東京エレクトロン(8035)が、四半期として過去最高の決算を出しました。社長は「営業利益1兆円が視野に入ってきた」と話しています。それなのに株価は、7月につけた高値から3割以上も下がったままです。
私は3か月半前、このブログで「東京エレクトロンは30,000円前後まで下がったら本気で考える」と書きました。その後、株価はいちども30,000円に近づかないまま、81,260円まで上がりました。そして今、55,150円です。
この記事では、その答え合わせをします。決算の中身を数字で分解して、フィボナッチ(相場の押し目を測る計算方法)で下値のゾーンを引き直します。結論を先に言うと、私の買い場は、まだずっと下にあります。
結論:1兆円は「視野」であって、約束ではありません
最初に、この記事の結論を3つにまとめます。
1つ目。営業利益1兆円は、逆算すると無理のない数字です。会社が出した上期(4〜9月)の予想は4,580億円です。1兆円に届くには下期に5,420億円が必要で、これは上期の1.18倍にあたります。会社は「下期は上期を上回る」と説明しています。数字と説明は矛盾していません。
2つ目。ただし1兆円は、会社の正式な予想ではありません。東京エレクトロンは、2027年3月期の通期業績予想をまだ開示していません。社長が語ったのは「視野に入ってきた」という言葉です。視野に入ることと、約束することは違います。
3つ目。株価は、その1兆円をほぼ織り込んでいます。1兆円が実現した前提で計算しても、株価収益率(PER・株価が1株あたり利益の何倍かを示す指標)は約33倍です。私は5月に「PER35倍は分が悪い」と書きました。33倍でも、その判断は変わりません。
だから私は、今回の決算を「情報」として見ています。買う準備をしながら見てはいません。ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
事実:第1四半期で何が出たのか
東京エレクトロン、通称「東エレク」は、半導体を作るための装置を作る会社です。半導体そのものは作りません。半導体メーカーが工場を建てるとき、そこに装置を納めます。
2026年7月30日に、2027年3月期の第1四半期(4〜6月)の決算が発表されました。
| 項目 | 第1四半期の実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,323億円 | +33.3% |
| 営業利益 | 2,114億円 | +46.1% |
| 経常利益 | 2,156億円 | +46.3% |
| 純利益 | 1,643億円 | +39.5% |
| 営業利益率 | 28.9% | +2.6ポイント |
売上高・売上総利益・営業利益の3つが、四半期として過去最高になりました。
あわせて、上期(4〜9月)の会社予想が引き上げられました。売上高1兆6,200億円、営業利益4,580億円で、いずれも半期として過去最高の見込みです。中間配当の予想も、361円から384円へ増額されました。前年の中間配当は264円でしたから、大きな増配になります。
社長は何と言ったのか
決算説明会で、河合利樹(かわい としき)社長・最高経営責任者が語った言葉が話題になりました。正確には、こうです。
「営業利益率については、目標達成にはチャレンジングな状況ではありますが、これまでの着実な進捗により、1兆円の営業利益が視野に入ってきました」
ここでいう目標とは、2022年に作った中期経営計画のことです。掲げた目標は3つです。売上高3兆円以上、営業利益率35%以上、そして自己資本利益率(ROE・株主のお金をどれだけ効率よく使えているかの指標)30%以上。その達成目標の年が、今期にあたります。
つまり1兆円は、今期の話として語られました。ただし言葉は「視野に入ってきた」であって、「今期こうします」という会社予想ではありません。通期の業績予想は、いまも非開示のままです。この距離は、覚えておく価値があります。
3か月半前、私は「30,000円で待つ」と書きました
ここからが、私自身の答え合わせです。
2026年5月3日、私は東京エレクトロン(8035)を深掘りした記事を公開しました。知人に「東エレクってどう思う?」と聞かれて、きちんと調べた回です。財務の堅さと技術の独自性を見て、素直に「これは欲しい」と思いました。
それでも、買いませんでした。当時の株価は44,000円台で、PERは35倍を超えていたからです。記事にはこう書きました。
