日米協調介入の「残弾」は4発か33発か|外貨準備を分母で割ると答えが変わります

ドル円の価格が動いたことに気づいた夜、私は何もしなかった マーケット・相場分析
日米協調介入の「残弾」は4発か33発か

ドル円の価格が動いているのに気づいて、ニュースを見ました。順番が逆です。報道で知ったのではなく、価格で気づきました。

28年ぶりの日米協調介入だと書いてありました。1ドル163円台から155円台へ、8円ほど円高に戻っていました。

私はその数日間、何もしていません。積立の設定も、円転もドル転も、いっさい触っていません。動かないのが鉄則だからです。

ただ、報道を追いかけているうちに、ひとつ気になったことがありました。「日本の“残弾”はあと何発か」という記事が、媒体によって4発と書いてあったり、33発と書いてあったりすることです。

調べたら、両方とも正しい数字でした。違っていたのは分母です。

この記事では、財務省が公表している外貨準備の原表から、その分母を割り出します。あわせて、残高データだけで分かってしまう「5月の介入11.7兆円は、どこから出したのか」もお見せします。

まず、何が起きたのか

日米協調介入——日本と米国の通貨当局が同じタイミングで行う為替介入のことです。通常、為替介入はそれぞれの国が単独で行います。二国が足並みをそろえるのは、それ自体が異例のメッセージになります。

2026年7月末に起きたことを、時系列で並べます。

日付出来事
7月30日日本の通貨当局が単独で円買い介入。1ドル162円台後半から157円台へ
7月31日(米東部時間)日米が協調して円買い介入。米側はユーロ売り・円買いという異例の形
8月3日日米の通貨当局が実施を認める。追加介入の可能性にも言及
8月3日一時1ドル155円20銭付近。直前は163円を超え、約40年ぶりの円安圏だった
報道各社の伝えた内容を時系列に整理。介入の実額は確定値ではありません(後述)

円買い方向での協調介入は1998年6月以来、約28年ぶりです。協調介入そのものとしては、東日本大震災後の2011年3月(このときは円売り方向)以来、約15年4か月ぶりになります。

ここで、もうひとつ言葉を定義しておきます。外貨準備とは、政府と日銀が持っている対外支払い用の資産のことです。円を買う介入をするときは、この中のドル資産を売って円を買います。だから「残弾はいくらか」という話が出てきます。

いま流通している、2つの見方

今回の介入について、市場には正反対の見方が並んでいます。どちらも一定の説得力があるので、まず正確に紹介します。

見方A:実弾には限りがある。あと数回で打ち止め

介入の原資は無限ではありません。すぐに使える資金は限られていて、あと数回撃ったら弾切れになる——だから相場は結局もとに戻る、という見方です。「あと4発」という数字はここから出てきます。

見方B:米国が参加した。今度は本気で、トレンド転換の号砲だ

28年ぶりに米国が円買いに加わったこと自体が決定的だ、という見方です。日本が単独でいくら撃っても市場は本気にしませんが、米国が乗ったのなら話が違う。ここが円安の天井だった、というものです。

この2つを頭に置いたうえで、数字を見ていきます。

「残弾」は分母で決まる

最新の公表値は2026年6月末です(2026年7月7日公表)。財務省の原表から、そのまま持ってきます。

項目金額(百万ドル)構成比
証券928,58172.1%
預金161,93412.6%
109,5058.5%
IMFリザーブポジション11,3140.9%
SDR60,3874.7%
その他15,7551.2%
合計1,287,476100%
出典:財務省「外貨準備等の状況(令和8年6月末現在)」2026年7月7日公表

ここから残弾を計算します。前提を先に書きます。この前提を書かない残弾記事が多いので、そこがいちばん大事なところです。

  • 1ドル=155円で換算する
  • 1回の介入を6兆円と仮定する(今回の報道されている規模感から置いた数字で、決まった額ではありません)
どこまでを「弾」と数えるか金額円換算残弾
預金だけ1,619億ドル約25.1兆円約4発
外貨資産(証券+預金)1兆905億ドル約169.0兆円約28発
外貨準備の総額1兆2,875億ドル約199.6兆円約33発
2026年6月末の公表値をもとに計算。155円換算・1回6兆円と仮定した場合

「4発」も「33発」も、どちらも財務省の同じ表から出てきます。違うのは、どこまでを弾と数えるかだけです。

外貨準備を「どこまで弾と数えるか」で答えが変わる 2026年6月末・財務省公表値/155円換算・1回6兆円と仮定 その他 1.2% SDR・IMF 5.6% 金 8.5% 証券 72.1% 9,286億ドル 預金 12.6% 1,619億ドル 預金だけで数えると 約4発 証券+預金で数えると 約28発 総額で数えると 約33発 出典:財務省「外貨準備等の状況(令和8年6月末現在)」
外貨準備の三層構造と、分母ごとの残弾数

