母が8月の中頃から下旬にかけて、フジクラ(5803)を5,000円前後で買いました。今も持っています。
私は同じ数字を見て、買いませんでした。積立を続けただけで、ほかに何もしていません。
先に書いておきます。母が間違っていて私が正しい、という話ではありません。立っている土俵が違うだけです。そしてこの記事は、結果が出る前に書きます。答え合わせは2027年3月にやります。そのとき株価が上がっていても下がっていても、私の判断は変わりません。それも先に宣言しておきます。
この記事の数字は、すべて2026年9月7日終値(5,241円)の時点のものです。
この半年、フジクラに何が起きたか
まず事実を並べます。断りのない数字は終値です。
2026年4月10日の終値は5,630円でした。そこから5月13日に7,855円まで上がります。
翌5月14日、フジクラは上場来高値の7,933円をつけました。同じ日の14時に2026年3月期の決算を発表し、株価はそこから崩れて、ストップ安の6,355円で終わりました。前日比マイナス1,500円、マイナス19.10%です。
5月19日はマイナス16.95%の4,695円。5月20日には安値4,156円をつけました。高値から4営業日で、47.6%下げたことになります。
6月18日、終値は4,461円まで下げていました。その日の16時53分、会社が業績予想の上方修正を発表します。営業利益の予想を2,110億円から3,100億円へ。理由は「AI投資を背景にした光ファイバー関連製品の旺盛な需要」と「想定外の受注獲得」でした。
翌6月19日はストップ高の5,161円、6月22日もストップ高の6,161円。この2日は始値も高値も安値も終値も同じ価格です。売り物が出なかったということです。6月23日には高値7,068円まで戻し、この日の出来高は1億5,423万株になりました。
そして7月29日、安値3,665円。6月23日の高値から5週間で、48.1%下げています。
8月7日、会社は2度目の上方修正を出します。営業利益の予想を3,100億円から4,320億円へ。株価はプラス12.82%の5,185円で終わりました。
8月17日に6,078円、8月18日には高値6,433円。そして8月19日、マイナス9.73%の5,328円。
母が買ったのは、この後です。
5月14日に起きたのは、「悪い決算」ではありません
ここは丁寧に書きます。誤解されやすいところだからです。
5月14日にフジクラが発表した2027年3月期の会社予想は、売上高1兆2,430億円・営業利益2,110億円・純利益1,560億円でした。前の期と比べると、売上は5%増、営業利益は12%増です。減益予想ではありません。
それでもストップ安になりました。理由は、市場が期待していた数字のほうが大きかったからです。
日本経済新聞によれば、そのときのQUICKコンセンサス(証券会社のアナリスト予想を集計した数字)は、営業利益2,636億円・純利益1,955億円でした。会社が出した2,110億円は、それを20%下回っていたことになります。
株価は、業績で動くのではなく、業績と期待の差で動きます。これは7月にサムスンが営業利益19倍でも急落したときに書いたことと、まったく同じ構造です。
▶ サムスン営業利益19倍でも株価急落——「好決算なのに下がる」が起きる2つの理由
8月19日の下げも、フジクラの問題ではありません
8月19日、フジクラは1日で9.73%下げました。ただしこの日は、日経平均そのものが2,134円31銭(マイナス3.16%)下げた日です。終値は65,326円42銭、一時は2,300円を超える下げ幅でした。
日経新聞が挙げた理由は3つ。前日の米国の半導体株安、中東情勢の不透明感、そして物価高で個人消費が落ち込むという警戒感です。ソフトバンクグループもアドバンテストも、AI・半導体関連は軒並み売られました。
つまり8月19日は、フジクラに何かが起きた日ではなく、AI・半導体が丸ごと売られた日でした。指数が3.16%下げた日に、フジクラは9.73%下げた。その約3倍動いたという事実が、この銘柄の性格を表しています。
業績予想は2.05倍になり、株価は0.82倍になりました
数字を並べ替えます。
| 時点 | 営業利益の予想 | 同じ日の終値 |
|---|---|---|
| 5月14日(当初) | 2,110億円 | 6,355円 |
| 6月18日(1回目の修正) | 3,100億円 | 4,461円 |
| 8月7日(2回目の修正) | 4,320億円 | 5,185円 |
| 9月7日(現在) | 4,320億円 | 5,241円 |
もう一度、5月14日を思い出してください。市場は「2,110億円では足りない、2,636億円は欲しい」と言ってストップ安をつけました。その予想は、いま4,320億円です。市場が求めた2,636億円すら、1.64倍上回っています。