「業績が落ちて、先行きが見えにくい。それでもPER35超というのは、かなり期待値が織り込まれた価格です。ここから買いにいくのは分が悪いと考えています」
そして、買い場の条件を3つ公開しました。1つ目は相対力指数(RSI・買われすぎ売られすぎを0〜100で示す指標)が30以下になること。2つ目はPERが20〜25倍まで下がること。3つ目は、株価が30,000円前後になること。この3つが同時にそろったら本気で考える、と書きました。
押し目は、いちども来ませんでした
その後どうなったかを、実際の株価で並べます。
4月末の終値は44,390円でした。そこから2か月で、6月末には77,150円です。2か月で74%上がりました。7月1日にはザラ場(取引時間中)で81,260円をつけています。
そのあと、7月の半導体株の暴落に巻き込まれます。7月末の終値は55,500円まで戻りました。決算後の8月14日にいったん61,650円まで戻し、8月21日には52,910円まで売られています。
8月24日の終値は55,150円です。7月1日の高値からは32.1%下にいます。
私が待っていた30,000円は、いちども来ませんでした。来ないまま2.7倍まで上がって、そこから3割下げて、それでもまだ30,000円の1.8倍のところにいます。
それでも私は、困っていません
ここで正直に書いておきます。私はこの3か月半、東京エレクトロンを買えませんでした。株価は上がりました。それでも私は、損をしていません。
買えなかったことで失ったのは「儲けそこない」であって、「実損」ではないからです。そして私が積み立てているオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)の中には、東京エレクトロンも入っています。薄くですが、私はもう株主です。
この考え方は、以前キオクシアの記事でも書きました。私はコロナのころ、バイオ株で13万円を1万円にしたことがあります。12万円の授業料です。原因は、調べれば分かることを調べなかったことでした。
あの失敗以来、私は「乗り遅れる痛み」より「調べずに乗る痛み」のほうを重く見ています。
「1兆円」は逆算できます
では、営業利益1兆円は本当に届くのでしょうか。逆算すると、輪郭が見えます。
会社が出した上期の営業利益予想は4,580億円です。1兆円に届くには、下期に5,420億円が必要になります。下期は上期の1.18倍という計算です。
過去の実績と比べます。前期(2026年3月期)の営業利益は6,249億円でした。過去最高は2025年3月期の6,973億円です。1兆円は、過去最高の1.43倍にあたります。
会社の説明とも整合します。決算説明会では、顧客から「納期の前倒しや追加購入の要請が続いている」と述べられました。下期については「上期を上回る力強い成長を想定」とも語られています。
市場全体の見通しも強気です。半導体製造装置の世界市場(WFE)の見通しが、4月末の予想から引き上げられました。2026年に1,500億ドル以上、2027年に1,900億ドル以上という数字です。どちらの年も、前年比20%以上の成長という見立てになります。
ここまでを整理すると、1兆円の確率は高いほうだと考えられます。ただし、気になる点が3つあります。
気になる点①:会社自身がまだ数字を出していません
くり返しになりますが、通期予想は非開示です。「視野」は経営者の手ごたえであって、会社の約束ではありません。次に会社が数字を出すのは、第2四半期の決算発表のときです。
気になる点②:中国向けが30.4%あります
第1四半期の売上のうち、中国向けが30.4%を占めました。前の四半期から3.6ポイント増えています。会社は通期でも「30%台前半」を想定しています。
この比率は、東京エレクトロンの努力では動かせません。米国や日本の輸出規制がひとつ変われば、売上の3割が揺れます。良い決算の裏側に、この構造は残ったままです。
気になる点③:前倒しは「先食い」でもあります
「納期を前倒ししてほしい」という要請は、いま強い需要の証拠です。同時に、それは本来もっと先に立つはずだった売上を、手前に引き寄せているということでもあります。
ここは、私がこの決算でいちばん引っかかったところです。決算の額は確かに大きいのですが、期待が膨らむと、落胆も大きくなります。
好決算なのに株価が下がる現象は、以前サムスンの記事で分解しました。株価は業績そのものではなく、期待との差分で動きます。そして期待には、欲が紛れ込みます。
