SpaceX株を、私は買いませんでした。買う必要がないからです。いずれ私が積み立てているオルカンが、私の代わりに勝手に持ってくれる——しかも、もう数日のうちに。
2026年6月12日、イーロン・マスク率いる宇宙開発企業SpaceX(スペースX)が、史上最大のIPO(新規株式公開=未上場の会社が初めて株を取引所で売り出すこと)で上場しました。調達額は約12兆円。「乗り遅れるな」の声が市場を埋めました。
でも、新NISAでコツコツ積み立てている人がいま本当に知るべきは、「どう買うか」ではありません。「自分のオルカンや投資信託に、SpaceXがいつ・いくら入ってくるのか」です。そしてここに、ほとんど誰も指摘していない大きな非対称があります。S&P500には最短でも1年入れない。一方オルカンやNASDAQ100には、数日〜数週間で機械的に組み入れられる——同じ「インデックスで持つ」でも、あなたが何を持っているかで、SpaceXとの距離はまったく違うのです。
※先に立場を開示します。私はSpaceX株(ティッカー:SPCX)を1株も持っていません。この記事は「買え」でも「買うな」でもなく、仕組みを知ったうえで、慌てないための分析です。
まず、上場初日に何が起きたのか
公募価格(上場前に決まっていた売り出し価格)は1株135ドル。市場で最初についた値段(初値)は150ドルで、いきなり11%高で始まりました。そこから176ドルまで急騰し、149ドルまで叩き落とされ、終値は160.95ドル(公募比+19%)。時間外取引ではさらに166.76ドルまで戻しています。
初値で飛びついた人が高値で利益を出そうと殺到し、出遅れた人が高値づかみして投げ売られ、最後に「やっぱり売らない」と決めた長期勢が下を支える。お祭りの初日は、だいたいこの形です。数字だけ見れば大成功で、盛況だったのは間違いありません。ただ、盛況と「いま買って報われるか」は、別の話です。
赤字の会社が、なぜ12兆円も集めたのか
意外に知られていませんが、SpaceXは赤字です。2025年の売上は約187億ドル(前年比+33%)と急成長していますが、最終損益は49億ドルの赤字。「赤字なのになぜ?」は、まっとうな疑問です。答えは、中身を3つに分けると見えてきます。
- Starlink(スターリンク)=衛星を使ったインターネットサービス。世界で1,000万人が利用し、売上の61%(114億ドル)を稼ぎ、単体でしっかり黒字。ここだけ見れば優良なIT企業です。
- ロケット打ち上げ事業=売上41億ドルでほぼトントン。
- AI事業=マスクのAI企業を取り込んだばかりで、営業損失は約63億ドル。会社全体の赤字は、ほぼここが原因です。
つまり投資家が買っているのは「今の赤字」ではなく、「Starlinkの稼ぐ力」と「これから化けるかもしれない夢」のセット。調整後EBITDA(利払い・税・償却前の、本業がざっくり稼ぐ力)で見れば+66億ドルの黒字です。ここまでは、私も納得します。Starlinkは本物です。
問題は値段です。独立系の投資情報会社モーニングスター(格付けや分析で世界的に信頼される会社)は、SpaceXの適正株価を1株63ドルとはじいています。いまの167ドルの半分以下。一方で強気の証券会社は190ドルと言う。プロの間で「あるべき値段」が63ドル〜190ドルと3倍も割れている。PSR(株価売上高倍率=時価総額が売上の何倍か)でいまのSpaceXは約116倍。普通のIT企業の何倍も高く、株価の大部分は「夢」と「マスクへの期待」への前払いです。夢が高値のときに夢を買い増すのは、私のやり方ではありません。
本題:あなたのオルカンに、SpaceXは「いくら」入るのか
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい計算です。「オルカンに入る」とよく言われますが、実際いくら入るのかを金額で見た人は、ほとんどいないはずです。
用語を整理します。オルカンは eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、新NISAで一番人気の投資信託で、MSCI ACWI(世界中の株式を網羅した代表的な株価指数)に連動します。指数は時価総額の大きい会社ほど比率が大きくなる仕組みです。
ところがSpaceXは、市場で実際に売買できる株(浮動株・フロート)がわずか3〜5%しかありません。マスクが株の大半を握っているからです。指数のウェイトは「時価総額×浮動株比率」で決まるため、時価総額は2兆ドル超でも、組み入れられる比率はぐっと小さくなります。
| あなたが持つ指数 | SpaceXのおおよそのウェイト | 100万円あたりのSpaceX保有額(目安) |
|---|---|---|
