AIのデータセンターは、半導体で計算し、光ファイバーでつなぎ、電気で動きます。
日本でその3つを担う代表格を、株価で並べてみました。レーザーテック(6920)、フジクラ(5803)、関西電力(9503)の3社です。
2026年9月9日の終値で見ると、半導体のレーザーテックは年初来高値の60%、ケーブルのフジクラは69%のところにいます。電気を売る関西電力だけが、2007年7月以来の高値圏にいます。
業績の見通しは、逆でした。前の2社は今期に過去最高の利益を予想しています。関西電力は3年で利益がほぼ半分になる計画を、4月に出しています。
先にひとつ、言葉の断りを入れます。ここで言う「利益」は、会社の決算のことではありません。株を持っていた人の評価額のほうです。決算の利益は、いまも半導体とケーブルにあります。
この記事では、その構造と、家計への意味を書きます。3社のどれが次に上がるかは書きません。
AIの箱は、この3つがそろって動きます
データセンター(AIの計算をまとめて行う大きな建物)は、大きく3つの部品でできています。
計算する半導体、それを結ぶ光ファイバー、そして全部を動かす電気です。
3社の役割を、ひとことずつ説明します。
レーザーテックは、半導体そのものをつくる会社ではありません。半導体の回路の原版にあたる「フォトマスク」と、その材料の欠陥を見つける検査装置の会社です。EUV(極端紫外線を使う、いま最先端の回路転写方式)向けでは、世界シェアがほぼ100%とされています。
フジクラは光ファイバーケーブルの会社です。データセンターの中と外を結ぶ配線を担います。この会社は3日前に1本書きました。
▶ フジクラ(5803)は買いか——母は買い、私は買いませんでした
関西電力は、その全部を動かす電気を売る会社です。関西を地盤とする大手電力で、原子力発電の比率が高いことで知られています。
株価を並べると、いま高値にいるのは電気だけでした
次の図で見るのは1つだけです。それぞれの会社が年初来でいちばん高かった値段を100として、いまどこにいるかです。
3本の線は、同じ高さから始まっているわけではありません。それぞれが「自分の高値」からどれだけ離れたかを見ています。
半導体とケーブルは、初夏に高値をつけてから下がりました。電気は、9月に入ってから高値をつけています。
ここに業績の予想を並べると、向きが食い違います。
| 会社 | 今期の業績の予想 | 株価のいまの位置 | 3月10日からの半年 |
|---|---|---|---|
| レーザーテック 半導体の検査装置 | 過去最高益の予想 純利益900億円・16.2%増 | 高値の60.2% | +1.5% |
| フジクラ 光ファイバー | 過去最高益の予想 営業利益を3か月で約2倍に上方修正 | 高値の69.2% | +37.0% |
| 関西電力 電気 | 3年で利益がほぼ半分の計画 経常利益5,185億円→2,700億円 | 高値の98.2% | +20.9% |
矢印が逆を向いているのが2社、そろっているのが1社です。つまり、いちばん業績の見通しが弱い会社の株だけが、高値にいます。
ただし「電力だけ上がった」わけではありません
ここで、数字の見せ方について正直に足しておきます。
「上がったのは電力だけ」と書くと、事実と違います。起点を3月10日に取ると、いちばん上がっているのはフジクラです。
| どう並べるか | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 |
|---|---|---|---|---|
| 3月10日からの半年で どれだけ上がったか | フジクラ +37.0% | 関西電力 +20.9% | 日経平均 +20.1% | レーザーテック +1.5% |
| 年初来の高値を100として いまどこにいるか | 関西電力 98.2% | 日経平均 89.4% | フジクラ 69.2% | レーザーテック 60.2% |
同じ3社でも、どこを起点にするかで順番が変わります。これは9月8日の記事で書いたことと同じです。「割安」も「上がった」も、何と比べたかの結果でしかありません。
正確に言うと、こうなります。3社とも上がりました。ただし、いま高値にいるのは電気だけです。
3社に、この半年で何が起きたのか
関西電力:利益が半分になる計画を出したあとに、買われました
関西電力は4月30日に「経営計画2026」を公表しました。
2025年度の経常利益(本業と財務活動を合わせた、税金を引く前のもうけ)は5,185億円でした。これに対し、2026年度の予想は2,900億円です。さらに2026〜28年度の平均目標は2,700億円と置かれています。
株価は7月2日に年初来安値の2,184円をつけました。ここまでは、素直な反応に見えます。
そこから2か月で、景色が変わりました。
