「1000万円を貯めたい。だから、まず投資を始めよう」
数年前の私に一番言いたいのは、その順番が逆だということです。
最初の1000万円は、投資では作れません。
作るのは家計の黒字で、投資はその横を並走するだけです。
この記事では、年80万円の黒字がどれくらいの期間で1000万円になるのかを計算します。
運用を付けると何年縮むのか、到達したお金の何割が運用の成果なのか。
数字を全部出したうえで、それでも少額の投資を並走させたほうがよい理由まで書きます。
記事の途中には、あなたの家計で計算できる無料シミュレーターを置きました。
最初の1000万円は、投資では作れません
結論から書きます。
資産ゼロから1000万円までの区間で、運用が縮めてくれるのは2年半ほどです。
残りの時間を決めているのは、年間でいくら黒字を出せるかという一点だけです。
この記事では、その「年間でいくら残せるか」を入金力と呼びます。
給料の額そのものではなく、収入から支出を引いた残りのことです。
誤解のないように先に書いておきます。
これは投資を否定する記事ではありません。
投資の役割を、正しい位置に置き直すための記事です。
なぜ最初の1000万円だけ、話が違うのか
複利(利益がさらに利益を生む仕組み)は、元本が大きいほど効きます。
逆に言えば、元本が小さいうちはほとんど効きません。
資産が100万円のとき、年率5%で増える金額は5万円です。
月に5000円多く貯金するだけで、同じ金額に届きます。
種銭を作っている時期は、まだ運用より入金のほうが力が強いのです。
順番が逆になるのは、もっと先です。
年80万円の黒字は、何年で1000万円になるのか
ここから計算します。
使うモデルはこれです。
額面400万円の手取りは、独身・扶養なしでおよそ310〜320万円です。
ここでは手取り320万円・年間の生活費240万円という一例を使います。
差し引きで、年80万円の黒字です。
※あくまで一例です。年収も家族構成も人によって違います。ご自身の数字は、記事の後半にあるシミュレーターで計算してください。
貯金だけなら12.5年、運用しても約10年です
年80万円をそのまま貯金した場合、1000万円まで12.5年かかります。
1000を80で割るだけの、単純な割り算です。
ここに年率五パーセントの運用を足すと、約10年になります。
年率七パーセントまで上げても、約9.3年です。
| 運用の前提 | 1000万円までの年数 | 貯金だけとの差 |
|---|---|---|
| 貯金のみ(増えない) | 12.5年 | — |
| 年率五パーセント | 約10.0年 | 約2.5年の短縮 |
| 年率七パーセント | 約9.3年 | 約3.2年の短縮 |
10年以上かかる道のりのうち、運用が削ってくれるのは2〜3年です。
言い方を変えると、残りの10年分は入金力が決めているということになります。
次のグラフは、貯金だけの場合と年率五パーセントで運用した場合を並べたものです。
2本の線が離れはじめるのが、いつ頃なのかを見てください。
序盤の数年間、2本の線はほとんど重なっています。
差がはっきり開くのは7年目を過ぎてからです。
つまり、種銭を作っている期間のほとんどで、運用は結果に効いていません。
効きはじめた頃には、もう1000万円が見えているという順番です。
到達したときの中身は、8割が自分で入れたお金です
もうひとつ、意外な数字があります。
1000万円に届いた時点で、そのお金の内訳がどうなっているかです。
年率五パーセントで約10年かけた場合、自分で入れた元本は約796万円です。
運用で増えた分は約204万円にとどまります。
運用益の寄与は、年率五パーセントで約2割です。
年率七パーセントまで前提を上げても、約4分の1にしかなりません。
残りの7〜8割は、自分の手で入金した現金です。
「1000万円を運用で作る」という発想が成立しないのは、この配分のためです。
黒字の額を変えると、年数はどう動くか
年数を縮めたいときに、いちばん効くレバーは何か。
黒字の額を動かした場合の一覧です。
| 年間の黒字 | 貯金のみ | 年率五パーセント |
|---|---|---|
| 40万円(月約3.3万円) | 25.0年 | 16.6年 |
| 60万円(月5万円) | 16.7年 | 12.4年 |