それでも株価は、怒られた日の終値6,355円より安い、5,241円です。
私はここで「だから割安だ」とも「だから危ない」とも言いません。数字が正しいことと、値段が正しいことは別だ、という事実だけを置きます。
地味な電線株が化けた、というのは本当です
フジクラは電線の会社です。その会社が、この4年でどう変わったかを並べます。
| 項目 | 2023年3月期 | 2027年3月期(予想) | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 営業利益 | 702億円 | 4,320億円 | 6.2倍 |
| 1株利益 | 24.7円 | 196.9円 | 8.0倍 |
| 1株配当 | 5円 | 38円 | 7.6倍 |
| 項目 | 2024年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 47.1% | 57.8% |
| 有利子負債倍率 | 0.56 | 0.15 |
稼ぐ力が6倍になり、借金が減り、自己資本比率が10ポイント上がりました。2024年には日経平均の構成銘柄で年間上昇率トップになり、同じ年の11月、MSCIオール・カントリー・ワールド指数(オルカンが連動している世界株の指数)に、日本株では唯一、新規採用されています。同じ回で日本株は7銘柄が外されました。
会社の質を疑う材料は、私にはありません。
3つの見方があり、どれも間違っていません
いまフジクラについて言われていることを、3つに整理します。
見方A「好業績なのに高値の66%。買い」
営業利益の予想は2倍になり、株価は高値の3分の2です。母の見方はここにあります。
見方B「AIはもう織り込まれている」
9月7日終値でPER26.6倍、PBR14.26倍、配当利回り0.73%。これは成長を前提にした値段です。米国の大手テック5社(マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ、オラクル)の設備投資額の合計は、同じ5社の営業キャッシュフローの合計に近い水準まで来ていて、過剰投資への警戒も出ています。
見方C「値動きが荒すぎる」
5月と7月に2回、5週間以内に48%下げています。4月10日から9月7日までの間に、出来高が1億株を超えた日が7日あります。
そして重要なのは、A・B・Cのどれも「上がるか下がるか」の話だということです。答えは半年後にしか出ません。私は当てにいきません。
同じ5,241円が持つ、3つの顔
ここからが、この記事の本題です。
| 何と比べるか | 答え |
|---|---|
| 5月14日の高値 7,933円と比べる | 66.1%(3分の2) |
| 7月29日の安値 3,665円と比べる | 143.0%(4割高い) |
| 1月21日の安値 2,741円と比べる | 191.2%(ほぼ2倍) |
| 今期の予想利益と比べる | PER 26.6倍 |
| 純資産と比べる | PBR 14.26倍 |
同じ株の、同じ日の、同じ1つの値段です。それが「3分の2」にも「ほぼ2倍」にも見えます。
母の「割安」は、高値との比較です。私が見る「割安」は、利益との比較です。
どちらかが正しいのではありません。基準を選べてしまうのです。そして基準を選べる株を、私は割安かどうか判断できません。
私が買わなかったのは、下がると思ったからではありません。判断できなかったからです。
同じ1枚の表が、母の根拠にも私の根拠にもなります
これが、調べていていちばん面白かったところです。
フジクラの業績予想の修正履歴を、3期分並べます。
| 決算期 | 5月に出した当初予想(営業利益) | 実績 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 700億円 | 1,355億円 | 1.94倍 |
| 2026年3月期 | 1,220億円 | 1,887億円 | 1.55倍 |
| 2027年3月期 | 2,110億円 | 4,320億円(現在の予想) | 2.05倍(進行中) |
この会社は3年続けて、5月に出した当初予想を、期の途中で大きく上回ってきました。
母の見方には、履歴の裏付けがあります。5月14日にストップ安をつけた市場は、「この会社の当初予想は毎年低い」という3年分の記録を無視していた、とも言えます。
ところが、同じ表には続きがあります。
| 2026年3月期のできごと | 営業利益 |
|---|---|
| 2026年2月9日に上方修正した予想 | 1,950億円 |
| 5月14日に出た実績 | 1,887億円 |
| 差 | マイナス3.2%(未達) |
