分の話をします。
私にはずっと欲しい時計があります。パテック フィリップのノーチラスです。正規店で、定価で買う。それが私の北極星です。
買える金があって、定価で正規店で買えるなら、買います。
ただ、理由は人に見せるためではありません。
自分へのご褒美と、性能が合致しているからです。
完璧なデザイン。そして適度な手間。時間を自分のものにしている、という感覚を得るためのものです。
書いていて自分でも面白いと思うのですが、時計というのは世の中で最も見せびらかしに使われる商品です。腕に着けて外を歩く。人の目に入る。そういう作りになっています。
その王様を、私は見せない理由で欲しがっている。
そしてもうひとつ引っかかるのが「適度な手間」という言葉です。世の中の商品はたいてい、手間が省けることを売りにします。自動で動く、放っておいていい、考えなくていい。
私が欲しがっているのは逆です。手間があること自体を買おうとしています。
これは観客テストを完全に通っています。誰にも見せなくても、私はそれをやりたい。
念のため書いておくと
私は今これを持っていません。買える資金もまだありません。だから、これは自慢話ではなく、基準の話として読んでください。
そして、あなたの北極星が時計である必要はまったくありません。私にとってたまたま時計だっただけです。
観客テストを始めたら、買い物をしなくなった
ここが、正直いちばん予想外だったところです。
最近の私は、買い物のたびにこれを念頭に置いています。誰も見ていなくても、これをやりたいか。
その結果どうなったか。
買い物をしなくなりました。
「お金の使い方の質を上げよう」と言われたら、たいていの人は「もっと上手に使う」ことを想像すると思います。私もそう思っていました。
実際に起きたのは逆でした。問いをひとつ挟んだだけで、量のほうが減りました。
止めようとしたわけではありません。減らそうと決めたわけでもありません。ただ問いを挟んだら、通らないものが増えただけです。
一昨日、現金比率の記事の最後に、こう書きました。
仕分けて、忘れる。浮いた注意力は、お金の使い方の質に向ければいい。
その続きがこれです。注意力を質に向けると、量は減ります。
コントロールではなく、交渉にする
ここに、最近読んだ本の話を挟ませてください。
クリス・ヴォスの『逆転交渉術 まずは「ノー」を引き出せ』です。著者はFBIで人質交渉を担当していた人で、表紙だけ見ると物騒な本に見えます。
でも、中身は違いました。
普段の何気ないやり取りも、全部交渉だというのがこの本の立場です。自分に有利な条件をどう作るか。相手が自分に対していかにおかしい主張をしているかを、どう気づかせるか。そういう話が並んでいます。
私がいちばん面白かったのは、相手をコントロールするのではなく、交渉するという姿勢のところでした。
買い物は、自分との交渉になっている
これを買い物に当てはめると、腑に落ちることがあります。
買うかどうか迷っているとき、私たちは自分と交渉しています。そして自分に対して、けっこうおかしい主張を通そうとしている。
- これは投資だから
- セールだから、今買わないと損
- 頑張った自分へのご褒美
- いつか使う
他人に言われたら「それは苦しい」と思う理屈を、自分に対しては通してしまいます。
そしてもうひとつ。問いの立て方が、答えを決めています。
「これ、買っていいかな」と自分に聞くと、たいていイエスが出ます。そう聞いた時点で、イエスが出るようにできている質問だからです。
ヴォスは、まずノーを引き出せと言います。ノーのほうが安全で、相手の本音が出るからです。
観客テストは、まさに自分からノーを引き出すための問いです。「誰も見ていなくても、これをやりたいか」と聞かれると、見せるために買おうとしていたものは、そこで落ちます。
コントロールは、私の場合は続きませんでした
これは実体験があります。
私は以前、手取りが20万円に届かない頃に月5万円を貯めようとしました。貯蓄率でいうと25%です。1年で100万円は貯まりました。でも生活にゆとりがゼロになって、詰みました。その話は貯蓄率の記事に書いています。
あれは、自分をコントロールしようとして破綻した実例です。命令には反発が来ます。我慢は続きません。
観客テストが今のところ続いているのは、命令ではなく問いだからだと思っています。買うなとは言っていない。聞いているだけです。聞かれた自分が、勝手に気づく。
この記事のもとになった本
人質交渉の本に見えて、日常のやり取りの本でした。相手をコントロールしようとするのをやめて交渉にする、という視点が面白かったです。私が最近買ってよかったものの1冊です(価格は2026年8月29日時点)。
実践:買う前にかける3つの問い
観客テストを、その場で使える形にしておきます。レジの前で3つ聞くだけです。
| # | 問い | これで何が落ちるか |
|---|---|---|
| 1 | 誰にも言えないとしても、これを買うか | 見せるための支出。人に話したくて買うもの |
| 2 | 5年後も、まだ使っているか | その場の勢い。私の短パンはこれを通り続けている |
| 3 | 買う理由を、他人の名前を使わずに説明できるか | 「みんなが」「有名な人が」で支えている理由 |
3つ目が、いちばん効きます。
理由を説明しようとして、他人の名前しか出てこないなら、それは自分の理由ではありません。私が服を買っていたときが、まさにそうでした。
いつやるか
毎回やる必要はありません。私は変動費を見直すときに、月に1回まとめてかけています。
- 固定費は年に1回。家賃・保険・通信費など、決めたら動かないもの
- 変動費は月に1回。ここに観客テストをかける
買う前に毎回止まっていると、疲れて続きません。続かない仕組みは、私の場合すぐ壊れます。
今日の宿題(1つだけ)
直近3か月で買ったものを、頭の中から1つ選んでください。金額は問いません。
それに3つの問いをかけてみてください。
落ちたとしても、それは失敗ではありません。次に同じ型を買わずに済むという情報が1つ増えただけです。私は服と装飾品でこれを学びました。
まとめ
- お金の使い方に正解はない。この立場は変えていない。ただ「正解はない」で止めるとレジの前で何も決まらないので、判定軸を足した
- 2016年のマッツらの研究(イギリス・625人・76,863件の取引)では、性格と支出の一致が、総収入や総支出よりも生活満足度をよく説明した。ただし日本人で同じとは言えない
- 私の買い物は、同じ「服」というカテゴリの中で真っ二つに割れた。分かれ目は金額でもカテゴリでもなく観客の有無だった
- 削るべきは金額の大きいものではなく決めていないもの。規律とは締めることではなく、意図を持つこと
- 観客テストは自分をコントロールする道具ではなく、自分と交渉する道具。命令すると反発するが、問われると気づく
- そして質を上げようとすると、量のほうが減る
私の当たりは、ボロボロの部屋着の短パンでした。誰にも見せません。代わりも見つかりません。
そういうものが、たぶん一番いい買い物です。
あわせて読みたい
使い方から見直したい方へ
お金の置き場を決めたい方へ
固定費を削りたい方へ
出典:Matz, S. C., Gladstone, J. J., & Stillwell, D. (2016). Money Buys Happiness When Spending Fits Our Personality. Psychological Science. および University of Cambridge のプレスリリース「Spending for smiles: money can buy happiness after all」(625人・76,863件の取引、112カテゴリを59に集約、外向性とパブ支出 年約52ポンド、誠実性と健康・フィットネス支出 年約124ポンド)。
同研究はイギリスの一金融機関の顧客625人を対象とした2016年発表のものであり、日本の消費者に同じ結果が当てはまることを示すものではありません。本文中のポンド金額は支出額の差であり、幸福度の効果量ではありません。
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