積立投資に「卒業」はある——やめていいラインの計算式

積立投資の卒業ラインを見つめる月城ミオ。上昇するチャートに1本の水平線が引かれ、やめていいラインの計算式を示している インデックス投資
卒業ライン=(年間生活費 − 年金などの収入)× 倍率

積立投資の記事は、たいてい「いつ始めるか」と「いくら積むか」の話で終わります。
やめどきの話は、ほとんど見かけません。

でも、積立には終わりがあります。
正確に言えば、終わっていい水準があります。

この記事で書く計算式は1つだけです。
(年間生活費 − 年金などの収入)× 倍率。これだけです。

年間の不足額が100万〜120万円の人なら、答えは2,500万〜3,429万円のどこかに出ます。
なぜその倍率になるのか。そして、なぜ私が教科書どおりの25倍を使わないのか。
順番に書いていきます。

積立投資には「卒業ライン」があります

結論から書きます。
積立をやめていい水準は、次の式で出ます。

卒業ライン =(年間生活費 − 年金などの収入)× 倍率

倍率は、取り崩し率(資産から毎年引き出す割合)の逆数です。
年4%で引き出すなら100÷4で25倍。年3.5%なら100÷3.5で約28.6倍になります。

たとえば年間の生活費が360万円で、年金などの見込み収入が240万円の人。
不足するのは年120万円です。

この120万円を資産に稼がせればいいので、120万円×25倍で3,000万円
安全側に倒して28.6倍で見るなら3,429万円になります。

年間の不足額 ×25倍(取り崩し率4.0%) ×約28.6倍(同3.5%)
80万円 2,000万円 2,286万円
100万円 2,500万円 2,857万円
120万円 3,000万円 3,429万円
150万円 3,750万円 4,286万円
卒業ラインの早見表。不足額に倍率を掛けるだけで出ます(筆者作成)

ここで大事なのは、「2,000万円」のような他人の数字を使わないことです。
必要な額は、あなたの生活費と、あなたの年金で決まります。

まだその金額に遠い人ほど、先に計算しておく価値があります。
目的地が決まってはじめて、いまの積立額で間に合うのかを判定できるようになるからです。

なぜ25倍なのか——1998年に行われた実験があります

25倍という数字には、元になった研究があります。
トリニティ・スタディ、通称4%ルールです。

米国の3人の教授が、70年分のデータで検証しました

トリニティ・スタディは、1998年に発表された研究です。
書いたのは、米国テキサス州にあるトリニティ大学の教授3人でした。
Philip L. Cooley、Carl M. Hubbard、Daniel T. Walz の3氏です。

掲載先は、米国個人投資家協会(AAII。個人投資家向けの非営利団体)の会報でした。

3人が調べたのは、次のことです。
「引退後、資産から毎年いくら引き出せば、資産が尽きずに済むのか」。

使ったのは1926年から1995年までの、実際の株式と債券の値動きでした。
そこから15年・20年・25年・30年のあらゆる期間を切り出して、繰り返し検証しています。

株式100%から債券100%まで5つの配分を用意し、引き出し率も年3%から12%まで振っています。
組み合わせを総当たりで試した、地味で膨大な作業です。

結果は「4%なら30年間、ほぼ尽きなかった」でした

結果はこうでした。
まず、配分は株式50%・債券50%、または株式75%・債券25%とします。

そのうえで、初年度に資産の4%を引き出します
2年目からは、物価の上昇に合わせて引き出す金額を増やしていきます。

この方式なら、30年間で資産が尽きなかった割合は95〜100%でした。

ここは誤解が多いので、はっきり書いておきます。
4%ルールの4%は、毎年その時点の残高の4%を引き出す方式ではありません
初年度の資産額に対する4%を、その後は物価上昇分だけ増やしながら引き出し続ける方式です。

そして、この4%から25倍が出ます。
年間に必要な金額が、資産の4%に収まっていればいい。
つまり必要額÷0.04=必要額×25、というだけの計算です。

ただし、盛らずに書きます。
これは米国の、過去70年間の、30年という期間についてのデータです。
将来を保証するものではありませんし、日本円で暮らす人を対象にした研究でもありません。

「積立はやめたら負け」という空気は、どこから来るのか

この記事を書こうと思ったのは、単純な疑問からでした。
目標を分かったうえで積立をしている人は、どれだけいるのだろうか、と。

投資の世界には、積立は続けるほど正しい、という空気があります。
やめる人は脱落者、という扱いを受けることさえあります。

この空気そのものは、間違っていません。
私自身、2026年上半期を振り返って一番勝ったのは「何もしなかった人」だったと書きました。
相場を読んで売り買いするより、淡々と続けるほうが結果は良くなりやすいです。