2026年3月期は、上げた予想に実績が届きませんでした。経常利益も2,040億円の予想に対して1,995億円で、2.2%の未達です。
上方修正は、約束ではありません。
母が見ているのは、この表の「毎年上回ってきた」という顔です。私が見ているのは、同じ表の「上げた予想も落ちる」という顔です。データは1枚。読み方が2つあるのではなく、何と比べるかが2つあるのです。
私の型を当てはめると、買い場は7月29日でした
3か月前、私は東京エレクトロンについて「私の買い場は43,000円から下です」と書きました。フィボナッチ・リトレースメント(上げた値幅の何割まで戻るかを測る計算方法)で、61.8%戻しから78.6%戻しのゾーンを検討範囲にする、という型です。
▶ 東京エレクトロン、営業利益1兆円は本当か——過去最高決算でも株価が3割下げた理由と、私の買い場
同じ型を、フジクラに当てはめてみます。起点は1月21日の安値2,741円、天井は5月14日の高値7,933円です。
私の検討ゾーンは、61.8%戻しの4,724円から、78.6%戻しの3,852円までです。
フジクラは、そこに入っていました。7月29日の安値3,665円は、78.6%戻しの3,852円すら下回っています。私の型でも、買い場は来ていたのです。
問題はここからです。
7月29日の終値3,760円から、8月7日の終値5,185円まで、7営業日でプラス37.9%。8月18日の高値6,433円まで見れば、7月29日の安値からプラス75.5%です。
買い場は来ました。そして7営業日で消えました。
これが、私が「この株は私の型では扱えない」と考える理由です。押し目が来ないのではありません。来た押し目が、判断する時間を与えずに消えていく速度が、私の型の想定外なのです。
母と私は、違う土俵に立っています
整理します。
| 母 | 私 | |
|---|---|---|
| 目的 | 個別株で財産を作る | 出口の自由度を最優先に保つ |
| 「割安」の基準 | 高値7,933円との比較 | 今期の予想利益との比較 |
| 買う理由 | 上がると踏んだから | (買っていません) |
| 売る理由 | 上がったとき、または見立てが外れたとき | 買った理由が消えたとき |
| 20%下がった日の行動 | 買う前に決めてある | 決められないので、持たない |
| フジクラの保有形態 | 現物で直接 | オルカン・S&P500経由で間接的に |
| 半年後に見るもの | 株価 | 何も見ない(積立を続けるだけ) |
ひとつ、はっきりさせておきたいことがあります。私はすでにフジクラの株主です。オルカンを積み立てている以上、MSCIオール・カントリー・ワールド指数に入っているフジクラを、私は間接的に持っています。
だから今回のことは「買い逃した」ではありません。「集中しなかった」だけです。買い足せば集中になり、買わなければ分散のままです。私は分散のままを選びました。
これは以前、Micronのときにも書いたことです。
▶ Micronとは何の会社か?S&P500の第8位になった“メモリの巨人”
そしてもうひとつ。母は、5月と7月の暴落を見た上で買っています。高値から48%下げるところを2回見て、それでも8月に買った。それは母の胆力であって、私にはないものです。
土俵の選び方は、性格の問題です
4月に、私は2本の記事を書きました。
▶ 個別株をやめてよかった理由【インデックス投資に切り替えた話】
▶ 個別株で勝てる人・勝てない人の決定的な差【投資歴18年の結論】
個別株をやめたのは、損をしたからではありません。出口の判断を毎回迫られるのが、性格に合わなかったからです。
母は、判断を迫られることを苦にしません。私は苦にします。それだけの違いです。優劣ではありません。
ここで「人それぞれですね」で終わらせないために、ひとつだけ具体的な線を引きます。
入口は誰でも書けます。書けないのは、出口です
8月25日の東京エレクトロンの記事で、私はこう締めました。「自分がいくらなら買うかを紙に書いてみてください」と。
あれは入口の話でした。そして正直に言えば、入口は誰でも書けます。「4,000円になったら買う」と書くのは簡単です。
書けないのは、その先です。
買った株が20%下がった日に、自分が何をするか。それを、買う前に紙に書けるかどうか。
フジクラは、8月19日に1日で9.73%下げました。5月と7月には、5週間以内に48%下げています。この株を持つというのは、その日に何をするかを、あらかじめ決めておくということです。
- 買い増すのか
- 何もしないのか
- 半分売るのか
- 全部売るのか
書けるなら、母の土俵で戦えます。書けないなら、インデックスの土俵にいたほうがいい。
私は書けませんでした。だから買いませんでした。それだけです。
