利上げ観測が強まった日、米国債30年の利回りは下がりました——ウォーシュFRB議長の初講演と、私の指値5.7%まであと0.53%【ジャクソンホール2026】

セーラー服姿の月城ミオが腕を組み、赤い上向き矢印と青い下向き矢印を背に静かに正面を見ている。利上げ観測が強まった2026年8月28日に、2年債が上がる一方で米国債30年の利回りが下がったことを示す。購入ラインの表面5.70%まで0.53%ポイント足りないことも併記している マーケット・相場分析
2年債は+6bp、30年債は−2bp。私の指値5.70%まであと0.53%ポイントでした

2026年8月28日、アメリカのワイオミング州でジャクソンホール会議という会合がありました。世界中の中央銀行の関係者が集まる、年に一度の場です。

そこでケビン・ウォーシュFRB議長が講演しました。FRB(連邦準備制度理事会=アメリカの中央銀行にあたる組織)のトップに就任してから、初めての講演です。

内容は「利上げもありうる」と読める、かなり厳しめのものでした。市場は反応しました。

正直に書きます。私は、この講演があったことに気づいていませんでした。

そして週明けに数字を見て、もっと意外なことが分かりました。利上げの話が出た日に、私がずっと待っている米国債30年の利回りは、下がっていたのです。

この記事では、なぜそうなるのかを数字で分解します。あわせて、私が5月から公表している「表面5.7%で買う」という指値が、いまどこまで来ているのかを計算し直します。

利上げ観測が強まった日、米国債30年の利回りは下がりました

結論から書きます。講演のあと、動いたのは短い年限の金利だけでした。

2年債とは、2年で満期が来る国債のことです。その利回りが6bpを超えて上昇しました。bpはベーシスポイントの略で、0.01%を指します。

結果、2年債の利回りは4.298%になりました。

いっぽう30年債(30年で満期が来る国債)の利回りは、2bp下がって5.168%になりました。

同じ日に、同じ講演を聞いて、短い金利は上がり、長い金利は下がったわけです。

講演当日の利回りの動き(2026年8月28日) 0 2年債 +6bp 4.298% 30年債 −2bp 5.168% ← 利回り低下   利回り上昇 →
このグラフは、ウォーシュ議長の講演当日に、2年債と30年債の利回りが逆方向に動いたことを示しています(出典:CNBC 2026年8月28日)

市場が9月の利上げを織り込む確率も動きました。CME FedWatch(金利先物から利上げ確率を推計する指標)では、前日の35.4%から45.7%へ上昇しています。

利上げの確率は上がった。なのに30年債の利回りは下がった。ここが今回の面白いところです。

なぜ「利上げ」で長期金利が下がるのか

中央銀行が直接動かせるのは、短い金利だけです

「金利が上がる」と聞くと、すべての金利がいっせいに上がるように感じます。でも実際は違います。

中央銀行が決めるのは政策金利で、これは非常に短い期間の金利です。1年後、2年後の金利は、この政策金利の見通しでほぼ決まります。

だから利上げの話が出ると、2年債はすぐ反応します。

長い金利を決めているのは、将来のインフレ予想です

いっぽう30年債の利回りは、これから30年間のインフレ(物価が上がり続けること)の平均予想で決まります。

ここで今回の講演を思い出してください。ウォーシュ議長は「物価が最も重要だ」と言い、インフレを抑え込む姿勢を見せました。

すると市場はこう読みます。「この人は本気でインフレを潰しに来る。ならば長い目で見たインフレは落ち着くはずだ」と。

長期のインフレ予想が下がれば、長期債の利回りは下がります。だから30年債は買われました。

短い側が上がって長い側が下がる、この形をベアフラットと呼びます。教科書どおりの反応でした。

年限 利回り 何で決まるか
1か月3.81%いまの政策金利
3か月3.84%
6か月3.94%
1年4.04%
2年4.20%これからの利上げ・利下げの見通し
5年4.38%
10年4.67%長い目で見たインフレの予想
20年5.18%
30年5.19%
2026年8月27日時点の米国債利回り。年限によって「何で決まるか」が違います(出典:FRB H.15)