読者のみなさんがこれから残弾の記事を読むときは、その数字がどの分母で計算されたものかを確認してください。それだけで、記事の主張の強さが変わります。

数字が示した3つのこと

ここからが、原表を並べて初めて見えたことです。直近3か月を横に並べます。

項目(百万ドル)4月末5月末6月末
総額1,382,9941,305,8741,287,476
前月比+8,260−77,120−18,398
証券1,007,241931,678928,581
預金162,197162,235161,934
125,425123,646109,505
出典:財務省「外貨準備等の状況」各月(2026年5月12日/6月5日/7月7日公表)

① 預金は、3か月ほとんど動いていない

預金の行だけを見てください。162,197 → 162,235 → 161,934。3か月で0.16%しか減っていません。

おかしいのは、この間に何があったかです。2026年4月29日から5月28日までの円買い介入額は11兆7,000億円で、月次の公表としては過去最大でした。それだけ撃ったのに、5月末の預金は4月末よりわずかに増えています(+38百万ドル)。

つまり、「預金=すぐ撃てる弾の上限」という前提が、そもそも成り立っていません。「あと4発」という数字は、この前提の上に立っています。

② 5月の11.7兆円は、証券から出ていた

では、どこから出したのか。同じ表の証券の行を見ます。

4月末 1,007,241 → 5月末 931,678。差は755億6,300万ドルです。155円で換算すると約11兆7,100億円

公表された介入額11兆7,000億円と、ほぼ同じ規模です。

⚠️ ここは慎重に書きます。証券は時価評価なので、この減少には金利変動による債券価格の値動きも混ざっています。「一致した」と言い切ることはできません。それでも、預金がまったく動かない一方で証券だけがこの規模で減っているという事実は、原資がどちらだったかを十分に示していると思います。

米国債などの証券を売れば、その分だけ弾は補充できます。残高でいえば、日本の手元にはまだ相当あります。

③ 「減った=撃った」ではない

そして、これがいちばん誤解されやすいところです。

6月末の総額は前月比−183億9,800万ドルでした。「また介入で減った」と読みたくなります。ところが中身を分解すると、こうなります。

減少の内訳(6月)金額(百万ドル)全体に占める割合
−14,141約77%
証券−3,097約17%
SDR−507約3%
預金−301約2%
IMFリザーブポジション・その他−352約2%
2026年6月の外貨準備減少の内訳。財務省公表値から算出

減少の約77%は金の評価額の下落でした。財務省の原表には「証券、金は時価評価している」と明記されています。金を売ったのではなく、金の値段が下がっただけです。

外貨準備の増減は、介入だけでなく、金の価格・債券の価格・ドル以外の通貨の為替レート、そのすべてで動きます。残高の増減から介入額を読み取ることはできません。

残弾を数える議論は、この土台の上に立っています。数え方を間違えているというより、そもそも数えられないものを数えようとしている、というのが私の理解です。

本当の制約は、残高ではなく米国の同意だった

では何が介入の上限を決めてきたのか。

証券を売るというのは、その大半が米国債を売るということです。米国債を大量に売れば、米国の長期金利は上がります。米国にとっては、自国の住宅ローン金利や政府の利払いに跳ね返る話です。

つまり日本の介入は、金額の問題である前に「米国がどこまで容認するか」の問題でした。残高がいくらあっても、相手が嫌がれば撃てません。

その意味で、今回の28年ぶりの協調には意味があります。米国が自ら参加したということは、その天井が動いた可能性を示しているからです。見方Bが指摘しているのは、ここです。

それでも、介入は原因に触れていない

ただし、天井が動いたとしても、円安の理由そのものは何ひとつ変わっていません。

  • 金利差——日米の金利差は介入では動きません
  • 財政——政府債務の水準も動きません
  • 産業構造——デジタル赤字や、稼ぐ力の構造も動きません

私は6月に日銀が利上げしても、なぜ円安は止まらないのかという記事を書きました。政府と日銀が「アクセルとブレーキ」を同時に踏んでいる国では、片方だけ強く踏んでも進む向きは変わらない、という話です。

