サムスン営業利益19倍でも株価急落——「好決算なのに下がる」が起きる2つの理由【織り込みとレバレッジ】

営業利益19倍の最高益なのに株価が急落した理由を、下降する赤い株価チャートを前に冷静に解説する月城ミオ マーケット・相場分析

2026年7月7日の朝、韓国のサムスン電子(韓国最大の企業で、半導体メモリーの世界首位級メーカー)が、とんでもない決算を発表しました。4〜6月期の営業利益は、前年同期の19.1倍。金額にして約89兆ウォン、日本円でおよそ9兆円という、3四半期連続の過去最高益です。

ところが、その同じ日にサムスン株は暴落しました。

「史上最高の決算」と「株価の急落」が、なぜ同じ日に起きるのか。この記事は、投資を始めて最初にぶつかる「好決算なのに株価が下がる」という謎を、今回のサムスンショックを教材にして、いちばん基礎から解きほぐすものです。

結論:営業利益19.1倍でも、株価は下がります

先に結論から言います。決算が良ければ株価が上がる、という考え方は、投資を始めて最初に捨てるべき思い込みです。

7月7日、サムスン株は寄り付きから売られ、一時は9%を超える下落となりました。韓国の代表的な株価指数であるKOSPI(コスピ。日経平均の韓国版だと思ってください)は一時マイナス8.07%まで沈み、その日の午後にはサーキットブレーカー(相場が急落したときに取引を強制的に止める安全装置)が発動しました。今年に入って、実に6回目の発動です。

前年比19倍の最高益を出した会社の株が、その発表日に9%安。数字だけ見れば、意味がわからないはずです。

この「わからなさ」には、2つの答えがあります。

  • 理由その1:株価が見ているのは「決算の数字」ではなく、「期待との差分」だから。
  • 理由その2:今回はもう一つ、借金で株を買っていた人たちの投げ売りが、業績とは無関係に下げを増幅したから。

暴落の日に、自分が慌てて売らずに済むための「自分の側の構造」は、別の記事にまとめました。この記事はその反対側です。「では、いったい誰が・なぜ売っているのか」という、市場の側の仕組みの話をします。ここが腑に落ちると、ニュースの見え方がまるごと変わります。

株価が見ているのは決算ではなく「期待との差分」

まず理由その1、「期待との差分」から説明します。

今回のサムスンの決算、実は市場の事前予想は85兆〜87.3兆ウォンあたりでした。発表された実績は約89.4兆ウォン。予想を上回っているのです。上回ったのに、なぜ売られるのか。

ここに、株価という仕組みの本質があります。

株価とは、今の会社の価値をそのまま映したものではありません。未来の価値まで含んだ「今」の値段です。だから、良い決算が出るとわかっているなら、その良さは発表される前から、じわじわと株価に先に織り込まれていきます。この「未来の予想がすでに株価に入っている状態」を、相場の世界では織り込みと呼びます。

つまり、発表の日にはもう「良い決算が出る」ことは値段に入り終わっている。だから当日は、決算そのものではなく「事前の期待と、実際の数字とのズレ」で動くのです。期待をどれだけ超えたか、あるいは届かなかったか。株価が反応するのは、そこだけです。

同じ「最高益」でも、株価の反応は逆になる 期待 < 実績 実績 期待の線 株価は上がる ▲ 期待 > 実績 実績(最高益) 期待の線(欲で高い) 株価は下がる ▼
同じ「過去最高益」でも、事前の期待の線を超えたか下回ったかで、株価の反応は正反対になります。

ここで私が一番こわいと思っているのは、この「期待の線」の正体です。

市場の期待というと、なんだか客観的な数字のように聞こえます。でも実際には、その期待には、期待する人それぞれの「欲」が紛れ込んでいます。「もっと上がってほしい」「今度こそ大化けするはずだ」——そういう気持ちが積み重なって、期待の線は本来あるべき高さよりも、勝手に吊り上がっていきます。

だから、19倍という現実離れした利益ですら、欲で膨らんだ期待の線には届かないことがある。今回のサムスンは、まさにそれでした。数字は文句なしなのに、心の中の期待がそれ以上だったのです。

これは、個別株投資の難しさの核心でもあります。個別株で勝つには、業績を当てるだけでは足りません。業績と、市場が勝手に抱いた期待とのズレまで当てないといけない。二重に難しいのです。私が個別株の深追いをやめて、指数まるごとに投資するインデックス投資に軸を移したのは、この「期待を当てるゲーム」から降りたかったから、というのが正直なところです。