株価は高いのでしょうか
数字で確かめます。8月24日の終値55,150円で計算します。
| 前提 | 1株あたり利益 | PER |
|---|---|---|
| 前期実績(純利益5,744億円) | 約1,263円 | 約43.7倍 |
| 営業利益1兆円が実現した場合 | 約1,670円 | 約33倍 |
ここに、見落としやすい点があります。前期の純利益5,744億円には、政策保有株の売却による特別利益が1,154億円ふくまれています。本業で稼いだお金ではありません。
つまり実績PERの43.7倍は、分母がかさ上げされた状態の数字です。本業だけで測れば、実態はもっと高いということになります。
そして1兆円を信じたとしても、PERは約33倍です。私が5月に「分が悪い」と書いたのは35倍でした。33倍でも、私の答えは変わりません。
会社の質を疑っているのではありません。自己資本比率は71.7%で、有利子負債はありません。技術も財務も、5月に「欲しい」と思ったときのままです。
それでも、質の高い会社であることと、今が買い場であることは、別の話です。
フィボナッチで、下値のゾーンを引き直します
では、私の買い場はどこでしょうか。フィボナッチ・リトレースメント(上昇した値幅の何割まで戻るかを測る計算方法)で引き直します。
起点は、2025年9月3日の安値19,870円です。天井は、2026年7月1日の高値81,260円です。この2点を結んで、戻りの水準を出します。
数字にすると、次のようになります。右の列は、営業利益1兆円が実現した場合のPERです。
| 戻りの水準 | 株価 | 1兆円前提のPER |
|---|---|---|
| 38.2%戻し | 57,809円 | 34.6倍 |
| 50.0%戻し | 50,565円 | 30.3倍 |
| 61.8%戻し | 43,321円 | 25.9倍 |
| 78.6%戻し | 33,007円 | 19.8倍 |
ここで面白いことが起きます。私が5月に決めた「PER20〜25倍」という条件と、61.8%戻しから78.6%戻しのゾーンが、ほぼ重なります。
61.8%戻しの43,321円でPER25.9倍。78.6%戻しの33,007円でPER19.8倍。つまり43,000円から下が、私の検討ゾーンということになります。
5月に書いた「30,000円前後」と、いまの「43,000円から下」は矛盾しません。基準を緩めたのではなく、会社が稼ぐ力を上げた分だけ、同じ基準が許す株価が上がっただけです。ものさしは動かしていません。目盛りを当てる対象が変わりました。
今のテクニカル指標は、まだ遠い場所にあります
買い場の条件だったRSIも見ておきます。8月24日時点のRSI(14日)は42.0です。売られすぎとされる30以下には、まだ距離があります。
移動平均線(一定期間の平均株価をつないだ線)との位置関係はこうです。25日線から5.0%下、75日線から10.4%下、200日線からは17.0%上にいます。短期は下げていますが、中長期で見れば、まだ上昇の途中にいる形です。
もうひとつ、気になる数字があります。信用取引(証券会社からお金を借りて買う取引)の信用倍率が、8月14日時点で13.44倍まで上がりました。買いが売りの13倍あるという状態です。
この意味は、以前暴落で売らされるのは誰かという記事に書きました。買い残が積み上がった状態で株価が下がると、売りたくない人が売らされます。下げが速くなる燃料は、いま積まれています。
配当株ではありません。そして10月に値札が変わります
誤解されやすい点を2つ書いておきます。
1つ目。東京エレクトロンは、配当をあてにして持つ株ではありません。この会社は純利益の50%を配当に回す方針を掲げています。業績連動型です。
利益が伸びる年は、配当も伸びます。今回、中間配当が361円から384円へ増えたのも、上期の利益予想が上がったからです。
逆もあります。2024年3月期は営業利益が前の期より26%減りました。この年の年間配当は1,179円で、前の期から31%の減配です。半導体製造装置は3〜4年ごとに山と谷が来る業界で、谷の年には配当も3割減ります。
2つ目。2026年10月1日に、1株が5株に分割されます。5月29日に発表されたもので、基準日は9月30日です。あわせて、上限1,500億円の自社株買いも進んでいます。
分割で会社の価値は変わりません。変わるのは値札です。いま100株を買うには約552万円かかりますが、分割後は約110万円になります。