8月19日、関西電力は企業向けの電気料金の値上げを発表します。対象は特別高圧と高圧、つまり工場やビルなどの法人契約で、適用は11月1日からです。日本経済新聞はこれを「標準的なモデルで10〜15%」「2015年以来11年ぶり」と報じました。
9月1日には日経が「株価が一時2,946円まで上昇し、2007年7月以来およそ19年ぶりの高値」と伝えます。同じ日、野村証券が目標株価を引き上げていました。9月3日には3,053円まで上げています。
買われた材料を並べると、ある共通点があります。
- 企業向けの値上げ……適用は11月1日から
- 美浜発電所3号機の運転再開……本格運転は10月上旬の予定(報道では10月9日)
- 原子力を使った電力の直接契約……7月9日に受付窓口を開設したところ
3つとも、まだ起きていません。
もうひとつ、株主側の事情もあります。米国の投資ファンド、エリオット・マネジメントが2025年9月に関西電力株を4〜5%取得したと報じられ、同年11月には1株あたり配当を100円以上にするよう求める声明を出しています。
レーザーテック:過去最高益の予想を出して、2日で2割下げました
レーザーテックは8月6日の取引終了後に決算を発表しました。
2027年6月期の会社予想は、純利益900億円です。前の期より16.2%多く、過去最高になります。売上高の予想も25.8%増でした。
それでも株価は、翌8月7日に13.55%下げました。発表前日の下げと合わせると、2日間で約20%です。
理由は「予想が悪かったから」ではありません。市場が期待していた数字に届かなかったからです。日経が伝えたQUICKの市場予想は、純利益968億円でした。会社の900億円は、そこに68億円足りませんでした。
受注も見ておきます。前期の受注高は2,375億円で、前の期の1,052億円から2.26倍に回復しました。ただし期末の受注残は3,229億円で、前の期から2.2%増とほぼ横ばいです。
9月9日の終値35,280円は、会社予想の1株利益で計算すると予想PER(株価収益率=株価が1株あたり利益の何倍か)35.1倍になります。高値から4割下げても、利益と比べれば安い水準ではありません。
フジクラ:2度の上方修正でも、高値の7割です
フジクラは5月14日、決算と同時に出した今期の予想が市場予想に届かず、ストップ安になりました。
ところがその後、6月18日と8月7日の2度にわたって予想を引き上げます。営業利益の予想は当初の2,110億円から4,320億円になりました。3か月弱で約2倍です。
それでも株価は、9月9日時点で年初来高値の69%のところにいます。詳しくは3日前の記事に書きました。
株価が買っていたのは、利益の大きさではなく「確かさ」でした
3社の違いを、私はこう読んでいます。
株価は、業績の大きさではなく、その業績の確かさに値段をつけていました。
半導体の検査装置は、注文が止まれば需要も止まります。顧客が設備投資の計画を先送りすれば、来年の売上は消えます。そして工場は増やせます。他社も参入できます。
ケーブルも似ています。需要は本物でも、同じものをつくれる会社が世界にいます。
電気は違います。箱が建ってしまえば、電気は必ず使われます。そして供給は簡単に増えません。原子力発電所を動かすには許認可がいり、送電線を引くには年単位の時間がかかります。
その「必ず使われる」の実数も見ておきます。
世界のデータセンターが使う電力は、2026年の132ギガワットから2030年に290ギガワットになる見通しです(調査会社ガートナーの2026年6月の予測)。
日本国内では、電力広域的運営推進機関(全国の電力需給を調整する認可法人)の想定があります。データセンターと半導体工場の分を合わせて、2026年度の67億キロワットアワーが、2035年度には568億キロワットアワーになります。9年で約8.5倍です。
ただし正直に付け加えると、全国の電力使用量に占める割合は2030年度で3.74%です。量そのものはまだ小さく、桁違いなのは伸び率のほうです。
7月に書いた「請求書」の、宛先
この構造には、続きがあります。
7月に、私はAIブームの利益がどこへ行くのかを2本書きました。1本目は、AIの利益が半導体の川上に吸われているという話です。
▶ Micronとは何の会社か?S&P500の第8位になった”メモリの巨人”
2本目は、その裏側です。企業がAIの機材を買うためにソフトウェアの予算を削り、そこにいたIBMが撃たれました。私はこれを「AIブームの請求書」と書きました。
▶ IBM株はなぜ25%暴落したのか——原因は「AIブームの請求書」
今回わかったのは、その請求書の宛先のひとつが電力会社だったということです。そして株価は、請求書を出す側を買いました。