ただ、続けることは手段であって目的ではありません

問題は、「続ける」がいつの間にか目的になってしまうことです。
何のために積むのかが抜け落ちると、いくら貯めても不安は消えません。

そしてもうひとつ、構造の話をしておきます。
これは陰謀ではなく、ただの料金体系の話です。

投資信託の信託報酬(運用にかかる手数料)は、残高に対して毎日かかります
仮に年0.1%の投信を3,000万円分持っていれば、年3万円が自動で引かれます。

つまり、積立が続いて残高が増えるほど、運用会社と販売会社の収入は増えます。
逆に言えば、「そろそろやめていいですよ」と言う動機を持っている人が、どこにもいません

始め方の記事があれだけ多いのに、やめどきの記事が少ない理由は、たぶんこれです。
だから、やめどきは自分で決めるしかありません。

私が25倍ではなく「約29倍」で見ている理由

ここからは私の解釈です。
学術的な裏づけがあるわけではないので、意見として読んでください。

日本人は、円で暮らしてドルで運用しています

トリニティ・スタディは、米国の投資家が米ドルで暮らす前提で作られています。
つまり、稼ぐ通貨と使う通貨が同じです。

ところが日本に住む私たちは違います。
生活費は円で払います。
一方でS&P500やオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)の中身は、ドルなどの外貨建て資産です。

これは、為替という前提がもう1つ乗っているということです。
たとえば米国株の価格が現地通貨でまったく動かなくても、1ドル150円が120円になれば、円で見た価値は2割減ります。

取り崩しを始めた最初の数年に円高が来ると、影響は長く残ります。
安く売った分だけ、資産の減りが早くなるからです。

だから、取り崩し率を4.0%から3.5%に落としています

この不確実性のぶん、私は安全側に倒しています。
取り崩し率を4.0%ではなく3.5%で見る。倍率にすると25倍ではなく約28.6倍です。

年間の不足額が120万円の人なら、3,000万円が3,429万円になります。
その差は429万円です。

このグラフは、年間の不足額が120万円の人の卒業ラインが、取り崩し率によってどれだけ変わるかを示しています。

4.0%(25倍) 3,000万円 3.5%(約28.6倍) 3,429万円 3.0%(約33.3倍) 4,000万円 慎重に見るほど、必要な金額は大きくなります
年間不足額120万円の場合の卒業ライン比較(筆者計算)

NISAの非課税は、計算そのものを簡単にしてくれます

この計算には、税金をどう扱うかという論点がついてきます。
ここでNISA(少額投資非課税制度)が効いてきます。

NISAの中で持っている資産は、売っても税金が引かれません。
ですから年120万円が必要なら、120万円を売れば120万円が手元に残ります

一方、特定口座(課税される通常の口座)だと、売った利益に20.315%の税金がかかります。
手取りで120万円にするには、もう少し多く売る必要があります。

つまり、NISAの中で卒業ラインに届いている人ほど、計算をシンプルに保てます
非課税の恩恵は、積むときではなく崩すときに一番大きく出ます

目標のない積立は、不安の積立でもあります

ゴールを決めずにマラソンを走るのは、かなりきついはずです。
あと何キロ走ればいいのか分からないまま、走り続けることになるからです。

積立投資も同じです。
何年続けるのか、いくらまで積むのかが分からないまま走ると、いつまでも息が上がったままになります。

私は以前、5億円くらい貯めればいいだろうと、ぼんやり考えていました。
根拠はありません。多ければ安心だと思っていただけです。

実際に計算してみたら、100歳で使い切る前提なら3.88億円で足りると出ました。
数字を出すまで、自分が何を目指しているのかを知らなかったわけです。

ゴールを数字で持つと、2つの自由が同時に手に入ります。
続ける自由と、やめる自由です。

ゴールがないと、増えても減っても不安になります。
いくら貯めても「まだ足りないかもしれない」が消えないからです。

私はまだ、自分の卒業ラインに全然届いていません

ここは正直に書きます。
私も、自分の卒業ラインを計算したことがあります。

出てきたのは、想像よりずっと高い金額でした。
そして今の私は、そこに全然届いていません

だから私は、いまも積立を買い続けています。
やめない理由は立派なものではありません。単純に、まだ足りていないからです。

いまは、そこへ届かせようと必死になっている最中です。
その過程を読んでくれる人がいることは、正直ありがたいと感じています。

私が自分でやっていることと、読者のみなさんへの提案は、同じではありません。
分けて書きます。

項目 私(投資歴18年) 読者への提案
卒業ラインを計算したか 計算しました。想像よりずっと高い額が出ました まず計算してみてください
いまの立ち位置 全然届いていません。だから買い続けています 人によって違います
達したあとの新規積立 届いていないので、まだ決めていません やめて構いません
取り崩し方 変動定率法(相場で率を変える) 定率4%+ガードレールから
保有と推奨は分けて書きます。私の選択をそのまま真似する必要はありません