| 80万円(月約6.7万円) | 12.5年 | 10.0年 |
| 100万円(月約8.3万円) | 10.0年 | 8.3年 |
| 120万円(月10万円) | 8.3年 | 7.1年 |
ここに、この記事でいちばん伝えたいことが出ています。
年80万円を年率五パーセントで運用しても10.0年です。
年100万円をただ貯金するだけでも、同じ10.0年です。
年利を上げる努力より、月2万円を多く残す工夫のほうが効きます。
そして後者は、相場に頼らず自分で決められます。
「少額投資は無意味」「自己投資に全振り」への答え
ここまでの計算を見ると、次の2つの意見が正しく思えてきます。
どちらもよく見かける考え方です。
「少額投資は無意味」——リターンを目的にするなら、そのとおりです
月1万円を年率五パーセントで運用しても、1年で増えるのは数千円です。
残業を1回すれば届く金額です。
ですから、リターンを目的にした少額投資は、たしかに割に合いません。
この点は否定しません。
それでも私は、少額でも並走させたほうがよいと考えます。
理由は目的が違うからで、次の章で書きます。
「投資より自己投資に全振り」——賛成です。ただし、投資ゼロの理由にはなりません
自己投資には賛成です。
資格でも学び直しでも、収入そのものを増やす効果は運用より大きくなり得ます。
私は以前、貯蓄率は「手取り÷5」でいいという記事を書きました。
そこで、賞与や残業代は貯蓄率の計算式の外に置き、自己投資に回してよいと整理しています。
ただし「自己投資をするから、金融投資はゼロでよい」とはなりません。
貯める・自己投資・金融投資は、どれかを選ぶ話ではなく配分の話です。
少額投資の目的は、リターンではなく「耐性」です
ここが、この記事でいちばん書きたかった部分です。
種銭を作っている時期に少額で投資をする目的は、増やすことではありません。
値動きするお金に慣れておくことです。
大金を貯めてから初めて相場に触れるのは、順番として厳しいと考えます
「貯めた実績は強い」「大金を作ってから投資を始めると、含み損に耐えられない」。
これはよく語られる考え方です。
私も同感です。
せっかく貯めた資産が減っていくのは、率直に言って苦痛です。
私は例外ではありません。
正直に書くと、私が普段あまり株価をチェックしないのも、その苦痛を避けるためです。
規律で耐えているというより、見ない仕組みにして耐えています。
※これは学術的に検証された話ではありません。私自身の実感として書いています。
私は、数十万円を動かすだけで怖かったのを覚えています
私の投資歴は18年です。
始めた頃はインデックス投資を知りませんでした。
インデックス投資とは、日経平均やS&P500など市場全体にまとめて分散する方法です。
当時の私は、個別株の一本勝負でした。
そのころ、数十万円を動かすだけで怖かったことを、はっきり覚えています。
ボタンひとつで売ったり買ったりできてしまうからです。
買った瞬間に株価が下がったこともあります。
あのときは、正直に言って売りたくなりました。
この「売りたくなる」という感覚を、金額が小さいうちに一度通っておく。
それが、少額期にしか払えないいちばん安い授業料だと考えています。
ただし、少額ほどギャンブルに寄りやすい点は注意です
少額投資には落とし穴もあります。
金額が小さいと「増えた実感が欲しい」という気持ちが出やすくなります。
そこで値動きの大きい商品に手を出すと、耐性を付けるつもりが逆の練習になります。
並走させるなら、地味なインデックス積立が向いています。
保有と推奨は別の話なので、分けて書いておきます。
| 私(Hiro)が保有しているもの | 種銭づくり期の方が検討しやすいもの |
|---|---|
| Vanguard S&P 500 ETF、通称VOO(米ドル建て)/Invesco QQQ Trust、通称QQQ | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称オルカン(円建て・新NISA対応) |
| 投資歴18年・米ドルの取引に慣れている前提の持ち方です | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)、通称スリムS&P500(円建て・新NISA対応) |
まとまった資金がなくても、実装の方法はあります。