金利と株価の関係については、以前に図解した記事があります。あわせて読むと理解が進みます。

なぜ金利が上がると株価は下がるのか——2026年6月、米国株下落の”本当の仕組み”を図解しました

ウォーシュ議長は「予告をしない」と宣言しました

ケビン・ウォーシュとは誰か

ケビン・ウォーシュ氏は、2026年にFRB議長に就任した人物です。今回のジャクソンホール講演は、議長として初めての登壇でした。

そこで彼が打ち出したのは、政策の中身よりも「進め方を変える」という話でした。

フォワードガイダンスをやめる、という選択

フォワードガイダンスとは、中央銀行が「今後しばらく金利はこうします」と前もって予告することです。前任のパウエル体制が多用していました。

ウォーシュ議長は、この予告をしないと明言しました。次に何をするかの反応の仕方すら、約束しませんでした。

講演での発言を、いくつか引用します。

「基調インフレ率が目標に向かっていると確信できなければ、まだやるべきことがある」

「金融環境を引き締め的と表現するのは難しい」

「現在最も重視すべきなのは物価だ」

市場関係者からは「意図的にタカ派的な講演だった」という評価が出ています。タカ派とは、インフレを抑えるために金利を高めに保つ立場のことです。

予告をやめた議長は、正しいと考えます

この「予告しない」という姿勢を、不誠実だと批判する声もあります。

私はそうは考えません。理由はひとつです。

未来は予測できないからです。

予測できないものを予告するほうが、よほど不誠実ではないでしょうか。おかしいのは、予告をやめた側ではなく、予告を求めている側だと私は考えます。

そして予告がなくなって困るのは、予告を当てにして動いていた人だけです。

なお日本でも、日銀が9月に政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げるという見方が、市場で8割ほどに達しています。ただこちらは何年も前から議論されてきた流れの延長で、驚きのある話ではありません。私はこれを予定調和として受け止めています。

私の指値5.7%まで、あと0.53%ポイントでした

私が公表しているルール

私は米国債について、5月からひとつのルールを公表しています。

買うのは、税引後で実質5%になったときだけ。表面の利回りでいえば、およそ5.7%です。

私が買おうとしているのはストリップス債という種類の米国債です。利息を受け取らず、安く買って満期に額面で戻ってくる形の債券で、税金は満期まで先送りされます。

この先送りがあるので、単純に表面利回りへ0.79685を掛けるだけでは正しい数字になりません。私は次の式で計算しています。

税引後の年率 = [ 1 + 0.79685 ×((1+表面利回り)の30乗 − 1)]の30乗根 − 1

いまの数字を入れてみます

この式で計算し直した結果が、次の表です。

時点 表面利回り 税引後(30年)
8月2日(前回の記事)5.220%4.61%
8月28日(講演後)5.168%4.57%
私の購入ライン5.700%5.07%
不足▲0.53%ポイント▲0.50%ポイント
表面利回りは市場実勢、税引後は上記の式による私の計算です(表面利回りの出典:CNBC・FRB H.15)

ここで正直に補足します。私のラインである表面5.7%は、税引後にすると5.07%になります。ルールの5%ちょうどではなく、0.07%ポイントぶん厳しい側の数字です。丸めた結果ですが、緩める方向には動かしていません。

私の指値までの距離(米国債30年・表面利回り) 8月28日の実勢 5.168% 私のライン 5.700% あと 0.53pt ※8月2日は5.220%。利上げ観測が出たこの1か月で、指値はむしろ0.05%ポイント遠のきました
このグラフは、現在の利回りと私の購入ラインの距離を示しています(出典:CNBC・筆者計算)

利上げのニュースが出たのに、私の指値は近づくどころか0.05%ポイント遠のきました

そして私は、この講演に気づいていませんでした

8月2日の記事で、私はこう書きました。19年ぶりの高い利回りが来たのに、口座の画面すら開かなかったと。

今回は、その先がありました。

講演があったこと自体に、気づいていませんでした。

意識して避けたわけではありません。単純に、視界に入っていませんでした。

ルールを決めるというのは、こういうことなのだと思います。守る対象ではなく、調べる手間そのものを省いてくれるものになっていました。

米国債30年が利回り5.2%、19年ぶりの高さでも私が買わない理由——「税引後5%」で計算し直す

ご自身の数字で計算できるように、計算機を置いておきます。表面利回りと年限を入れると、税引後の年率が出ます。

税引後利回り計算機(ゼロクーポン/ストリップス債)

表面利回りと年限を入れると、満期まで持った場合の税引後の年率が出ます。譲渡益に20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)が満期時にかかる前提です。

※為替・売買手数料・途中売却は考慮していません。実際の課税関係はご自身でご確認ください。

ラインは3分の1しか決まっていませんでした

ここからが、今回いちばん書きたかったことです。

記事を書くために数字を並べていて、自分でも意外な結論に行き着きました。

表面5.7%が来たとして、私は本当に買うのか。

正直に書きます。微妙です。

理由を並べてみて、気づきました。私が決めていたのは3つのうち1つだけだったのです。

決めるべきこと 私の状態 中身
① 利回り決めた税引後5%=表面およそ5.7%
② 原資決めていない何を手放して買うのか
③ 期間決めていない30年、満期まで持てるのか
債券を買う判断に必要な3点セット。私は①しか決めていませんでした

