「お金の使い方が上手い人」になりたいと思ったことはないでしょうか。
私は長いあいだ、その答えを探していました。
けれど、いくら探しても見つかりませんでした。
理由は単純で、万人に共通する正解が存在しないからです。
ブランド品を買って幸せになる人もいれば、虚しくなる人もいます。
同じ10万円でも、使う人によって値打ちは同じになりません。
だからお金の使い方は「計算」ではなく「アート」と呼ばれます。
ただし、正解がないことと、不正解がないことは別です。
この記事では、人生で損をするお金の使い方を7つの罠にまとめました。
7つを避けるだけで、使い方は勝手に上達します。
前日の記事では最初の1000万円をどう作るかを書きました。
今日はその続きで、作ったお金をどう使うかという話です。
お金の使い方に、正解はありません。でも「必敗法」はあります
結論から書きます。
上手な使い方は人それぞれですが、下手な使い方には共通点があります。
だから、成功する方法を探すより、必ず失敗する方法を避けるほうが早いのです。
将棋や囲碁の世界に「必勝法」はありません。
けれど「こう指したら必ず負ける」という手なら、はっきり分かります。
お金の使い方も、これとよく似た構造をしています。
増やし方は計算で決めました。使い方は決まりませんでした
私は投資歴18年です。
この18年、増やし方はほとんど計算で決めてきました。
米国債を買うかどうかは、税引後の利回りで判断しています。
インデックスファンド(市場全体に自動で分散投資できる金融商品)の選び方も同じでした。
信託報酬の差を30年分に引き伸ばして比べます。
数字を出せば、答えは勝手に出てきました。
ところが、使い方だけは計算で答えが出ませんでした。
「この買い物は、いくらの効用を生むか」を計算しても、意味のある数字にならないのです。
そこで私は、逆から考えることにしました。
正解が出せないなら、不正解を消していけばいいという発想です。
| 罠 | 何が起きるか | 抜け方 |
|---|---|---|
| 1 他人の目のために使う | 上には上がいて満足が来ない | 家族にしか見せられなくても買うか |
| 2 「もう少しあれば」と信じる | 期待が収入より速く膨らむ | 期待を意図的に低く保つ |
| 3 次の支出を無視する | 一つの買い物が連鎖を呼ぶ | 値札の後ろに続く支出まで見る |
| 4 「No」と言えるお金がない | 静かに自由を売り渡す | 数か月分の生活費を先に確保する |
| 5 豊かさを拒否する | 目的を達成しても切り詰め続ける | お金には旬があると知る |
| 6 快楽の設計を間違える | 贅沢が日常になり感動が消える | 頻度を落とし、満足の長さで選ぶ |
| 7 お金に人格を与える | 罪悪感か、額と自尊心の同一視 | お金は中立な道具だと戻す |
この記事の土台にした本
土台にしたのは『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』です。
著者はモーガン・ハウセル(米国の金融ライター。前作は世界で800万部売れています)。
訳は児島修さん、ダイヤモンド社から2025年11月に出ました。
前作は『サイコロジー・オブ・マネー』です。
訳者の児島さんは『DIE WITH ZERO』も訳しています。
「貯め方」の次に「使い方」を扱う流れは、このブログの順番とも重なります。
私がこの本を読んだのは、発売から少し経ってからでした。
読んで最初に思ったのは、刹那的な使い方はよくないということです。
そして、あとで書く「罠3」の話が、自分の買い方を実際に変えました。
この記事は本の要約ではありません。
要点を私の言葉と経験で7つに組み直したものです。
原典の深さは本でしか味わえないので、興味が出たら手に取ってみてください。
使いすぎる側の、3つの罠
7つの罠は、性質で3つに分かれます。
最初の3つは、使いすぎる方向に効く罠です。
罠1:他人の目のためにお金を使う
一番深く、一番多くの人がはまる罠です。
見栄のための高級ブランド。
SNSに載せるための買い物。
周囲に見せるためのステータス消費。
これらが罠である理由は、ゴールが自分の外にあるからです。
100万円の時計を買っても、隣に300万円の時計をした人が座れば、負けた感覚になります。
上には必ず上がいます。
他人との比較で使うかぎり、満足が訪れる日は来ません。
もうひとつ残酷な事実があります。
高級品を持つと注目された気がします。
けれど周囲が見ているのは高級品であって、あなたではありません。
賞賛だと思っていたものが品物への視線だと気づいたとき、残るのは虚しさです。
判定方法はとても簡単です。
「これが家族にしか見せられない物でも、買うか?」
YESなら、それは自分の本心です。買っていいと考えられます。
NOなら、それは他人の目のための支出です。
私はこの問いを、自分の目標にも当ててみました。
私には長く憧れている高級時計があります。
誰にも見せられず、家の引き出しにしまっておくだけでも、それを欲しいと思うか。
答えはYESでした。
だから私は、その目標を手放していません。