大事なのは、目標は人それぞれだということです。
私に出た金額は、あなたの金額ではありません。

だからこの記事では、金額そのものではなく目標の出し方を書いています。
崩し方まで具体的に決めたい方は、変動定率法をまとめた出口戦略の記事もあわせて読んでみてください。

年金は「当てにしない」けれど、「測ります」

この計算式には年金が入っています。
年金を当てにするのか、と思われた方がいるかもしれません。

私は、年金を当てにしない設計をしています。
年金がゼロでも生きられる前提で組む、という考え方です。

ただし、「当てにしない」と「測らない」は別です。
当てにしないとは、配られる前提で人生を組まないこと。
測るとは、配られた分をきちんと数えることです。

見込み額を知らないまま「たぶん足りない」と思っているほうが、判断としては危ういと考えています。
足りない分をどう埋めるかは、終身年金を増やす5つの選択肢にまとめました。
この記事が資産のゴールを決める話なら、あちらは収入そのものを増やす話です。

ここが、この計算のいちばん面白いところです。
収入を増やせば不足額が減り、卒業ラインそのものが下がります

資産だけで解こうとすると、遠い金額に見えます。
けれどいくつかを組み合わせると、ゴールは思ったより近いかもしれません

卒業ラインの出し方は、4ステップです

ここからは手順です。紙とスマホがあれば10分で終わります。

①年間生活費を出す → ②年金を引く → ③倍率を掛ける → ④判断する

①年間の生活費を出します。
1か月の支出を12倍するのが手軽ですが、税金や保険料、帰省費のような年1回の支出が抜けやすいです。
できれば1年分の口座とカードの引き落としを合計してください。

②年金などの見込み収入を引きます。
公的年金の見込み額は「ねんきんネット」で確認できます。
企業年金や個人年金、家賃収入がある人はそれも足してください。

③残った不足額に、25倍と約28.6倍を掛けます。
2つ出して、その幅を自分の目標ゾーンとして持ちます。
1点を当てにいく必要はありません。

④その金額に達したら、新規の積立を止める選択肢が生まれます。
止めなければいけない、ではありません。止めてよくなる、です。

なお、この計算は一度きりではありません。
物価が上がれば生活費が増え、不足額も卒業ラインも上がります。
年に1回、生活費を出し直して更新するものだと考えてください。

①でつまずく人がいちばん多いです

卒業ラインは、生活費が分からなければ一生計算できません。
逆に言えば、家計の把握がそのまま投資のゴール設定になります。
手入力が続かない人は、口座やカードを連携して自動で集計する家計簿アプリを使うほうが早いです。

正直に書くと、私はマネーフォワード ME を入れたまま、まだ設定できていません。
一度つまずいたきり、腰が上がっていないからです。
それでも、ここでつまずくと計算そのものが始まりません。家計の把握は、投資のゴールを決める最初の1歩でもあります。

