新NISA、満額360万円を急がなくていい——「使い切る人は3割以下」のデータと、投資歴18年の私の枠が埋まっていない理由

夜の窓辺で頬杖をつく月城ミオと『投資歴18年。私のNISA枠は、まだ埋まっていません』のコピー。新NISAの満額を急がないことを伝えるアイキャッチ 投資戦略・制度

「新NISA(ニーサ)は、5年で満額の1,800万円まで埋めるのが正解」。

そんな空気が、いつのまにか出来上がっていないでしょうか。

SNSを開けば「今年も満額入れました」という報告が並びます。年間の枠は360万円。それを見て「自分は月数万円がやっと。出遅れているのかもしれない」と焦る。その気持ち、よく分かります。

でも、投資歴18年の私から先に結論をお伝えします。満額は、急がなくていいです。年360万円を毎年入れられる人は、そもそも少数派です。そして正直に言えば、私自身のNISA枠も、まだ埋まっていません。

この記事では、「なぜ急がなくていいのか」をデータと私の実体験で説明し、そのうえで「自分のペースの決め方」まで具体的な手順に落とし込みます。読み終えたとき、他人の満額報告に振り回されずに済む。それがこの記事のゴールです。

結論:満額は急がなくていい。360万円を出せる人は少数派です

まず、新NISAの枠をおさらいします。

新NISA(2024年に始まった、投資の利益が非課税になる制度)には、年間で使える枠が2つあります。コツコツ積み立てるつみたて投資枠が年120万円、個別株やETFも買える成長投資枠が年240万円。合わせて年360万円です。

そして生涯でためられる非課税の上限(非課税保有限度額)が1,800万円。この360万円をフルに使えば、最短5年で1,800万円に到達します。

「5年で埋める」という話は、ここから来ています。でも、ここで一度立ち止まってほしいのです。

年360万円。これは、毎月30万円を投資に回し続けるということです。

国税庁の調査によると、日本で1年を通じて働いた人の平均給与は478万円です(令和6年分・4年連続で過去最高)。つまり満額とは、平均的な年収の人が、給料の約75%を毎年そのまま投資に入れ続けるのと同じ規模の話なのです。

逆に問いたいのです。生活防衛費(急な出費に備える現金)を1年分、さらに数年以内に使う予定のお金を除いたうえで、1,800万円をサクッと用意できる人が、いったいどれくらいいるのでしょうか。

それができる人は、失礼を承知で言えば、もうかなりの資産家です。満額を前提にした議論は、実は「階段のずっと上にいる人」の議論なのです。

なぜ急がなくていいのか——3つの理由

ここで、フェアに認めておきたいことがあります。

数学だけを見れば、早く入れたほうが期待リターンは高いです。

市場が長期的に右肩上がりだと仮定すれば、お金は早く市場に置いたほうが、複利(利益がさらに利益を生む効果)が長く効きます。ここをごまかすつもりはありません。

それでも私が「急がなくていい」と言うのには、3つの理由があります。1つずつ見ていきます。

理由1:そもそも、満額を使い切る人は3割以下

楽天証券が2023年に行った調査(回答3,300人超)では、年360万円の枠を使い切る予定の人は3割以下でした。捻出方法は、預貯金からが46.4%、給与などからが29.4%、特定口座(通常の課税される投資口座)の売却代金からが26.8%。

これは制度が始まる前の「予定」を聞いた調査です。あくまで意向である点は差し引く必要があります。それでも、7割近い人が最初から「満額は無理・使い切らない」と答えていたわけです。

実際の利用額を見ても同じ傾向です。日経マネー2026年8月号の調査(有効回答7,139人)では、2025年の平均利用額はつみたて枠が約75万円、成長枠が約165万円、合わせて約240万円でした。満額の360万円には、平均で見れば届いていません。

さらに、つみたて枠にしぼった毎月の平均積立額は約6万円という調査もあります(オカネコ調べ・2024年)。月6万円なら年72万円。多くの人にとって、これがリアルな水準です。