これは、私がキオクシアの記事で書いた「その指値は10月に意味が変わる」という話と同じ構図です。買いやすくなることと、買うべきであることは違います。
私はどうするか、読者はどう考えるか
私の立場と、読者に検討してほしいことを分けて書きます。
| 項目 | 私(投資歴18年) | 読者への検討材料 |
|---|---|---|
| 東京エレクトロン株 | 直接は保有していません。今回は情報として見ています | 買うなら上限を先に決めることをおすすめします |
| 間接的な保有 | オルカン経由で薄く保有しています | 全世界株式や国内株の投信にも含まれます |
| 買う条件 | 43,000円から下、かつRSI30以下 | 条件は自分で決めて、先に書いておくことが大事です |
取れる行動は、大きく3つあると考えています。
①持たない(投信の中で間接的に持つ)
オルカンや国内株のインデックスファンドを持っていれば、東京エレクトロンはその中に入っています。成長の恩恵は薄まりますが、谷の年の減配や急落を、自分で受け止める必要がありません。
私はこれです。個別株をやめてよかったと書いた理由は、出口を自分で決めなくてよくなったことでした。
②分割後に、上限を決めて小さく持つ
10月の分割後なら、最低投資額は約110万円になります。それでも110万円です。持つなら、総資産の5%以内といった上限を先に決めてください。
上限を決めずに買うと、上がるたびに買い増して、谷のときにいちばん多く持っている状態になります。私がバイオ株でやったのが、まさにこれでした。
③見る数字を3つ決めて、待つ
いま決めなくてもかまいません。ただし「何が変わったら考えを変えるか」だけは、先に決めておきます。私が見るのは、この3つです。
1つ目は、10月末の中間決算で上期予想(営業利益4,580億円)を下回るかどうか。2つ目は、対中規制の強化で売上の3割が削られる動きが出るかどうか。3つ目は、WFE市場の見通し(2026年1,500億ドル・2027年1,900億ドル)が下方修正されるかどうかです。
どれも起きなければ、1兆円は本当だったということになります。
条件を決めて待つなら、口座は先に開けておく
私の主軸はインデックスの積立ですが、口座は用途で使い分けています。個別株を「押し目が来たら考える」という形で見るなら、注文の出しやすさと情報の見やすさで選ぶことになります。以下は私が使い分けている2社です(保有と推奨は別物です。ご自身の目的で選んでください)。
まとめ
この記事で確かめたことを、3つに整理します。
- 営業利益1兆円は、逆算すると届く数字です。下期に5,420億円(上期の1.18倍)が必要で、会社の説明とも矛盾しません。ただし会社の正式な予想ではなく、通期予想はいまも非開示です。
- 株価は、その1兆円をほぼ織り込んでいます。1兆円が実現してもPERは約33倍です。前期実績の43.7倍には、本業以外の特別利益1,154億円がふくまれています。
- 私の買い場は、43,000円から下です。フィボナッチの61.8%戻しが43,321円、78.6%戻しが33,007円。この2つが、5月に決めたPER20〜25倍の条件とほぼ重なります。
まずは、自分が「いくらなら買うか」を紙に書いてみてください。書けない銘柄は、まだ調べ足りていないということです。私は5月に30,000円と書いたので、今回こうして答え合わせができました。
決算の額は、確かに大きいです。それでも、期待が膨らむほど、落胆も大きくなります。質の高い会社であることと、今が買い場であることは、別の話です。どこで売るかを先に決められない人は、インデックスで持つ。決められる人だけが、個別で持つ。東京エレクトロンは、その線引きを試すのにちょうどいい銘柄だと考えています。
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動画版もあります
この記事の内容を、約14分の動画にまとめました。決算の読み方と、私が買い場を43,000円に引き直した手順を、順番に解説しています。文字を読むのが苦手なかた、通勤や家事のすきま時間に聴きたいかたはこちらをどうぞ。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。株価・指標はすべて2026年8月24日終値時点のものです。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
