キオクシア急落で「売らされた」のは誰か——暴落で売らずに済む人が持つ、2つの構造【信用取引と家計】

黒いセーラー服の月城ミオが暗い相場チャートを背景に腕を組んで落ち着いた表情で立つ。暴落で株を売らされる2つの構造(信用取引の追証と生活費との距離)を解説する記事のアイキャッチ。 投資戦略・制度

2026年7月2日の木曜日、キオクシア(半導体メモリの大手)の株価は1日で13%下落しました。日経平均株価も1,741円安。この日、X(旧ツイッター)のタイムラインは「損切りしました」「追証(おいしょう)が来た」という投稿で埋まりました。

ところが翌7月3日の金曜日、キオクシアは反発し、日経平均は1,010円高と急反発しました。木曜に売った人は、その戻りをただ見ているしかなかったのです。

売った人は、意志が弱かったのでしょうか。私はそうは考えません。彼らは「売らされる構造」の中にいただけです。この記事では、暴落の日に「売らされる側」へ回らないための、2つの構造をお話しします。

結論:売るか売らないかは、度胸ではなく「構造」で決まる

まず結論からお伝えします。暴落で株を手放してしまうかどうかは、あなたのメンタルの強さでは決まりません。あなたが置かれている「構造」で、ほぼ決まります。

ここで言う構造は、2種類あります。

1つ目は「取引の構造」です。信用取引(証券会社からお金を借りて、自己資金以上の株を売買する取引)を使っていると、株価が下がったときに、自分の意志とは関係なく強制的に売らされます。

2つ目は「家計の構造」です。生活費と投資のお金を同じ財布で管理していると、急な出費が出たときに、下がっている株を売る羽目になります。

逆に言えば、この2つを避けるだけで「売らずに済む側」に立てます。具体的には、次の3点です。

構造 売らされる人 売らずに済む人
取引の構造 信用取引(借金)で買う 現物(自分のお金)で買う
家計の構造 生活費と投資が同じ財布 銀行ごと分け、生活防衛資金に手を付けない
売らされる人と売らずに済む人を分ける「2つの構造」

順番に、なぜそうなるのかを見ていきます。

取引の構造:追証は「持ち続ける自由」を奪う

まず1つ目、取引の構造です。キオクシアの急落で損切りした人の多くは、信用取引を使っていました。なぜ信用だと売らされるのか。「追証」という仕組みがあるからです。

追証とは何か

信用取引では、証券会社に担保(保証金)を預けて、その約3.3倍までの株を売買できます。100万円あれば、330万円分の株を動かせる計算です。

ただし、株価が下がって担保の価値が一定の水準(維持率20%)を割り込むと、追証が発生します。決められた期日までに追加のお金を入れるか、株を決済するかを迫られます。入金できなければ、証券会社が強制的に決済(強制ロスカット)します。

項目 内容
預ける担保 建てる株の30%以上
使える倍率 自己資金の約3.3倍まで
追証の発生 維持率が20%を割ったとき
払えないと 証券会社が強制決済
信用取引の追証の仕組み(出典:マネックス証券・松井証券・SMBC日興証券の各解説ページ)

現物には「待つ」という選択肢がある

ここが決定的な差です。現物取引(自分のお金だけで買う取引)なら、株価がどれだけ下がっても「持ち続ける」という選択肢が、自分の手の中にあります

信用取引は違います。下がった瞬間、その選択肢は証券会社に握られます。「もう少し待てば戻るかもしれない」と思っても、追証が来た瞬間に、待つ自由は消えます。

私はこれまで、仕組み預金や一部の証券会社について「出口の自由度」という言葉で注意を促してきました。信用取引も同じです。入口は3.3倍の魅力、出口は他人が握る。これが信用の怖さです。