もう一つの犯人:「あるはずのないお金」が売っていた

理由その2に進みます。今回のサムスンショックには、決算とはまったく別の、もう一人の犯人がいました。借金で株を買っていた人たちの、投げ売りです。

韓国では2026年5月27日、ある新しい金融商品が上場しました。単一銘柄レバレッジETFと呼ばれるものです。レバレッジ(てこ)とは、借金と同じ仕組みで値動きを何倍かに増幅させることを指します。この商品は、サムスンやSKハイニックスといった1銘柄の日々の値動きを、2倍にして反映します。8つの運用会社から16本が一気に登場しました。

これに、韓国の個人投資家のお金が殺到しました。保有者の約92%が個人です。ところが上場からわずか1ヶ月で、これらの商品の成績は平均でマイナス26.8%。2倍で儲かるということは、下げるときも2倍で損をするということです。値下がりが始まると、増幅装置は逆回転を始めます。損を抱えた人が投げ、その投げが株価をさらに下げ、また次の投げを呼ぶ。7月7日の急落は、この連鎖が最大級に噴き出した日でした。

事態を重く見ているのは、規制する側です。韓国の金融庁にあたる金融監督院のトップは、この商品の承認について「体を張ってでも阻止すべきだったかと後悔している」とまで発言しました。韓国銀行(韓国の中央銀行)も7月5日、「市場の集中を深め、変動性を増幅する」と公式に警告しています。野党・国民の力の安哲秀(アン・チョルス)議員(元大統領候補としても知られる政治家)に至っては、「KOSPIはカジノと化した」と述べ、上場廃止を含む是正を求めました。

そもそも韓国市場は、サムスンとSKハイニックスのわずか2銘柄で、KOSPI全体の時価総額の55.3%、売買代金の63.5%を占めるという、極端に偏った構造です(韓国取引所のデータによる、6月24日時点)。そこへ2倍の増幅装置が乗ったのですから、揺れが大きくなるのも当然でした。

ここで押さえてほしいのは、こういうことです。7月7日の急落は、サムスンの業績が壊れたから起きたのではありません。借金で買っていた人が、耐えきれずに投げただけ。決算の中身とは、まったく別の力です。良い決算という「期待との差分」の話に、この「借金の投げ売り」という別の下落要因が重なって、あの9%安が生まれたのです。

現物の最悪は「ゼロ」と決まっている。信用の最悪は、決まっていない

ここまで読んで、「レバレッジって、そんなに危ないのか」と思った方へ。私が投資を18年続けてきて、信用取引やレバレッジを一度も使わずにきた理由を、正直にお話しします。

実は、何か大きな事件を見て懲りた、という体験があるわけではありません。使わないという結論は、算数だけで最初から出ていました。

レバレッジというのは、手元にない「あるはずのないお金」で取引する行為です。大きなリターンを狙うということは、その狙った分だけ借金を背負うということと同じ意味です。そして相場が逆に動けば、追証(おいしょう=追加で差し入れる保証金)を払わされる。最悪の場合、投資した額を失うだけでは終わらず、借金が残ります。

一方、現物——つまり自分のお金だけで株や投資信託を買うやり方は、どうでしょう。どんなに株価が下がっても、最悪でゼロで止まります。マイナスにはなりません。持っている株の価値が消えることはあっても、そこから先、あなたの財布から追加でお金がむしり取られることはない。

下がったとき、どこで止まるか ゼロ(元本ぶんの損まで) 現物 ここで止まる 最悪でも0 信用・レバレッジ ゼロを突き抜けて借金へ(下限なし)
現物の損には「ゼロ」という底があります。信用取引には、その底がありません。

この違いが、私にとっては決定的でした。現物の損には「ゼロ」という底がある。信用の損には、底が決まっていない。上限の魅力より、下限が決まっていないことの恐ろしさのほうが、私にはずっと重く感じられるのです。だから、使わない。それだけの話です。

今回、韓国で投げ売りをしていたのは、この「底のない側」に立っていた人たちでした。彼らが売らされていく様子は、私が18年前に机の上の算数で避けようと決めた光景が、国家規模で実演されているようにも見えました。

