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9月28日、エヌビディア(NVIDIA)が自社株買いの枠を1,500億ドル(約24兆円)増やすと発表しました。枠の増額としては過去最大で、2028年1月期までに使う予定の残り枠は2,350億ドル(約37兆円)になりました。
同じ週、9月29日の記事で、AIを作る会社が同じ朝に値下げをしたと書きました。作る側が値下げ競争に入った一方で、そのAIを動かすチップを売る会社は、手元に余る現金を株主に返すと言ったわけです。
株主への還元には、配当と自社株買いの2通りがあります。エヌビディアの還元は、そのほとんどが自社株買いです。そして、オルカンやS&P500を持っている人は、エヌビディア株を1株も買わなくても、この還元を受け取る側にいます。私もエヌビディアを個別では持っていませんが、受け取る側です。どう届くのかを書きます。数字は2026年9月29日時点で確認したものです。
結論:自社株買いは、配当と違う道で届く
- 配当は現金で届き、受け取るたびに税金を通る。自社株買いは株数が減る形で、1株の取り分(株価)として届き、売るまで税金を通らない
- エヌビディアの還元の約86%は自社株買い。配当利回り(約0.44%)だけを見ると、還元の大半を見落とす
- ただし、自社株買いが株主に得かどうかは「いくらで買うか」で決まる。その判断を、私はしない。だから個別では選ばない
何が発表されたか
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 追加した枠(9月28日) | 1,500億ドル(約24兆円)。枠の増額として過去最大 |
| 残り枠の合計 | 2,350億ドル(約37兆円)。2028年1月期までに実行する見込み |
| 比べる数字 | アップルが2024年5月に追加した枠は1,100億ドル |
| 7月末の現金・現金同等物 | 224億ドル(短期の債券を含めて566億ドル) |
| 今年度上半期の自社株買い | 398億ドル。前年度1年分(404億ドル)とほぼ同じ額を半年で使った |
| 配当 | 2026年5月に1株四半期0.01ドル→0.25ドルへ増配。年1.00ドル、利回り約0.44% |
| 発表日の値動き | S&P500は−0.77%、エヌビディアは+1.7%(終値228.86ドル) |
表:エヌビディアの自社株買いの発表と、四半期報告書(10-Q)の数字(円換算は日本経済新聞の表記に合わせた目安)
手元の現金は224億ドルなので、2,350億ドルの枠の大半は、これからの稼ぎで払う前提です。8月26日の決算説明会で、同社の最高財務責任者(CFO)は2028年1月期の売上高について約70%の成長を示しました。文書で出した会社予想ではなく、説明会での発言です。
日本経済新聞は9月29日、この発表を「成熟するNVIDIA」という見出しで報じました。成長企業が使い道より多い現金を返し始めた、という読み方です。
「4.3%」は、取り分が4.3%増えるという意味ではない
2,350億ドルは、9月28日の時価総額(約5.53兆ドル)の約4.3%です。ここから「株主の取り分が4.3%増える」と読みたくなりますが、そうは言えません。
- 株価が上がれば、同じ金額で買える株は減ります。平均200ドルで買えば11.75億株、300ドルなら7.83億株。約3分の1少なくなります
- 社員への株式報酬で、株は増えもします。今年度上半期には、社員向けに6,900万株が新しく出ています
- 枠は「上限」で、全部使う約束ではありません
言えるのは、9月28日の株価なら、最大で4%余りの株を買える枠を用意したというところまでです。
配当と自社株買いは、届く道が違う
用語を先に揃えます。配当は、会社が利益の一部を現金で株主に配ることです。自社株買いは、会社が市場から自分の株を買って減らすことです。株の数が減るので、残った株主1人あたりの取り分(1株あたり利益)が増えます。
違いが出るのは、受け取る側の税金です。私の場合で書きます。
私は、S&P500に連動するVOOと、ナスダック100に連動するQQQを、特定口座で持っています。エヌビディアはS&P500の約8%を占める上位の銘柄(2026年9月時点の目安)なので、VOOの中にも入っています。VOOの分配金を受け取ると、まず米国で10%、残りに日本で20.315%の税がかかります。米国の10%は、確定申告の外国税額控除で調整できる仕組みがあります(控除できる額には上限があります)。
一方、自社株買いで株価が上がった分には、VOOを売るまで税金がかかりません。売ったときに、その利益に20.315%がかかるだけです。
NISAで投資信託を持つ場合は、もう一段はっきりします。投資信託が受け取る米国株の配当には、米国で10%の税がかかっています。特定口座なら分配金のときに調整される仕組みがありますが、NISAで持っている投資信託はこの調整の対象外です。NISAで米国の高配当ETFを直接持つ場合も、米国の10%は取り戻せません。自社株買いの還元は、この10%を通りません。
私も、eMAXIS SlimのS&P500とオルカンをわずかに持っています。24兆円の自社株買いは、私のS&P500投信の中で、配当のように税金を通らずに届きます。
インデックスの中での扱いも確認しておきます。S&P500もオルカンの元になるMSCIの指数も、株数を四半期ごとに見直す時価総額加重です。自社株買いで株数が減っても、その分株価が上がれば、指数の中の比率はほとんど変わりません。何もしなくても、還元は中で届いています。
還元の約86%は、自社株買いだった
今年度の上半期、エヌビディアが株主に返したお金は460.9億ドル。そのうち自社株買いが398億ドルで約86%、配当は62.9億ドルで約14%でした。5月に配当を25倍に増やした後でも、この割合です。