私自身は、投資歴18年で信用取引を一度も使っていません。良い悪いの話ではありません。プロは使いこなしています。ただ、外したときの痛みが大きいので、私は「使わない作戦」でやっています。よく聞くのが、空売り(株を借りて先に売り、下がったら買い戻す取引)を狙って逆に急騰し、損失が膨らんだという話です。持っていた株が下がっただけなら損切りで済みますが、信用だと、それ以上の痛みが発生します。

7月3日の反発を、指をくわえて見るしかなかったのは、木曜に強制決済された人たちでした。

家計の構造:現物のあなたにも「追証」は来る

ここからが本題です。「自分は信用なんてやっていないから関係ない」と思った方こそ、読んでください。

信用取引をしていなくても、あなたにも”追証”は来ます。それが2つ目の「家計の構造」です。

生活費と同じ財布だと、暴落の日に売る羽目になる

投資のお金を、生活費と同じ財布から出しているとします。ある日、急な出費が発生しました。車の修理、家族の医療費、失業。生活費が足りなくなったとき、あなたは何をしますか。株を売って現金を作るしかありません。

それが高値のときならいいのです。問題は、そういう出費は、往々にして相場が悪いとき、つまり株が下がっているときに重なることです。下がっていても、売る羽目になる。これは信用の追証と、構造としてまったく同じです。

私が「投資する金がない」と言い続ける理由

では、どうするか。答えは1つ、完全に分けることです。

私は普段から「投資に回す金がない」と言っています。これは、投資用のお金と生活費を、きっちり分けているからです。生活費から出せないわけではありません。ただ、生活費から出すと、いざというときに株を売る羽目になる。だから、明確に分けます。

具体的な方法は、銀行そのものを分けることです。生活費の銀行と、投資の銀行を別にする。口座を分けるより、銀行ごと分けたほうが、心理的にも混ざりません。

そして鉄則があります。半年から1年分の生活費と、使う用途が決まっているお金には、絶対に手を付けない。この「触らないお金」があるからこそ、暴落が来ても株を売らずに済みます。締めた貯金は、暴落のときの弾薬になります(この考え方は「貯蓄率は手取り÷5でいい」でも書きました)。

コロナ暴落の日、私が買えた本当の理由

2020年3月、コロナショックで世界の株価が暴落しました。私はこのとき、VOO(アメリカのS&P500という株価指数に連動するETF)を買い増しました。

よく「暴落で買えるなんて、度胸がありますね」と言われます。でも、正直に言えば、怖くなかったと言えば嘘になります。私が買えたのは、度胸があったからではありません。

ただ、下がっていたから買っただけです。

生活費と投資のお金を、完全に分けていました。だから、暴落の日も、生活は1ミリも揺れませんでした。分離してあった投資用の資金を、淡々と突っ込んだだけです。

つまり、私の「絶望は買い」という哲学は、性格の産物ではなく、構造の産物だったのです。生活と切り離されたお金だから、下がっても待てるし、買える。この順番を、多くの人が逆にしています。

前日に公開した「あなたの年金が41兆円稼いだ」でも書きましたが、私たちの年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が強いのは、制度として「売らされない構造」を持っているからです。個人も、家計の設計で、同じ構造を自分で作れます。

それでも売りたくなる、あなたへ

ここまで構造の話をしてきましたが、最後に感情の話をします。

売りたくなるのは、普通のことです。下がったときは、怖くて、安心を求めて、利益を確定したくなる。これは人間として自然な反応で、責められるものではありません。

ただ、覚えておいてほしいことがあります。個別株なら、下がり続けることもあります。しかしインデックスファンド(市場全体に自動で分散投資する商品)は、基本的に右肩上がりに設計されています。多少の下げは、最初から織り込み済みです。

そして、いちばん大事なこと。皆が怖くて売ってしまう中で、自分はじっと耐える。その頑張りが、報酬になります。人と同じことをしていては勝てないのが相場です。下落に耐えた人だけが、平均以上のリターンを受け取れる。これがリスクを取ることへの対価です。