自分の数字で確かめてください

下のシミュレーターに、生活費と年金額を入れてみてください。
取り崩し率を3.0%・3.5%・4.0%から選ぶと、卒業ラインと到達年数が出ます。

HIROPOSO SIMULATOR

積立投資の卒業ラインを見極める

(年間生活費 − 年金などの収入)× 倍率。足りない分だけを、資産に働かせます。

STEP 1

あなたの卒業ラインを計算する

万円
万円

倍率:100 ÷ 3.5 = 約28.6倍

(360万円 − 240万円)× 28.6倍

3,429万円

この金額に達したら、新規の積立をやめて構いません。

STEP 2

いつ卒業ラインに届くか

万円
万円

STEP 3

年利 × 年数の早見表

卒業ライン到達
年利5年後10年後15年後20年後25年後

積立終了日 ≠ 取り崩し開始日

卒業ラインに達して積立をやめても、保有分の運用はそのまま続きます。取り崩しをいつ始めるかは、別の意思決定として切り分けて考えます。

※ 年1回複利・積立は年末一括換算の概算です。税金・手数料・インフレは考慮していません。将来の運用成果を保証するものではありません。

現在の資産と毎月の積立額を入れると、あと何年で届くかも出ます。
届く年が思ったより近い人と、遠い人に分かれるはずです。

積立終了日 ≠ 取り崩し開始日

ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。
そして、ほとんど語られていない部分でもあります。

世の中の記事は「いつ始めるか」と「どう取り崩すか」に集中しています。
止めてから、崩し始めるまでの期間を扱ったものを、私はあまり見たことがありません。

積立をやめることと、売ることは別です

積立をやめる、と聞いて現金化を想像する人がいます。
違います。新しくお金を入れるのを止めるだけです。

持っている分は、そのまま市場に置いておきます。
入金は止まっても、運用は止まりません。

このグラフは、資産形成が3つの期間に分かれていることを示しています。真ん中の期間が、ふだん語られない部分です。

①積立期 入金あり・運用あり ②保有だけの期間 入金なし・運用あり ③取り崩し期 出金あり・運用あり 積立終了日 取り崩し開始日 この2つは、同じ日である必要がありません ②が長いほど、複利の働く時間が増えます
資産形成の3つの期間。②を意識している人は多くありません(筆者作成)

入金を止めても、資産は増え続けます

数字にしてみます。
卒業ラインの3,429万円に到達して、そこで積立を止めたとします。

この資産を年5%で5年間そのまま置いておくと、約4,376万円になります。
1円も入金していないのに、947万円ふえる計算です。

これが「②保有だけの期間」の正体です。
働いて入金するのをやめても、お金のほうは働き続けます。

取り崩しを始める日は、別の意思決定です

では、いつ崩し始めるのか。
これは資産額ではなく、生活のほうで決まります。

働けなくなったとき。働きたくなくなったとき。
あるいは、年金だけでは生活費が足りなくなったとき。

卒業ラインに達していれば、その日をいつにしてもよくなります
これが、私が何度か書いてきた出口の自由度という考え方です。

実際に辞めるかどうかは、また別の話です。
辞められる状態と、辞めることは違います。

もうひとつ、卒業ラインの別解にも触れておきます。
ここまでは、資産を取り崩して不足額を埋める前提で書いてきました。

ただ、埋め方はもう1つあります。
配当で埋めるという考え方です。

年間の不足額が100万円なら、配当が年100万円入る資産を作れば済みます。
元本を取り崩す必要がありません。
目的地は同じで、そこへ向かう道が違うだけです。

ただし、正直に書いておきます。
高配当株は私の主軸ではありません
私はインデックスを持ち、取り崩す側で設計しています。

それでも、この解き方を選ぶ人がいる理由は分かります。
取り崩しには「減らす」という判断が毎年ついてまわります。
配当なら、入ってきたものを使うだけです。心理的な負担がまったく違います。

配当で埋める設計を知りたい方に、参考になる本を挙げておきます。
タイトルに金額が入っている本が多いので、金額の再現性ではなく「考え方」の部分を読んでください
著者の実績はその人の入金力と相場環境の産物で、そのまま真似できるものではありません。

この5冊はどれも日本の高配当株が中心です。
私のように米国のインデックスを主軸にしている人間から見ると、設計思想がまったく違います
違う設計を知ってから自分の道を選ぶほうが、納得して続けられます。

ここまでの内容は、動画にもまとめました。
5つの章に分けて、約13分です。
手が離せないときは、音声だけでも分かるように話しています。

動画版:積立投資に「卒業」はあります——やめていいラインの計算式【投資歴18年】(12分53秒)

まとめ:ゴールを数字にすると、やめる自由が手に入ります

  • 積立投資には卒業ラインがあります。式は(年間生活費 − 年金などの収入)× 倍率です。
  • 倍率の根拠はトリニティ・スタディ(通称4%ルール)です。4%なら25倍、3.5%なら約28.6倍になります。
  • 積立終了日と取り崩し開始日は、同じ日である必要がありません。入金を止めても、運用は続きます。

円で暮らして外貨で運用する私たちには、為替のぶん安全側に倒す選択肢もあります。
25倍で見るか、約28.6倍で見るかは、あなたが決めて構いません。

まずは、去年1年間の生活費を出してみてください。
そこから年金の見込み額を引くだけで、あなたの卒業ラインは今日中に出ます。

2,000万円という他人の数字を追いかける必要は、もうありません。
必要な額は、自分で決められます。


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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。