このあたりの話は投資のゴールは「つり革戦争」の終焉だったに書きました。
私にとってのゴールは、買うことではなく買えるのに買わない自由を持つことです。
罠2:「もう少しあれば」と信じる
「もう少し収入が増えれば満足できる」
「もう少し貯まれば不安が消える」
この考えは幻想です。
理由は、期待は収入より速く膨らむからです。
年収が上がれば、住む場所も付き合いも「当たり前」の水準が上がります。
お金があればあるなりの、無ければ無いなりの不安があります。
ゴールが自動的に遠ざかる競走になってしまうのです。
これは体験にも同じことが起こります。
奮発して高い宿に泊まるときは、その値段のぶんだけ期待して行くはずです。
すると部屋の小さな汚れひとつで、がっかりしてしまいます。
同じ体験でも、満足度を決めるのは体験の質ではありません。
事前の期待の高さのほうです。
処方箋は2つあります。
ひとつは、期待を意図的に低く保つこと。
もうひとつは、生活が良くなったとき、それを当たり前と思わずに感謝を感じることです。
罠3:一つの買い物が、次の買い物を呼ぶ
買い物の値段は、値札だけではありません。
買い物には、次の買い物を呼ぶ性質があります。
正直に書きます。
私が7つのうち一番はまっていたのは、この罠3でした。
いいバッグをひとつ買いました。
すると、それに釣り合う靴が欲しくなります。
靴を買うと、今度はその靴に合う上着が浮いて見えました。
「これを買うなら、これも買わなきゃ」の連鎖です。
厄介なのは、この連鎖が自分の欲望から出ていない点です。
出どころは、身に着けたものが呼び込む同調圧力のほうでした。
持ち物が、次の持ち物を要求してくるのです。
私はこの連鎖をやめました。
そして服は、いわゆるジョブズスタイルにしました。
同じ服で通す、という決め方です。
選ぶ手間が消えただけではありません。
釣り合わせのための買い物そのものが、まるごと消えました。
本を読んで実際に行動が変わったのは、私の場合ここでした。
この連鎖の終着点は、もっと重い場所にあります。
不要なものを手に入れるために、必要なものを危険にさらすことです。
住宅ローンのために残業を増やし、時間と健康と家族との夕食を差し出す。
手に入れたのは家で、失ったのは家で過ごす時間だった、という結末です。
値札の後ろに続く支出まで見てから、買うかどうかを決めてみてください。
使わなすぎる側の、2つの罠
ここからは逆方向の罠です。
使いすぎと同じくらい、使わなすぎにも罠があります。
罠4:「No」と言えるお金を残さない
収入の大半を使い込む生活は、静かに自由を売り渡しています。
貯えがないと、嫌な仕事にNoと言えません。
理不尽な扱いを受けても、会社にしがみつくしかなくなります。
逆に、数か月分の生活費があるだけで「その条件なら辞めます」と言えるはずです。
貯蓄が数万円増えるたびに、選べる選択肢がひとつ増えていきます。
どんな高級車に乗り、どんな高級スーツを着ていても、自由な時間がないなら、それは貧困です。
お金で買える最も価値のあるものは、モノではありません。
時間と選択肢のほうです。
この「Noと言えるお金」は、投資でもそのまま効きます。
生活費と投資のお金が同じ財布にあると、急な出費が引き金になって、下がった株を売る羽目になります。
仕組みの話は暴落で「売らされた」のは誰かに書きました。
いくら残すかで迷う場合は、貯蓄率は「手取り÷5」でいいが入口になります。
罠5:使うのが怖くて、自分の豊かさを拒否する
罠4の正反対にも、罠があります。
極端な節約で、自分の経済圏に見合った豊かさを拒否してしまうことです。
貯める習慣が強すぎると、目的を達成した後も貯め続けてしまいます。
子どもへの仕送りが終わったのに、まだ切り詰めている。
私はこれを「使えない病」と呼んでいます。
問題は、お金には旬があることです。
子どもと旅行に行けるのは、子どもが一緒に行ってくれる間だけです。
体力のいる挑戦ができるのも、体力があるうちに限られます。
若いうちのお金と、年をとってからのお金は、同じ金額でも引き出せる値打ちが違います。
使うべき時に貯め、貯めるべき時に使う。
この順番の間違いが、不幸の正体ではないでしょうか。
私自身、これは他人事ではありません。
配当をお小遣いとして使ってみた話を書いたのも、数字が増えるだけで一度も使っていなかったからです。
いくらまでなら使えるのかを計算したい場合は、取り崩しシミュレーターを置いてあります。
| 罠4(使いすぎ) | 罠5(使えない病) | |
|---|---|---|
| 口ぐせ | 今を楽しまないと損 | まだ足りない |
| 失うもの | 断る自由 | 使える時期 |
| 気づく瞬間 | 辞めたいのに辞められない時 | 目的が終わっても続けている時 |
| 処方箋 | 数か月分の生活費を先に確保する | 使う金額をあらかじめ決めておく |
罠4と罠5は両極端です。
答えはこの間のどこかにあり、それは自分で見つけるしかありません。
お金との距離を間違える、2つの罠
残る2つは、金額の大小ではなくお金との付き合い方の罠です。
罠6:快楽の設計を間違える
人は慣れの生き物です。
どんな贅沢でも、毎日続ければただの日常になります。