下の図で、この「360万円の遠さ」を整理しました。

満額360万円は、どれくらい「遠い」のか 平均年収 478万円 NISA年間枠 360万円 年収の約75% 満額を使い切る予定の人 3割以下 実際の年間平均利用額 約240万円 つみたて枠の毎月平均 月 約6万円
満額360万円は平均年収の約75%に相当し、実際に使い切る人は少数派です(出典:国税庁 令和6年分民間給与実態統計調査/楽天証券トウシル2024/日経マネー2026年8月号/オカネコ2024)

満額報告はSNSで目立ちます。でもデータで見れば、それは全体のごく一部の景色なのです。

理由2:無理して埋めた人ほど、暴落で売ってしまう

急いで満額にすることには、見えにくいコストがあります。下落したときに、耐えられなくなることです。

投資の世界には「行動ギャップ」という言葉があります。ファンド自体のリターンよりも、投資家が実際に手にするリターンのほうが低くなる現象のことです。理由はシンプルで、多くの人が高いところで買い、下がったところで怖くなって売るからです。

この差は、年間で約3%にのぼるという試算があります。私は以前、この「行動ギャップ」について詳しく書きました(投資家の行動ギャップは年3%——「何もしない」が最強の戦略である理由)。

ここで考えてほしいのです。満額を1年遅らせることで失う期待リターンと、暴落時に一度パニックで売ってしまう損失。後者のほうが、はるかに大きいのです。

生活を削って無理に枠を埋めると、現金のクッションが薄くなります。すると株価が下がったとき、心の余裕もなくなります。そして底値で投げ売りしてしまう。これが一番もったいない失敗です。

私はコロナショックのとき、逆に買い増しました。それができたのは、無理をしていなかったからです。ゆっくり埋めることは、暴落に耐える力を残しておくことでもあります。

理由3:急いで埋めること自体に、税金がかかる場合がある

3つ目は、私自身がNISA枠を埋めきっていない、最大の理由です。

すでに特定口座(通常の課税される口座)で株や投信を持っている人が、それを売ってNISAに移そうとすると、どうなるでしょうか。

売った時点で、それまでの利益(含み益)に対して約20%の税金(正確には20.315%)がかかります。所得税15.315%と住民税5%の合計です。

つまり、含み益がしっかり乗った資産を崩して急いでNISAを埋めると、その行為自体に約2割の税金というコストが発生することがあるのです。

私の場合が、まさにこれです。私は制度が始まった初日から積立を続けています。でも、利が乗っている資産を無理に崩してまで枠を急いで埋めることは、しません。崩せば課税されるからです。「入れると、かえって損をする可能性がある」——だから私は、あえて埋めきっていないのです。

誤解しないでほしいのですが、これは「特定口座から移すと必ず損」という意味ではありません。移したあとの非課税での成長が長ければ、トータルで有利になる場合もあります。判断は人それぞれの条件次第です。ただ、少なくとも「急げば急ぐほど得」という単純な話ではない、ということです。

私の実体験:初日から始めた。でも、埋まっていない

ここまでデータの話をしてきました。ここからは、私自身の話をさせてください。

大事なので、もう一度分けて言います。「始めるのを急ぐな」とは、一度も言っていません。むしろ、始めるのは早いほうがいいです。私は新NISAの制度初日から積立をスタートしました。

正しいのは「今日始めて、ゆっくり埋める」です。スタートは早く、ペースは自分に合わせる。この2つは、まったく矛盾しません。

私にも、生活が詰まった経験があります。以前、貯蓄率(手取りのうち貯金や投資に回す割合)を25%まで引き上げようとしたことがありました。結果、生活がカツカツになりました。この失敗は別の記事にまとめています(貯蓄率は「手取り÷5」でいい——25%を目指して生活が詰んだ私の話)。

お金は、あくまで道具です。全力で枠を埋めて生活が枯渇するくらいなら、スピードを落としてでも、満足のいく毎日を送るべきだと私は考えています。もちろん、将来への備えも要ります。だから「無理のない範囲でしっかり続ける」。この一点に尽きます。