介入は、時間を買う行為です。買った時間で構造を変えるなら意味がありますが、介入そのものが構造を変えることはありません。

Hiroとして正直に書くと、報道を見たときに思ったのはこれでした。円安を止めたいのは分かる。でも、無駄な努力だ。

1998年、協調介入の2か月後に何が起きたか

前回の円買い協調介入は1998年6月17日でした。何が起きたのかは、記録が残っています。

時点ドル円
6月15日(介入前のピーク)146.7円
6月19日(介入から2営業日目)133.6円
→ 最大で13円程度の円高に戻した
約2か月後介入前の円安水準を更新
出典:マネックス証券・吉田恒氏「【為替】円安阻止効果が2ヶ月だった日米協調」(2026年2月19日)

このときの介入額は、日本の通貨当局が2,312億円。米国側は数百億〜数千億円程度だったと推定されています。効果のピークは介入から2営業日目で、そこからはじりじりと円安が再開しました。

そして約2か月後、円は介入前の水準を更新しました。13円戻した効果は、2か月で消えたことになります。

⚠️ よく見かける説明の、時系列に注意してください

今回の解説記事のなかに、「1998年の協調介入後、約2か月でドル円は147円台から110円台まで円高が進んだ」という趣旨の記述が見られます。

これは時系列が圧縮されています。介入の約2か月後に起きたのは、円高ではなく円安水準の更新でした。1998年秋に起きた大幅な円高は、それとは別の出来事です。

この違いは、結論を正反対にします。前者なら「協調介入は効いた」になりますが、実際の順番は「介入の効果は2か月で消え、そのあと別の理由で相場がひっくり返った」です。円安を終わらせたのは、介入ではありませんでした。

ここでキャリー取引という言葉が出てきます。低金利の通貨で借りて、高金利の通貨で運用する取引のことです。円は長く「借りる側」の通貨でした。1998年秋に起きたのは、金融市場の混乱でこの取引が一斉に巻き戻され、借りていた円を返すために円が買われた、という動きです。

つまり円安を終わらせたのは、通貨当局ではなく外部からのショックでした。そして外部からのショックは、当然ながら日程表には載りません。

明日8月7日8時50分、何を見ればいいか

7月末の外貨準備は、2026年8月7日(金)午前8時50分に財務省から公表されます。この記事を公開した翌朝です。

見るべきなのは総額ではありません。証券の行と、預金の行です。

見る場所読み取れること
預金(6月末 161,934)また動いていなければ、「預金=弾の上限」説は4か月連続で否定される
証券(6月末 928,581)ここが大きく減っていれば、5月と同じ「証券を売って撃つ」形が繰り返されたことになる
金(6月末 109,505)ここの増減は介入と無関係。総額の動きを説明するための引き算に使う

⚠️ ひとつ、先に釘を刺しておきます。7月30日と31日の介入は、7月末の残高には反映されない可能性が高いです。為替の決済は取引の2営業日後に行われるため、月末ぎりぎりの介入は翌月分に回ります。

ですから8月7日に数字が減っていなくても、「介入していなかった」という意味にはなりません。今回の介入が数字に出てくるのは、9月上旬に公表される8月末分です。介入額そのものの確定値は、財務省が月末に公表する介入実績を待つことになります。

いま出回っている「5兆円超」「8兆円超」といった数字は、すべて観測です。私はこの記事で実額を断定しません。

私は、何もしていません

ここまで数字を並べましたが、私自身がこの数日間にやったことを正直に書くと、何もしていません。

積立の設定は変えていません。円転もドル転もしていません。証券口座の残高すら、特に確認していません。

私の投資歴は18年で、S&P500に連動するVOOを6年持っています。ドルを買ったのは115円の時代です。今回163円から155円に動いたのを見ても、この程度の動きだ、というのが正直な感想でした。

8円というと大きく聞こえます。率にすれば約5%です。積立を18年続ける前提の人にとって、5%の為替の振れは、そこで判断を変える理由になりません。

「続ける理由」と「買い増す理由」は別です

ここを混ぜないでください。私は混ぜません。

今回の局面での判断
積立を続ける理由ある。積立は為替の方向を当てにいく手法ではないから、方向が分からなくても続けられる
買い増す理由ない。8円・約5%の円高は、私にとって行動を変える水準ではない

理屈のうえでは、積立を続けている人にとって円高は仕入れ値の低下です。同じ1万円で、より多くの外貨建て資産が買えます。一括で買った人にとっての円高(含み損)とは、意味が正反対になります。

ただ、それは「だから今が買い場だ」という話ではありません。私はこの局面で買い増していません。仕入れ値が少し下がった月が1回あった、というだけのことです。

「あなたの積立が円安の燃料だ」と書いた私が、それでも続ける理由

6月に私はあなたのオルカン積立が、円安の燃料になっているという記事を書きました。国民の積立による円売りが、政府の円買いを上回っているという「ねじれ」の話です。

燃料だと書いておいて続けるのか、と思われるかもしれません。ここは正面から答えます。

円安は潮流です。個人にはどうしようもありません。そして介入のような一時的な動きは、その潮流の実態には関係がありません。私にできるのは、方向を当てにいかない手法を選んで、それを淡々と続けることだけです。