| オルカン(MSCI ACWI) | 約0.1%前後 | 約1,000円〜数千円 |
| QQQ(NASDAQ100連動ETF) | 最大約1.8% | 約1万〜1.8万円 |
| VOO(S&P500連動ETF) | 当面ゼロ(後述) | 0円(最短でも約1年は入らない) |
ここから2つ、はっきり言えることがあります。
ひとつ。同じ「インデックスで持つ」でも、オルカンとQQQでSpaceX濃度は約10倍違う。NASDAQ100は新ルールで浮動株を多めに換算するため、QQQでは1〜1.8%とそれなりに入ります。「SpaceXに少し賭けたいが個別株は怖い」という人には、実はQQQのほうが理にかなっている、というのは知っておく価値があります。
ふたつ。それでも、オルカンに入るのは100万円でたった1,000円分ほど。これが「慌てて個別株を買わなくていい」ことの、いちばん冷静な根拠です。あなたが何もしなくても、積立を続けるだけで、世界中のインデックス投資家と一緒に、その1,000円分のオーナーには勝手になれる。お祭りの輪の外にいても、ちゃんと持てるのです。
S&P500には「入れない」。この非対称がいちばん面白い
では、いつ・どの指数に入るのか。ここに大きな非対称があります。
オルカン(MSCI ACWI)は、巨大IPOを上場から約10営業日で機械的に組み入れるルールがあり、MSCIは上場前に「SpaceXに適用する」と発表済み。6月下旬には入ります。NASDAQ100(QQQ)も、ナスダックが2026年5月にルールを改定し、時価総額上位の新規上場企業を15営業日で組み入れ可能にしたため、7月上旬の見込みです。
ところがS&P500(米国の代表的な500社の指数。VOOなどで多くの人が持っています)は、条件が厳格です。「上場から1年経っていること」「直近4四半期が累積で黒字なこと」「浮動株が10%以上あること」——SpaceXはこの3つすべてに引っかかっています。赤字で、浮動株が少なく、上場したばかり。しかもS&Pは「特別扱いしてほしい」という要請を正式に断りました。だからS&P500入りは、最短でも2027年後半。黒字化が大前提で、それすら確実ではありません。
つまり——VOOだけ持っている人は1年以上SpaceXに触れられず、オルカンを持っている人は来週には間接的なオーナーになる。この差を意識している人は、まだ驚くほど少ないのです。私自身がオルカンも積み立てている理由のひとつが、まさにこの「世界全体を取りこぼさない」性質です(VOOとオルカンの違いは「ドルも円も、元を正せばS&P500」に詳しく書きました)。
「指数に入る=株価が上がる」は、本当か
「組み入れられると、インデックスファンドが強制的に買うから上がる」とよく言われます。半分本当で、半分は罠です。
強制買いは実際に起きます。S&P500・NASDAQ100・Russellなどの連動ファンド合計で、150〜300億ドル規模の機械的な買いが見込まれています。これは確かに株価の支えになる。
でも、ここで浮動株の少なさが効いてきます。市場に出回る株が3〜5%しかないところに巨大な買いが来ると価格は跳ねやすい——そして、その「跳ねる」ことを、相場はすでに知っています。だから上場初日に176ドルまで急騰した値動きには、この組み入れ期待がすでに織り込まれている可能性が高い。「噂で買って、事実で売る」——組み入れが現実になった瞬間が、むしろ短期の天井になるパターンは珍しくありません。「組み入れ=必ず上がる」と単純に考えて初値で飛びつくのは、危ういのです。
赤字IPOを「初値で買う」と、3年後どうなるか
感情ではなく、データで見てみます。IPO研究の古典である米フロリダ大学リッター教授の研究(1991年)は、こう示しています。上場初日の終値で買って3年間持つと、同業の似た企業より平均29%も成績が劣った(IPO銘柄は3年で+34%、比較対象企業は+62%)。お祭りに初日から参加した人ほど、長期では報われていない、という冷たい事実です。
ただし——ここで終わらせると不正直になります。同じ研究には、重要な分岐があります。売上が1億ドル未満の小さな赤字企業は3年で33%も劣後する一方、売上の大きい企業は、わずか2.3%しか劣後していないのです。
SpaceXの売上は187億ドル。これは紛れもなく「売上が大きい」側のバケツに入ります。つまり「赤字IPO=危険」と一括りにはできない。SpaceXは、歴史的には比較的マシなグループに属します。これは強気派にとっての追い風で、私も公平にそう認めます。
それでも、です。統計が言っているのは「初日終値で買うと不利」という一点。SpaceXが大型売上ゆえに劣後しにくいとしても、初値からさらに2〜3割上乗せされた今の価格で飛びつく合理性とは、別の話です。マシなグループであることと、いまの値段が割安であることは、まったく違います。