正直に開示します。「あなたは1,800万円を全部埋められるのか」と聞かれても、私はここではYESともNOとも答えません。資産の額を推測させるような数字は、この場では出さないと決めているからです。ただ確かなのは、初日から積み立てている私ですら、枠は埋めきっていない——その事実だけです。

自分のペースの決め方——4つのステップ

では、他人の満額報告ではなく、自分の基準でペースを決めるにはどうすればいいか。具体的な手順に落とします。

ステップ1:月額の下限を「手取り÷5」で置く

まず、毎月いくら積み立てるかの目安を決めます。難しい家計計算はいりません。おすすめは「手取り月収 ÷ 5」という暗算です。

手取り25万円なら月5万円、手取り30万円なら月6万円。これが無理なく続けられる、ひとつの下限の目安になります。下の表に、手取り別の月額と年額を整理しました。

手取り月収 積立の目安(÷5) 年額 1,800万円まで
20万円 月4万円 48万円 約37年
25万円 月5万円 60万円 約30年
30万円 月6万円 72万円 約25年
手取り別の積立目安(「手取り÷5」で計算。年額はボーナス分を含まない概算です)

表を見て、「1,800万円まで25年も37年もかかるのか」と思ったかもしれません。でも、それでいいのです。焦って5年で埋める必要はどこにもありません。生涯の非課税枠は、これから説明するとおり、消えたりしないからです。

ステップ2:ボーナスは「3分割」で、今の生活も守る

月々の積立に加えて、ボーナスをどう使うかも大事です。

私の考えは、全額をNISAに突っ込まないことです。ボーナスは「守り・攻め・今」の3つに分けます。生活防衛資金の補強(守り)、投資(攻め)、そして自分へのご褒美や体験(今)。この3分割です。

詳しくは、こちらの記事にまとめています(投資家の正しいボーナスの使い方——全額NISAがNGな理由と「3分割」の目安)。将来のために、今を犠牲にしすぎない——これも「急がない」設計の一部です。

ステップ3:自分の「資産の段」を知る

そもそも、なぜ人によって適切なペースが違うのでしょうか。それは、持っている資産の量によって、取るべき戦略が変わるからです。

この考え方を、きれいに整理してくれる本があります。ニック・マジューリ著『THE WEALTH LADDER 富の階段』(ダイヤモンド社・2025年11月刊)です。著者は数万世帯のデータを分析し、資産のレベルを6段階の「階段」で示しました。

資産の「段」が違えば、戦略も違う(富の階段) L1 生存 L2 教育 &スキル L3 投資 L4 起業 L5 事業 拡大 L6 資産 防衛 ▼ 多くの人 ▼ 毎年360万 入れられる人
資産レベルによって最適な戦略は変わります。同じ階段の違う段にいる人のやり方を、そのまま真似る必要はありません(出典:ニック・マジューリ『THE WEALTH LADDER 富の階段』を基に作図)

ポイントはシンプルです。階段の下のほうにいる段階では、投資額を競うより、まず収入を増やす力や生活の土台づくりのほうが効くということ。そして、上の段にいる人ほど、大きな金額を毎年動かせる。

毎年360万円を涼しい顔で入れられる人は、あなたより上の段にいる人です。その人のペースを基準にして落ち込む必要は、まったくありません。自分の段に合った戦略で進めばいい。それだけの話です。

関連書籍

「満額を急がなきゃ」という空気に飲まれそうなとき、自分の立ち位置を冷静に確認できる一冊が、ニック・マジューリ著『THE WEALTH LADDER 富の階段』(ダイヤモンド社)です。資産のレベルごとに戦略が違う、という視点をくれます。

THE WEALTH LADDER 富の階段(ニック・マジューリ著・楽天Kobo電子書籍版)

ステップ4:家計簿とライフプランシートを作る(私も道半ば)

最後は、地味ですが一番効くステップです。自分が毎月いくら使い、いくら投資に回せるのかを、見える化すること。そのために、家計簿と、将来の収支を見通すライフプランシートを作るのがベストだと考えています。