あなたのS&P500にも、今週の下げは入っています

「韓国の半導体の話でしょう。自分はオルカンやS&P500だから関係ない」——そう思った方こそ、ここを読んでください。

今回の下げは、韓国だけの話ではありませんでした。アメリカのメモリー大手Micron(マイクロン。詳しくはMicronとは何の会社かを解説した記事にまとめています)も、6月24日に売上が前年比プラス346%という桁違いの決算を出した直後に急騰し、その後1週間で株価が2割近く急落しました。日本のキオクシアも、サムスン株急落の波及を受けて7月7日に一時11%を超える下げとなり、日経平均は翌8日に1,437円安で6万7,000円を割り込んでいます。

そして、ここが大事なところです。もしあなたがS&P500やオルカン(全世界株式)を持っているなら、あなたは知らないうちに、このMicronの株主でもあります。指数の中に、しっかり組み込まれているからです。だから今週の半導体安は、あなたの資産の中にも、確かに入っています。

でも——ここからが決定的な違いです。あなたはMicronを、借金で買ってはいません。生活費と同じ財布から買ってもいないはずです(このあたりは暴落で売らずに済む構造の記事で詳しく書きました)。だからあなたは、期待の逆回転が終わるまで、じっと待てる側にいます。

同じ下げを浴びていても、借金で買った人は投げ売りを強いられ、指数を淡々と積み立てている人はただ持っていられる。浴びている雨は同じでも、立っている場所がまるで違うのです。

織り込み済みでも、辛いのは人のサガです

正直な話をします。今週、私自身が持っているVOOやQQQ(どちらもアメリカの株価指数に連動するインデックス投資の代表的なETF)も、大きく下がりました。

ただ、私は含み損がいくらになったかを、計算していません。金額を数えていないのです。

インデックスの長期投資というのは、上がったり下がったりを繰り返しながら、長い目で見て上昇していくのを狙うものです。ここまで大きく上げてきたのだから、どこかで下げるのは織り込み済み。そういうものだと、最初からわかって続けています。

とはいえ——わかっていても、下がれば辛いのは、人としてのサガです。ここは正直に書きます。「暴落はチャンスです」と、平気な顔をするつもりはありません。含み益が削られていくのを見るのは、やっぱり気分のいいものではない。

でも、特にどうということはない、というのも本当のところです。辛さは感じても、やることは変えません。いつも通り、決めた額を定期的に積み増す。それ以外、何もしない。それが正解だと思っているし、一喜一憂する話ではないと考えています。

消せるのは、感情ではありません。消せるのは、行動のほうです。辛いという感情はそのまま持っておいて、それでも売らない・慌てないという行動だけを守る。感情と行動を切り離すこと——これが、長く市場に居続けるための、いちばん地味で確実なコツだと私は思っています。

まとめ:良い決算に飛びつく前に

今回のサムスンショックが教えてくれたことを、整理します。

  • 株価は決算そのものではなく、「事前の期待との差分」で動きます。19倍の最高益でも、欲で吊り上がった期待に届かなければ売られます。
  • 7月7日の急落は業績が壊れたからではなく、レバレッジ(借金)で買っていた人の投げ売りが増幅した結果でした。決算とは別の力です。
  • 現物の損には「ゼロ」という底がありますが、信用取引には底がありません。この非対称が、私が18年レバレッジを使わない理由です。
  • 指数を持つあなたにも今週の下げは入っていますが、借金でも生活費でも買っていないなら、あなたは待てる側にいます。

「好決算だから買い」でも「暴落だから売り」でもなく、まず自分がどちら側に立っているかを確かめる。借金ではなく現物で、課税口座ではなく非課税のNISAで、そして生活費とは分けた余裕資金で持つ。この3つが揃っていれば、ニュースがどれだけ騒がしくても、あなたは淡々と積み立てを続けられます。

私が使っているネット証券を、用途別に挙げておきます。どれも米国株や投資信託を非課税のNISA口座で、現物で買える証券会社です(私の主軸はSBI証券ですが、保有は推奨とは別物です。ご自身の設計で選んでください)。

米国株・投信を現物・NISAで買える主要ネット証券(用途別)

米国株・投信の情報が厚いマネックス証券、サポートが手厚く少額・相談向けの松井証券、外国株の取扱いが広いサクソバンク証券という並びです(保有≠推奨。ご自身の設計で選んでください)。

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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。数値は2026年7月上旬時点の報道等に基づきます。

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。