株式のほうも1株から買えますので、少額で相場に触れる方法自体は用意されています。
そもそも怖くて始められないという方には、投資が怖くてNISAを始められない人へも合わせてどうぞ。
1000万円に達した日を、私は覚えていません
ここからは、数字ではなく体験の話です。
私が最初の1000万円に届いた日のことを、私は覚えていません。
ずいぶん前の話で、少しずつ個別株を買っていた時期と重なっています。
特別なことは、何も感じませんでした。
誰にも言っていません。
当時から「所詮は種銭だ」という感覚があったのだと思います。
通過点だったから、記憶に残らなかったのではないでしょうか。
その一方で、1年で100万円貯めたときは達成感がありました
不思議なもので、こちらははっきり覚えています。
手取りが20万円弱だった頃、月5万円を貯めて1年で100万円に届きました。
貯蓄率にすると25%です。
正直に書くと、生活にゆとりはまったくありませんでした。
このやりすぎた話は貯蓄率の記事に書いています。
それでも、達成感がありました。
金額は1000万円の10分の1なのに、こちらのほうが記憶に残っています。
この差が意味しているのは、たぶんこういうことです。
資産だと感じていたのは金額ではなく、貯められたという実績のほうだったのではないでしょうか。
動機は、くだらないほうがうまくいきます
当時、なぜそこまで貯めたのか。
理由は投資資金が欲しかったからですが、その手前にもう1つあります。
買いたい服が買えなかったからです。
店員にも相手にされないのが悔しくて、それで頑張って貯めました。
くだらない理由だと自分でも思います。
それでも当時は、それでよいと思っていました。
今はその服に手が届きます。
ただ、やはり高いのでめったに買いません。
このあたりの感覚は「買えるのに買わない」という記事にも書きました。
立派な目的でなくてかまいません。
目的があるから手段が続くという順番だけは、押さえておきたいところです。
闇雲に頑張っても、家計の黒字は続きません。
実践:黒字を作る → 先取りで固定する → 少額を並走させる
ここまでの話を、順番のある手順にします。
やることは3つと、避けることが1つです。
ステップ1:年間収支の黒字化を最優先にします
最初にやるのは、年間でいくら残せるかを把握することです。
収入から支出を引いて、プラスになっているかどうかだけを見ます。
ここがマイナスの間は、運用の話をしても意味がありません。
穴の空いたバケツに水を足す作業になるからです。
削る対象は、通信費や保険のような固定費から順にです。
一度決めれば毎月効き続けるからで、この記事では手法までは踏み込みません。
ステップ2:貯める額を先取りで固定します
黒字が見えたら、その金額を先に別口座へ動かします。
残った分で生活する形にすると、貯金は意志の力から外れます。
金額の決め方は、前に書いた式が使えます。
月の手取り(万円)÷5が、無理なく続けられる速度の目安です。
手取り20万円なら月4万円という計算になります。
ただし今回のモデルは、貯蓄率で言えば25%です。
÷5の式(20%)より速い設定になっています。
矛盾しているようですが、私の中では二層に分けています。
| 層 | 考え方 |
|---|---|
| 恒常の速度 | 手取り÷5。何十年も続ける前提の巡航速度です |
| 種銭づくりの期間 | 期間を区切って上げる、一時的なブーストです |
大事なのは、ブーストには期限を決めることです。
私は25%を期限なしで続けて、ゆとりのない生活になりました。
ステップ3:少額のインデックス積立を並走させます
黒字が固定できたら、その一部で積立を始めます。
目的はリターンではなく、値動きに慣れることです。
金額は、減っても生活が揺れない額で十分です。
月1万円でも、含み損の感触を知るには足ります。
並走させる口座を、まだ持っていない方へ
私のメイン口座はSBI証券で、その考えは今も変わりません。
ただ、新NISAのつみたて投資枠で投信を積むだけなら話は別です。
オルカンもスリムS&P500も、大手のネット証券ならどこでも買えます。
そのうえで選ぶなら、いずれ米国株や単元未満株(1株単位で買える仕組み)にも手を伸ばしたい方はマネックス証券。
はじめてで相談できる窓口が欲しい方は松井証券が向いています。
※私が使っているから皆さんも、という意味ではありません。用途で選んでください。