ただ、これは正直に告白します。私自身、まだ道半ばです。「必ず作る」とは言い切れません。でも、作る予定ではいます。「私はもう完璧にできています」とは言えません。だからこそ、あなたにも無理を強いるつもりはありません。できる範囲で、一緒に整えていけたら、と考えています。

証券口座は、大半の人が「SBI・楽天」で十分です

ペースが決まったら、あとは口座で積み立てるだけです。ここでも正直にお伝えします。

NISAでコツコツ投信を積み立てるだけなら、SBI証券か楽天証券で十分です。この2社は、投信の買付手数料も、外国株を買うときの為替手数料も基本0円。大半の人は、これで何の問題もありません。私の主軸もSBIです。

そのうえで、用途によっては他社が向く場合もあります。米国の個別株やETFを本格的に触りたいならマネックス証券、少額から始めたい・手厚いサポートで相談したいなら松井証券、より幅広い外国株や為替を扱いたいならサクソバンク証券、といった具合です。証券会社の選び方は、こちらで総コスト比較として詳しくまとめました(米国株はどこで買う?“手数料0円”に釣られない証券の選び方)。

用途で選ぶなら(私の主軸はSBIですが、保有と推奨は別物です)

マネックス証券 公式 松井証券 公式

よくある不安に、先にお答えします

Q. 5年で埋めないと、機会損失では?

期待リターンだけで見れば、早く埋めるほうが有利です。それは前述のとおり認めます。ただし、それは「無理なく続けられて、暴落でも売らない」という条件つきです。生活を削って埋めた結果、下落で投げ売りしてしまえば、機会損失どころか実損になります。続けられるペースこそが、あなたにとっての最適解です。

Q. 急がないと、枠が消えてしまうのでは?

消えません。生涯の非課税枠1,800万円は恒久的な制度です。年間360万円という上限はありますが、それは「1年で使える量」の上限であって、使わなかった生涯枠が失われるわけではありません。

さらに、NISAの商品を売却すると、その分の枠は翌年に復活します(買ったときの値段で枠を計算する「簿価残高方式」)。だから慌てて埋める必要はないのです。

Q. 特定口座の資産を、NISAに移すべき?

これは条件次第で、一概には言えません。移すには一度売る必要があり、含み益には約20%の税金がかかります。その税金というコストを、移したあとの非課税メリットが上回るかどうか。それは利益の乗り具合と、これから何年運用するかで変わります。

仕組みとしての事実は「売却時に約20%課税される」。ここは断定できます。でも「移すべきか」の答えは、あなたの状況次第です。私の場合は、利が乗っているので急いでは移さない、という判断をしています。

まとめ:他人の満額報告ではなく、自分の段で進む

この記事のポイントを整理します。

  • 満額の年360万円は平均年収の約75%に相当し、使い切る人は3割以下の少数派です。焦る必要はありません。
  • 急がない理由は3つ。使い切る人が少数派であること、無理な満額は暴落での投げ売りを招くこと、そして急いで移すと約20%課税される場合があることです。
  • 始めるのは早く、埋めるのはゆっくり。「手取り÷5」で月額を決め、自分の資産の段に合ったペースで進めば十分です。

まずは、他人の満額報告を見るのをいったんやめてみてください。そして「手取り÷5」で、自分が続けられる月額を1つ決める。今日はそれだけで十分です。

投資は、誰かと競うレースではありません。あなたのゴールは満額到達ではなく、満足のいく人生を、着実に守り育てていくことのはずです。階段は、自分の段から、自分の足で登っていけばいいのです。

動画で見る(約15分)

この記事の内容を、約15分の動画にまとめました。5章に分けて、やさしく解説しています。文字を読むより、通勤や家事のすきま時間に耳で聴きたいというかたは、こちらからどうぞ。

▶ 新NISA、満額を「急がない」のが正解——年360万円を出せる人は少数派というデータと、私の枠が埋まっていない理由(約15分・5章解説)

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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。税制・制度の詳細は、金融庁および国税庁の公式情報を必ずご確認ください。

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