自分の積立が構造の一部であることは事実として認めます。認めたうえで、それをやめても円安は止まりません。やめて損をするのは自分だけです。だから淡々と積み立てます。

この局面で、決めておくといいこと

1. 介入報道を、積立をやめる理由にしない

介入のニュースは「相場が大きく動く」という印象を残すので、積立をやめる口実としてもっとも使われやすいものです。しかし積立は、為替の方向に賭けていません。方向が読めないことは、やめる理由になりません。

2. 円転する水準は、荒れる前に決めておく

外貨建ての配当や資産を円に戻す予定がある人は、円高が進むほど手取りが減ります。荒れているときに考え始めると判断がぶれるので、水準は先に決めておくのが安全です。

あわせて、円に戻すときの税金の扱いには落とし穴があります。銀行や証券会社の画面に出る「利益」は、税務上の為替差益と一致するとは限りません。私自身、表示額と実際が約25倍ずれていたことがあります(配当500ドルを円転したら、銀行表示の利益25,689円が「幽霊」だった)。

金の現物を売る場合も同じで、円高局面では税金の計算がついて回ります(金を売った時の税金)。

3. 「持つ外貨」と「稼ぐ外貨」を分けて考える

外貨を持つことは、為替の方向に賭けることです。稼ぐ力に投資することは、方向に依存しません。同じ「ドル」でも意味がまったく違います。

私の資産配分の考え方は、円・外貨建て資産・金の三分割です。読者のみなさんに合わせるべき比率があるわけではありませんが、「全部が同じ方向に動かない状態を作っておく」という発想は、こういう局面でこそ効きます。

まとめ

  • 「残弾4発」も「残弾33発」も同じ財務省の表から出ている。違うのは分母だけ
  • 預金は3か月でほとんど動いていない。「預金=弾の上限」は成り立たない
  • 5月の11.7兆円は、規模から見て証券を売って出したと考えるのが自然
  • 6月の減少の約77%は金の評価額の下落。残高から介入額は読み取れない
  • 本当の制約は残高ではなく米国の同意。28年ぶりの協調は、その天井が動いた可能性を示す
  • ただし介入は金利差・財政・産業構造のどれにも触れていない
  • 1998年は、介入の効果が消えた約2か月後に円安水準を更新した。円安を終わらせたのは介入ではなく外部ショックだった
  • 私は何もしていない。この程度の動きに振り回されないことが、いちばんの結論です

証券口座について

この記事で使った1998年のデータは、マネックス証券が公開しているレポート(吉田恒氏「為替デイリー」)に依拠しています。証券会社が無料で出しているこの種の解説は、為替の過去データを確認するときに実際に役立ちます。

口座を持っていれば、こうしたレポートを読む導線が日常の中に入ります。私は「介入で相場が動いたから口座を開く」という順番は勧めません。ただ、過去に何が起きたかを自分で確認できる環境を持っておくことは、報道に振り回されないための実用的な備えになります。

マネックス証券の口座開設

動画でも解説しました(約12分)。この記事の内容を5章に分けて音声で解説しています。外貨準備の三層と、分母ごとに答えが変わる仕組みを、順を追って追いかけられるように作りました。

第1章 ニュースではなく価格で気づいた/第2章 残弾4発と33発はどちらも正しい/第3章 預金は3か月動いていない/第4章 減った、は、撃った、ではない/第5章 私は、何もしていません

あわせて読みたい

読者のみなさんへ

  • これから積立を始める方——為替の水準は、始める時期を決める材料になりません。始めたあとに続けられる金額かどうかだけを見てください
  • すでに積立中の方——今回のような報道は、これから何度も来ます。そのたびに設定を触らないことが、いちばん効きます
  • 円転の予定がある方——水準と税金の扱いを、荒れる前に決めておいてください

※ 本記事は特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。外貨準備の数値は財務省「外貨準備等の状況」の公表値、1998年の為替データはマネックス証券の公開レポートに基づきます。今回の介入規模は報道による観測値であり、確定値は財務省の公表を待つ必要があります。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。

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【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
この記事を書いた人
hiro

投資歴2007年から約18年。VOO・QQQ・金(サクっと純金)・eMAXIS Slim S&P500・オルカン・個別株を保有。「絶望買い×インデックス投資」で暴落局面こそ買い増すスタイル。長期的なアメリカ経済への信頼を軸に運用しています。AI×投資で資産運用ツールを開発中。完成次第フリーで公開予定。

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