7月にはもう1本、「客の財布と株主の財布は別だ」という記事も書きました。今回はその応用が効きます。決算という財布はいまも設備をつくる側にあり、株価という財布は電気を売る側に移りました。
ただし、電力も「期待」で買われています
ここを外すと、記事がただの電力株ほめになります。
関西電力を買った人が見ているのも、確定した利益ではありません。値上げも、原子力発電所の再開も、直接契約も、全部これからの話です。利益が半分になる計画のほうは、すでに会社が出しています。
配当で買われているのでもありません。今期の配当予想80円を9月9日の終値で割ると、利回りは2.67%です。特別に高い水準ではありません。
つまり、こういうことです。半導体は「期待がはがれて」下がり、電力は「期待を織り込んで」上がりました。どちらも期待の話で、確定した利益の話ではありません。
電力が本物で半導体がバブルだ、という話ではないと考えています。
目をつけていた会社が上がって、私はそれを知りませんでした
正直に書きます。
私が前から気にかけていた電力会社は、原子力の比率が高い関西電力と九州電力でした。
そして九州電力も、9月9日時点で年初来高値の98.6%にいます。半年で27.8%上がりました。目をつけていた2社が、そろって高値にいます。
それで私が何をしたかというと、何もしていません。買っていませんし、上がったことも知りませんでした。美浜発電所3号機が10月に動くことも、この記事を書くまで知りませんでした。
気にかけていたことと、読めていたことは、別物です。私がやっていたのは、眺めることだけでした。
| 私(投資歴18年)の場合 | これから考える方の場合 | |
|---|---|---|
| 3社の持ち方 | 個別では1社も持っていません。オルカンを通じて3社とも間接的に持っています | 個別で買うなら、上がる順番を当てる必要があります。選ばずに持つなら、インデックス1本で3社とも入ります |
| この半年でやったこと | 何もしていません。積立の金額も配分も変えていません | まず積立の設定を決めて、あとは触らないのがいちばん再現しやすい形です |
| 株価を見る頻度 | 数日に1回、持っている商品の値段を眺めるだけです | 見る回数より、見たあとに何もしないと決めておくことのほうが効きます |
| 電気代への備え | 自宅は東京電力です。契約の種類は確認しました | 検針票で規制料金か自由料金かを確認するのが最初の一歩です |
ひとつはっきりさせておきます。私はすでに、3社とも株主です。オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)を積み立てている以上、指数に入っている3社を間接的に持っています。
ただし、量はごくわずかです。関西電力の比率から計算すると、オルカンを100万円持っている人の中の関西電力は、およそ160円分にしかなりません。
電力の上昇で私が得た金額は、計算するまでもなく小さいはずです。それでいいと思っています。順番を当てる土俵に、そもそも乗っていないからです。
3社の業績を並べて見たいなら、道具がいります
この記事でいちばん手間がかかったのは、3社の業績予想を同じ形にそろえて並べる作業でした。もし個別株の土俵に立つなら、複数の会社の業績予想を1つの画面で並べる道具は先にそろえておいたほうが早いです。マネックス証券の「銘柄スカウター」は、口座を開くと比較できる銘柄が2社から最大6社に増えます(口座開設・維持は無料です)。少額から始めたい方や、投信の積立だけで十分という方には松井証券も候補になります。なお私の主軸はインデックスの積立で、別の証券会社を使っています(私の保有=万人への推奨ではありません)。
AIブームは、株価より先に電気代で家計に来ます
ここまでは株価の話でした。最後に、財布の話をします。
AIのデータセンターが増えることが家計に届く経路は、株価ではありません。電気代の請求書のほうが先です。
ただし、今回の関西電力の値上げがそのまま家庭に来るわけではありません。ここは制度で分かれます。
- 今回発表された料金の値上げは、特別高圧と高圧、つまり法人の契約だけが対象です。家庭向けの低圧は対象外と報じられています。
- ただし同じ8月19日の資料で、託送料金(送配電線を使う料金)の見直し分は、低圧にも11月1日から反映する予定と予告されています。「家庭には一切来ない」とは言えません。
- 家庭向けでも、規制料金は値上げに国の認可が必要ですが、自由料金は事業者の判断で変えられます。新電力を含め、契約によって守られ方が違います。
だから、読者にとっての最初の行動はこれです。自分の電気の契約が、規制料金なのか自由料金なのかを確認すること。検針票かウェブの明細に書いてあります。
ちなみに私の家は東京電力です。関西電力の値上げは、私の請求書には来ません。