どうしても不安なら、方法は2つ

それでも夜も眠れないほど不安なら、方法は2つです。

1つは、投資額を下げること。金額が小さくなれば、値動きの怖さも小さくなります。もう1つは、その金額で続けたいなら、日々の結果を見ないことです。

「亡くなった人や、口座を忘れていた人のリターンが一番良かった」という有名な話があります。ただ、これを調べると、実は一次情報が確認できない逸話でした。私は、出どころのわからない話を事実のように書きたくありません。

その代わり、実在する研究をお見せします。アメリカの研究者バーバーとオディーンが1991〜1996年の66,465世帯を調べたところ、最も売買が多かった層の年利は11.4%、市場平均は17.9%でした。売買すればするほど、リターンは市場に負けていたのです。

売買が最も多い層 年利 11.4% 市場平均 17.9% 平均的な世帯 16.4%
売買が多いほどリターンは市場に負ける(出典:Barber & Odean, “Trading Is Hazardous to Your Wealth”, Journal of Finance 2000)

触らないことが、最強の戦略になり得る。これは、逸話ではなくデータが語っています。

今は上げ相場。だからこそ、構造をつくる日

私は6月28日の記事で、「キオクシアの過熱は現代版のPER(株価の割高さを測る指標)だ」と書きました。その4日後に、キオクシアは13%下げました。

上がったものは、落ちます。いわゆるイナゴタワー(人気に群がって急騰し、群れが去ると急落する現象)です。株式相場で「上がり続ける」という話を、私は聞いたことがありません。

ここで大切な考え方があります。狙っていた株を買えなかったとき、私は「儲けそこなった」とは思いますが、「損した」とは思いません。儲けそこないは、実際の損失ではないからです(この話は「SpaceX上場1週間の現実」でも書きました)。次の機会を待てばいいだけです。

信用取引に、訳もわからず手を出すのは、私はおすすめしません。下げ相場で焦る気持ちならまだわかります。でも、今は上げ相場です。焦って借金でレバレッジ(てこ)をかける局面ではありません。

本物の暴落は、いつか必ず来ます。そのとき、売らされる側ではなく、買える側に立つ。そのための準備は、今日、銀行を分けることから始められます。分けてみて投資に回すお金がないなら、答えはシンプルです。稼いでくるしかありません。

低コストのインデックスを買うなら、ネット証券で

私の主軸はSBI証券ですが、証券会社は用途で使い分けるのが合理的です(保有=万人への推奨ではありません)。米国株・個別株にも幅を利かせたいならマネックス証券、少額から相談しながら始めたいなら松井証券が候補です。どちらもNISAのインデックス投信を実質0円で買えます。より幅広い外国株まで触りたい方は、サクソバンク証券も選択肢になります。

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まとめ:構造を持つ者が、暴落を味方にする

今回は、暴落で株を手放してしまう理由を、意志や知識ではなく「構造」から見てきました。

  • 暴落で売らされるのは、意志が弱いからではなく「取引の構造(信用・追証)」と「家計の構造(生活費との距離)」の中にいるからです。
  • 売らずに済む3点セットは、現物で持つ・銀行ごと分ける・半年〜1年分の生活防衛資金に手を付けない、です。
  • 売買が多いほどリターンは市場に負けます。触らずに耐えた頑張りが、そのまま報酬になります。

まずは、生活費の銀行と投資の銀行を分けるところから始めてみてください。たったこれだけで、次の暴落であなたが立つ側が変わります。

暴落は、構造を持つ者にとってだけ、味方になります。


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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。

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この記事を書いた人
hiro

投資歴2007年から約18年。VOO・QQQ・金(GLDM)・eMAXIS Slim S&P500・オルカン・個別株を保有。「絶望買い×インデックス投資」で暴落局面こそ買い増すスタイル。長期的なアメリカ経済への信頼を軸に運用しています。AI×投資で資産運用ツールを開発中。完成次第フリーで公開予定。

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