▶ キオクシア急落で「売らされた」のは誰か——暴落で売らずに済む人が持つ、2つの構造
母の土俵で戦うなら、最低限そろえるもの
もし個別株の土俵で戦うと決めたなら、ひとつだけ先にそろえておいたほうがいい道具があります。業績予想の修正履歴を、時系列で見る道具です。この記事で使った表——今期の2,110億円→3,100億円→4,320億円という流れも、2026年3月期に1,950億円まで上げた予想が1,887億円で着地したことも、1つの画面で見られます。マネックス証券の「銘柄スカウター」です。
銘柄スカウターライトは口座がなくても使えます。今回の修正履歴も、私はそこで見ました。口座を開くと(開設も維持も無料)銘柄スカウター本体になり、修正履歴をグラフで確認できるようになります。比較できる銘柄も、2銘柄から最大6銘柄に増えます。
なぜこれを勧めるかというと、この記事で母と私の判断が分かれた材料が、まさにこの1枚の表だったからです。「毎年上回ってきた」と読むか、「上げた予想も落ちる」と読むか。どちらを取るにしても、表を見ないまま決めるよりはいいと思っています。なお私の主軸はインデックスの積立で、別の証券会社を使っています(保有と推奨は別物として書いています)。
私が8月にやったこと
正直に書きます。
何もしていません。
フジクラは買いませんでした。積立の金額も変えていません。配分も変えていません。積立の設定画面すら開いていません。いつもどおり、決めた日に決めた額が引き落とされただけです。
書いていて少し物足りないのですが、これが事実です。そして「何もしなかった」ことが、私の場合は判断そのものでした。
7月にIBMが25%暴落したときも、私はそれを翌日まで知りませんでした。一喜一憂しないというのは、我慢することではなくて、動揺する必要のない構造を先に作っておくことだと思っています。
母には、何も言っていません。「危ないよ」とも「よく買ったね」とも言いません。母は母の土俵で、自分の判断でやっています。私が口を出す筋合いのものではありません。
まとめ:2027年3月に、答え合わせをします
この記事で確かめたことを、3つに整理します。
- 営業利益の予想は3か月弱で2.05倍(2,110億円→4,320億円)になり、株価は0.82倍になりました。市場が5月に「足りない」と言った2,636億円すら、いまの予想は1.64倍上回っています。それでも株価は、ストップ安をつけた日の終値より安いままです。
- 同じ5,241円が、高値と比べれば66.1%、7月の安値と比べれば143.0%、利益と比べればPER26.6倍です。基準を選べてしまう株を、私は「割安かどうか判断できない株」と呼んでいます。買わなかったのは、下がると思ったからではなく、判断できなかったからです。
- 同じ1枚の修正履歴が、母の根拠にも私の根拠にもなりました。「当初予想を毎年上回ってきた」(1.94倍・1.55倍)も、「2026年3月期は上げた予想1,950億円に実績1,887億円が届かなかった」も、どちらも同じ表に載っています。
最後に、読者のみなさんに渡したいのは、銘柄の判断ではなく、ひとつの問いです。
その株が20%下がった日に、自分が何をするか。それを買う前に紙に書けますか。
書けるなら、個別株の土俵で戦えます。書けないなら、インデックスの土俵にいたほうが、たぶん長く続きます。
私は2027年3月に、この記事の答え合わせを書きます。そのときフジクラが8,000円になっていても、3,000円になっていても、私の判断は変わりません。なぜなら私が判断したのは株価の行き先ではなく、自分がどちらの土俵に立つかだったからです。
母は、たぶん今も株価を見ています。私は見ていません。それでいいと思っています。
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出典
- 株価・出来高・業績・財務:株探(kabutan.jp)2026年9月7日取得
- 業績予想の修正履歴:マネックス証券「銘柄スカウターライト」2026年9月7日取得
- 5月14日の市場予想(QUICKコンセンサス)、6月18日の上方修正、8月19日の日経平均:日本経済新聞
- 株式分割(1対6・基準日2026年3月31日):2026年2月25日 適時開示
- MSCIオール・カントリー・ワールド指数の銘柄入れ替え(2024年11月):日本経済新聞・Bloomberg
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・業績予想はいずれも2026年9月7日時点のもので、その後変動します。筆者はフジクラ株を直接保有していませんが、インデックスファンドを通じて間接的に保有しています。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