そして電力株も、全部が上がったわけではありません。
私が使っている電力会社の株だけが、高値から離れたところにいます。理由はこの記事では扱いません。ただ、「電力株」とひとくくりにできないことは、この図で分かります。
受電設備の現場から見た「電気はすぐ増やせない」
私は本業で施工管理を18年やっています。昔、受電設備の施工管理をしたことがあります。
受電設備というのは、電力会社から届いた高い電圧の電気を、建物で使える電圧に下げて配る設備のことです。
この工事をやると、ひとつ実感することがあります。建物ができても、電気がつながらなければ何も動きません。電気は買ってくれば済むものではなく、設備をつくり、電力会社とつないで、初めて使えるようになります。
データセンターも同じです。箱が建つことと、電気が来ることは、別の工程です。そして後者のほうが、たいてい時間がかかります。
まとめ:順番を当てられなかった人は、どうすればいいのか
この記事で見てきたことを、3つに整理します。
- 同じAIの箱をつくる3社で、いちばん業績の見通しが弱い会社の株だけが高値にいました。レーザーテックとフジクラは過去最高益の予想で高値の6〜7割、関西電力は利益がほぼ半分になる計画で2007年7月以来の高値圏です(すべて2026年9月9日終値)。
- 株価が値段をつけていたのは、利益の大きさではなく確かさでした。半導体とケーブルは需要が予想しだいで供給も増やせますが、電気は箱が建てば必ず使われ、供給は年単位でしか増えません。
- ただし電力も、期待で買われています。値上げも原子力発電所の再開も、まだ起きていません。半導体は期待がはがれて下がり、電力は期待を織り込んで上がりました。どちらも期待の話です。
最後に、読者のみなさんに渡したいのは銘柄の判断ではなく、ひとつの問いです。
半導体でもケーブルでもなく、電力が上がると、半年前に読めましたか。
私は読めませんでした。気にかけていた2社が上がったのに、上がったことすら知りませんでした。
読めなかったのなら、たぶん次の順番も読めません。それなら、順番を当てにいかずに全部持つほうが、私の性格には合っています。オルカンを1本積み立てていれば、3社とも入っています。金額は小さくても、流れからは外れません。
▶ 2026年上半期の答え合わせ——日経+35%で一番勝ったのは、”何もしなかった人”だった
次の材料は、10月上旬に予定されている美浜発電所3号機の本格運転再開です。5月に蒸気漏れで止まってから、定期検査を経ての再開になります。
私はその予定も、この記事を書くまで知りませんでした。それでも積立は、今月も同じ日に同じ金額で動きます。
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出典
- 株価・出来高・年初来高値/安値:Yahoo!ファイナンスの日足データ(2026年9月9日終値まで)
- 関西電力の経営計画2026・2026年度業績予想・配当予想:関西電力 2026年4月30日開示
- 関西電力の企業向け電気料金の見直し(2026年11月1日から):関西電力 2026年8月19日プレスリリース/「10〜15%」「11年ぶり」の表現は日本経済新聞 2026年8月19日
- 関西電力の株価「2007年7月以来19年ぶり高値」「野村証券の目標株価引き上げ」:日本経済新聞 2026年9月1日
- 美浜発電所3号機の定期検査工程:関西電力 2026年6月15日・9月1日発表(本格運転再開は10月上旬予定。10月9日は報道による)
- 原子力を活用したオフサイト型コーポレートPPAの窓口開設:関西電力 2026年7月9日発表
- エリオット・マネジメントの保有と要求:日本経済新聞 2025年9月10日/エリオット声明 2025年11月3日
- レーザーテックの2026年6月期実績・2027年6月期予想・受注高・受注残:同社決算短信 2026年8月6日/市場予想(QUICK)は日本経済新聞 2026年8月6日
- 世界のデータセンター電力需要:ガートナー 2026年6月10日発表(日本経済新聞 2026年6月15日)
- 国内のデータセンター・半導体工場の需要電力量:電力広域的運営推進機関「供給計画の取りまとめ」2026年1月
- 電気料金の規制料金と自由料金の違い:資源エネルギー庁・電力・ガス取引監視等委員会の公表資料
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・業績予想・配当予想はいずれも2026年9月9日時点のもので、その後変動します。筆者は関西電力・フジクラ・レーザーテックの株式を直接保有していませんが、インデックスファンドを通じて間接的に保有しています。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