9月25日の記事で、「利回り25%」は誰の買値で割った数字かを書きました。配当利回りは、数字の分母を見ないと読み違えます。今回は、その逆側の話です。配当利回りだけを見ていると、利回りに表れない還元を見落とします。配当と自社株買いを足した「総還元」で見れば、エヌビディアは配当利回り0.44%の会社ではありません。
AIのチェーンで、現金はどこに溜まっているか
7月6日のMicronの記事、9月11日の「AIの利益はどこへ流れたか」、そして9月29日の値下げの記事。並べると、同じ1週間の中で、作る側は値下げ、電力は請求書、チップは現金を返す、という形になりました。AIの利益の行き先の答えに、今回チップが加わりました。
ただ、これはこの1週間の並びです。どこが次に儲かるかを当てる話ではありません。
自社株買いが得かどうかは、「いくらで買うか」で決まる
自社株買いには、見方がいくつかあります。
- 株主還元で株価にプラス:発表日にエヌビディアは1.7%上がった
- 成熟の合図:成長に使いきれない現金を返し始めた、という読み方
- 高値で買えば株主の損:自分の株を割高に買えば、残った株主の取り分をかえって削る
3つ目が、一番大事だと思います。バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏は2011年の株主への手紙で、自社株買いは「株価が会社の本当の価値より大きく下回っているとき」に限る、という考え方を書いています。5月23日のバークシャーの記事で書いた、安いときにしか買わない姿勢と同じです。
では、エヌビディアの株価は安いのか。予想PER(株価が1株あたり利益の何倍か)は、どの年度の利益で割るかで大きく変わります。9月28日の株価で、今年度(2027年1月期)の予想利益なら約25倍、来年度(2028年1月期)の予想なら約15倍です。会社は割安だと考えて買う、と報じられています。
私は、これが割安か割高かを判断しません。来年度の利益が予想どおり出るかを、私は当てられないからです。個別株を選ばないのは、この判断をしないためです。インデックスで持っていれば、自社株買いが上手くいった会社も、そうでない会社も、まとめて持つことになります。
読み方を変えるだけで、やることは増えない
- 高配当で株を選んでいる人:配当利回りが低い会社でも、自社株買いで同じくらい、あるいはもっと返していることがあります。「配当+自社株買い」の総還元で見てください
- NISAで米国の高配当ETFを持っている人:配当にかかる米国の10%は、NISAでは戻りません。9月14日のSPYDの記事、7月11日のVYMの記事もあわせてどうぞ
- インデックスで持っている人:何もしなくていいです。還元は、中で届いています
個別の半導体株を自分で調べたい人には、判断材料が要ります。私は個別では選びませんが、選ぶなら、どの会社がどこで稼いでいるかを1社ずつ見る必要があります。
還元を中で受け取る、インデックスの口座
S&P500やオール・カントリーの投資信託を持てば、エヌビディアを含む上位の会社の自社株買いは、何もしなくても中で届きます。私の主軸はSBI証券ですが、米国株や投資信託に強いマネックス証券、サポートの手厚い松井証券も候補です。どちらも新NISAでS&P500やオール・カントリーの積立ができます。
まとめ
- エヌビディアは9月28日、自社株買いの枠を1,500億ドル(約24兆円)増やし、残り枠は2,350億ドルになった
- 枠は時価総額の約4.3%。ただし株価が上がれば買える株は減り、株式報酬で株は増えるので、取り分が4.3%増えるとは言えない
- 配当は受け取るたびに税金を通り、自社株買いは株価の形で届き、売るまで税金を通らない。NISAの投信では、米国の配当税10%は戻らない
- エヌビディアの還元の約86%は自社株買い。配当利回りだけを見ると、還元の大半を見落とす
- 自社株買いが得かどうかは「いくらで買うか」で決まる。私はその判断をしないので、個別では選ばず、インデックスの中で受け取る
あわせて読みたい
AIの利益の行き先
・AIの値下げが同じ朝に重なった——得をする人・削られる人
・AIの利益はどこへ流れたか——半導体・ケーブル・電力
・Micronとは何の会社か——AIブームの利益はどこへ消えているのか
還元と利回りの読み方
・「利回り25%」は、あなたの利回りではない
・SPYDは「やめとけ」なのか——利回り4.2%の中身
・VYMは新NISAで買える?
・凪を売り、風を読むバークシャー
※本記事の内容は2026年9月29日時点で確認したものです。自社株買いの枠はNVIDIAの発表(2026年9月28日)、現金・自社株買い・配当・株式報酬・株数は同社の四半期報告書(2026年7月26日までの四半期)、アップルの枠は同社の発表(2024年5月)、株価と指数の値動きは9月28日の終値によります。2028年1月期の売上高の成長見通しは2026年8月26日の決算説明会での発言として報道されたもの、予想PERは市場予想(コンセンサス)から筆者が計算した目安です。円換算は日本経済新聞の表記に合わせた概算です。NISAと二重課税調整の扱いは日本証券業協会、外国税額控除は国税庁、自社株買いの課税の扱いは米議会調査局の資料、指数の株数の見直しはS&P ダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIの方法書、バフェット氏の考え方はバークシャー・ハサウェイの2011年の株主への手紙によります。※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。本記事には楽天アフィリエイト・アクセストレードのアフィリエイトリンクが含まれています。
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