銘柄をどう選ぶかは、それだけで1本の記事になります。
迷う場合は新NISAの投信、結局どれ?にまとめてあります。
避けたいことは、ひとつだけです
手順の最後に、避けることを1つだけ書きます。
正直に言えば、種銭を作っている時期がいちばん苦しいです。
使えるお金が少なく、しかも増えている実感もありません。
それでも、生活防衛資金(失業や病気に備える現金。生活費の半年分が目安)を投資に回すことだけは避けてください。
ここを削ると、暴落のときに売らざるを得なくなります。
暴落で損を確定させる人は、暴落に驚いた人ではありません。
現金がなくて売らされた人です。
種銭づくりの時期にとって、これだけが致命傷になります。
あなたの家計で計算してみてください
ここまでの計算を、あなたの数字でできるようにしました。
手取りと生活費を入れるだけで、到達年数と内訳が出ます。
HIROPOSO SIMULATOR
最初の1,000万円まで、何年かかるか
手取りと生活費から年間の黒字(入金力)を出し、種銭づくりの道のりを計算します。
年間の黒字(入金力)を出す
320万円 − 240万円
80万円/年
月あたり約6.7万円。これがあなたの入金力です。
いつ目標に届くか
年間の黒字 × 年利の早見表(到達年数)
| 年利 | 年40万 | 年60万 | 年80万 | 年100万 | 年120万 |
|---|
主役は入金力です
到達したときの中身は、年利5%でもおよそ8割が元本=働いて貯めたお金です。運用は脇役として並走させ、値動きに慣れる期間として使います。
※ 年1回複利・入金は年末一括換算の概算です。税金・手数料・インフレは考慮していません。将来の運用成果を保証するものではありません。
関連書籍
「収入の10分の1を貯めよ」という一行だけで、この記事の内容はほぼ言い尽くされています。
100年前に書かれた本が漫画になったもので、種銭づくりの動機づけとしては今でもよく効きます。
まとめ:入金力が主役で、投資は並走です
- 資産ゼロから1000万円までの区間で、運用が縮めてくれるのは2年半ほどです。年80万円の黒字なら、貯金のみ12.5年が年率五パーセントで約10.0年になるだけです。
- 到達時点の中身は、7〜8割が自分で入れた元本です。運用益の寄与は年率五パーセントで約2割にとどまります。
- それでも少額で並走させる価値はあります。目的はリターンではなく、値動きへの耐性だからです。金額が小さいうちの含み損が、いちばん安い授業料になります。
まずは、去年1年で手元にいくら残ったかを1回だけ出してみてください。
その数字さえ分かれば、あとは記事の中のシミュレーターが年数を教えてくれます。
私は1000万円に届いた日を覚えていません。
覚えているのは、1年で100万円貯めたときの達成感のほうです。
先に育つのは資産ではなく、貯められるという自分への信頼のほうでした。
この記事は、シリーズの入口です
ここ数日、資産形成の「出口」の話を続けて書いてきました。
この記事は、その手前にある入口の話です。
積立投資の卒業ラインは、いくら貯まったら積立をやめてよいかを計算する記事です。
コーストFIREは、やめたあとも働き続けるという選び方の記事です。
どちらも、種銭ができた先の話になります。
この記事は、その種銭をどう作るかという一番手前を扱いました。
ここまでの内容は、動画にもまとめました。
5つの章に分けて、14分11秒です。
手が離せないときは、音声だけでも分かるように話しています。
あわせて読みたい
これから始める人へ
投資が怖くてNISAを始められない人へ|18年で学んだ「怖さとの付き合い方」
新NISA、満額360万円を急がなくていい——「使い切る人は3割以下」のデータ
種銭を作りたい人へ
貯蓄率は「手取り÷5」でいい——25%でゆとりを失った私の話
配当のお小遣いは1株から作れます
並走させる商品を選びたい人へ
新NISAの投信、結局どれ?
暴落で「売らされた」のは誰か
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。記事内のシミュレーションは年1回複利の概算であり、将来の運用成果を保証するものではありません。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