② 原資——VOOを売ってまで移すのか

米国債を買うには、お金が要ります。そのお金はどこから来るのでしょうか。

現金を厚く持っているわけではありません。となると、VOO(S&P500に連動する米国のETF)を売るか、毎月の積立を止めることになります。

ここで手が止まりました。税引後5%の債券と引き換えに、株式を手放す。その交換に納得できるかを、私は考えたことがありませんでした。

③ 期間——30年を、私は使えるのか

ストリップス債の税引後5%という数字は、満期まで30年持ち切って初めて実現します。途中で売れば、この計算は成り立ちません。

その30年が、自分の年齢に対して長すぎないか。

私はDie With Zero(使い切って終える)という考え方を、安全マージンを取ったうえで採用しています。30年ものの債券は、その考え方と正面からぶつかります。

まだ、言葉になっていません

ここまで書いておいて情けないのですが、この3つを整理しきれていません

もっともらしい結論を書くことはできます。でもそれは、いま私の中にある感覚とは違います。

分かったのは1点だけです。私が決めていた「ライン」は、買う約束ではなく、考え始める合図でした。

5月にラインを言葉にしてから3か月、ずっと待っていました。それなのに到達したあとに何をするかを決めていませんでした。これが今回の発見です。

なお、私の保有と読者への推奨は分けて書きます。

項目 私(投資歴18年) 読者の方への考え方
米国債未保有。ストリップス債を検討中外貨建て・30年の商品です。初めの1本には向きません
中核VOO・QQQ(ドル建てETF)eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン)などの円建て投信
今回の行動何もしません(積立は継続)同じく、積立を止める理由はありません
保有と推奨は同じではありません。私は米ドル建てで直接買える環境にいるだけです

出口の設計については、以前に計算で決める方法をまとめています。

資産運用の出口戦略|人生の航路は計算で決める

では、いま何をするか

答えは短いです。何もしません。

利上げの確率が45.7%に上がったからといって、積立の金額も、保有している銘柄も変えません。

予測できない未来に合わせて動かすルールは、ルールとは呼べないからです。

ただし、ひとつだけ準備しておくこと

やっておいて損がないことが、ひとつだけあります。

その数字が来たときに、買える場所を持っておくことです。

米国債やストリップス債は、どの証券会社でも同じように扱っているわけではありません。取扱いの有無、年限のそろえ方、為替手数料は会社ごとに違います。

ラインに届いてから口座を開こうとすると、開設と入金で数日かかります。私の場合はまだ「買うか微妙」の段階ですが、それでも調べられる状態にはしてあります

口座は「使い分け」で持っています

私の主軸はSBI証券ですが、用途で使い分けています。米国株・外国債券まわりを見るならマネックス証券、少額から始めたい方や電話で相談したい方には松井証券が向いています。私が使っているから皆さんも、という話ではありません。ご自身が「その数字が来たときに動ける状態か」で選んでください。

マネックス証券の口座開設 松井証券の口座開設

よくある不安 Q&A

Q1. 利上げされたら、株はどうなりますか

短期的には下がりやすくなります。実際に講演のあった8月28日、S&P500は下落しました。

ただしその週を通して見ると、S&P500はプラスで終わっています。1日の値動きで方針を変えると、こういう往復に振り回されます。

Q2. 個人向け国債ではだめですか

日本の個人向け国債は、円建てで元本が守られる別の商品です。米国債とは役割が違います。

どちらが良いかではなく、何を求めるかで変わります。日本の国債については、年限による差を実数で比べた記事があります。

新窓販国債と個人向け国債の違い|10年で88,084円差・5年で506円差になる理由

Q3. 為替が心配です

もっともな心配です。私の場合、30年ストリップス債の損益分岐点は1ドル52.51円で計算しています。

ここまで円高が進まなければ、為替で負けることはない水準です。とはいえ30年という時間を考えると、この前提も絶対ではありません。

まとめ

  • 利上げ観測が強まった日に、米国債30年の利回りは下がりました。動いたのは2年債(+6bp)で、30年債は−2bpでした。中央銀行が直接動かせるのは短い金利だけだからです。
  • 私の指値である表面5.7%までは、あと0.53%ポイントあります。利上げのニュースが出たにもかかわらず、8月2日の時点より0.05%ポイント遠のきました。
  • 私が決めていたのは、3つのうち利回りだけでした。原資(何を手放すか)と期間(30年持てるか)を決めていなかったので、ラインに届いても「買うか微妙」という状態です。

まずは、ご自身が待っている数字を書き出してみてください。そのうえで「その数字が来たら、何を売って、何年持つのか」まで書き足せているかを確認してみてください。私はそこが空欄でした。

ニュースは毎日きます。議長も、政策も、確率も変わります。それでも、決めておいた航路が変わるわけではありません。

時代は流れています。でも、流されない。私は航路を守ります。

※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。利回り・価格は執筆時点のもので、変動します。

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。