毎晩の高級ディナーも、数週間で普通の夕食に変わってしまうそうです。
だから贅沢は、たまにやるのが一番効きます。
普段は質素に暮らすからこそ、たまの贅沢が際立つのではないでしょうか。
贅沢の値打ちは金額ではなく、頻度の設計で決まります。
同じ理屈で、買った瞬間が満足のピークになる物より、使うたびに満足が続く物のほうが得になります。
高級バッグの快感は一瞬です。
けれど軽くて丈夫で長く使えるバッグの満足は、何年も続きます。
見た目の華やかさより実用性。
満足の「長さ」で選んでみてください。
罠7:お金に人格を与える
お金は、ただの中立な道具です。
ところが人は、お金に道具以上の意味を持たせて失敗します。
お金を悪やエゴの根源と考える人は、貯めることにも使うことにも罪悪感を覚えるはずです。
すると、道具をうまく扱えなくなってしまいます。
逆に、稼ぐ自分・貯める自分をアイデンティティの中心に置く人もいるでしょう。
この場合は、純資産の額を自分や他人の値打ちと結びつけてしまいます。
誇れるものがお金しかない人生は、しんどいのではないでしょうか。
数字だけで決めるのも、同じ罠の裏側です。
経済合理性だけで判断すれば、中古で済むものは全部中古が正解になります。
けれど人は、そこまで機械的にはできていません。
数字で考え、最後は感情も含めて判断する。
それが道具との正しい距離ではないかと考えています。
そして道具を正しく扱う人は、成功を全部自分の努力の賜物とは考えません。
人生にはコントロールできることと、できないことがあるはずです。
運の存在を認める人は他人に温かく、認めない人は冷たくなります。
お金への態度は、そのまま人への態度に表れます。
幸せの材料に、お金は入っていません
心理学者のカール・ユング(スイスの精神科医で、分析心理学の創始者)は、幸福の条件としてこんな要素を挙げたと言われます。
心と体の健康。
芸術や自然の美しさを味わえること。
やりがいのある仕事。
親しい人との関係。
人生の浮き沈みに向き合える考え方を持っていること。
この中に、お金そのものは入っていません。
お金は幸せの材料を買う助けにはなります。
けれど、お金と幸せはイコールではありません。
人間関係がゼロなら、贅沢は楽しめないはずです。
体調が悪ければ、どんな資産も意味を持ちません。
だから、お金の最も正しい使い方は将来の後悔を減らすことだと考えています。
何を後悔するかは人によって違います。
一人旅に行かなかったこと。
挑戦しなかったこと。
健康を後回しにしたこと。
一度、どんな人生を送りたいかを紙に書き出してみてください。
使うべき場所は、そこに書いてあります。
まず1つ、やめるだけでいい
7つ全部を今日から避けるのは無理です。
やることは2つだけにしてください。
1つ目は、7つの罠のうち自分が一番はまっているものを1つ選び、それだけやめることです。
全部やめようとしなくて大丈夫です。
1つ抜けるだけで、お金の使い方は目に見えて変わります。
下のチェックで、どれが一番痛いかを確かめてみてください。
7つの罠セルフチェック
当てはまるものにチェックを入れて、ボタンを押してください。
2つ目は、予算の範囲で新しい使い方を試すことです。
食わず嫌いと同じで、お金の「使わず嫌い」も損になります。
試して、合わなければすぐやめれば大丈夫です。
大切なのは何を買うかを知ることより、何が自分に不要かを知ることです。
試した数だけ、不要なものリストが育ちます。
| 私がやめたこと | あなたがやること | |
|---|---|---|
| 対象 | 罠3(釣り合わせの連鎖買い) | チェックで一番痛かった1つ |
| やめ方 | 服を同じ形で通すと決めた | 迷う場面を、先にルールで消す |
| 得たもの | 釣り合わせの買い物が消えた | 選ぶ手間と、その先の支出 |
まとめ
- お金の使い方に万人共通の正解はありませんが、必ず失敗する使い方には共通点があります。だから成功法を探すより、7つの罠を避けるほうが早いです。
- 罠は「使いすぎ」だけではありません。使えない病(罠5)も同じ重さの罠で、答えは両極端の間のどこかにあります。
- 7つ全部を直す必要はありません。一番はまっている1つをやめるだけで、使い方は目に見えて変わります。
まずは今日、7つの罠を上から読み返して、一番胸が痛かった番号を1つだけ選んでみてください。
選べたら、それをやめる方法を1行でメモしておくと確実です。
私の場合、そのメモは「釣り合わせで買わない」でした。
お金の使い方に、正解はありません。
両極端の間にある自分の答えは、罠を避けながら試して見つけるしかありません。
まずは1つ、やめることから始めてみてください。
ここまでの内容は、動画にもまとめました。
5つの章に分けて、13分30秒です。
手が離せないときは、音声だけでも分かるように話しています。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。記事内の図は関係を示すための概念図であり、実測データではありません。
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