売り圧力は「12月の崖」ではなく「8月からの階段」
もうひとつ、買い場を考えるうえで外せないのがロックアップ(上場後しばらく、既存株主や社員が株を売れない制限)です。これが解けると、含み益を抱えた人たちの売りが出て、株価が重くなりやすい。
SpaceXのロックアップは、一度にドサッと解ける「崖」ではなく、段階的に解ける「階段」です。
| 時期 | 解禁される株(目安) |
|---|---|
| 2026年8月(第2四半期決算後) | 対象株の約20%が売却解禁 |
| 9〜11月(上場70〜135日) | 約7%ずつ刻んで解禁 |
| 2026年11月(第3四半期決算後) | さらに約28%が解禁 |
| 2026年12月中旬 | 標準ロックアップの残りが解禁 |
| 2027年6月ごろ | マスク本人の株(366日ロック)が解禁 |
ポイントは、最初の売り解禁が早くも8月だということ。「年末まで動きはない」と構えていると、決算をきっかけにした売り圧力を見落とします。逆に言えば、もし私が自分の意思で買うなら、この解除カレンダーを見ながら、株価が重くなる局面を待つでしょう。
結論:私はこうする——慌てず、仕組みに持たせる
整理します。SpaceXは事業として本物(Starlinkは黒字)。でもいまの株価は夢の値段が乗りすぎ(適正63ドル説 vs 現在167ドル)。組み入れ期待は織り込み済みで、初値で買う統計的な不利もあり、8月から売り圧力も控えている。そして、待っているあいだもオルカンが勝手に少しずつ持ってくれる。
だから私の答えは、こうです。
- これから始める人・積立派 → 何もしなくていい。オルカンや全世界株のつみたてを続けるだけで、SpaceXはあなたの代わりに、あなたのなかへ入ってきます。
- SpaceXに少しだけ賭けたい人 → 個別株(SPCX)に飛びつくより、NASDAQ100(QQQ)を通じて持つほうが、濃度・分散・コストのバランスがいい。
- 自分の意思で個別に買うなら → いまではない。お祭りの熱が冷め、ロックアップの売りが出て、夢の値段がはがれ、それでもStarlinkの数字が伸びていたとき。私はずっと「絶望は買い」でやってきました。今のSpaceXは、その真逆です。
そして、どの道を選ぶにせよ、出発点は同じです。個別株を追いかけるより前に、世界全体を低コストで持つ「土台」を、自分のNISA口座のなかに作っておくこと。その土台がある人だけが、お祭りを横目に「私は慌てない」と言えます。
▶ 「仕組みに持たせる」ための土台づくり
オルカンや全世界株のつみたて、そしてQQQのような米国ETFの保有には、手数料の安いネット証券が向いています。私が口座を持っている範囲では、米国株・ETFを扱いやすい証券会社を選んでおくと、いざ「自分の意思で買いたい」局面が来たときにも動けます。まだ口座がない方は、この機会につみたての土台だけ整えておくのがおすすめです。
「比較表で個別株を選ぶ」より、「世界全体を仕組みで持つ」ほうが、退屈だけれど強い。これは器の話を書いた「ETFと投資信託、どっちが正解?」、安さの構造を書いた「インデックスファンドはなぜ安いのか」とも一本の線でつながっています。
よくある質問
Q. SpaceX株(SPCX)は新NISAで買えますか?
A. 楽天証券などが上場初日から取扱いを開始しており、証券会社やNISAの枠(成長投資枠)の対象になるかは各社の取扱い次第です。ただし上場直後の個別株は値動きが激しく、つみたて投資枠の対象ではありません。「NISAで持つ」なら、まずはオルカンや全世界株を通じた間接保有が現実的です。
Q. オルカンを持っていれば、SpaceXも自動で買えるということ?
A. はい。オルカンが連動するMSCI ACWIにSpaceXが組み入れられれば、あなたが追加で何もしなくても、保有比率に応じて間接的に持つことになります。ただし比率は約0.1%前後(100万円で約1,000円分)と小さい点は理解しておきましょう。
Q. いま初値より上がっているけど、乗り遅れ?
A. 統計的には、IPOを初日終値で買って長期保有すると市場平均に劣後しやすいことが知られています(リッター教授の研究)。乗り遅れを恐れて高値で飛びつくより、仕組みで少しずつ持ちながら、熱が冷める局面を待つほうが、コントラリアン的には理にかなっています。
まとめ
- SpaceXは史上最大のIPOで上場。Starlinkは黒字だが会社全体は赤字、株価は「夢の値段」が乗りすぎ(適正63ドル説 vs 現在167ドル)。
- オルカン・NASDAQ100には数日〜数週間で組み入れ。S&P500は黒字化が条件で最短でも約1年先。この非対称が最大のポイント。
- あなたのオルカンに入るのは100万円で約1,000円分。QQQならその約10倍。慌てて個別株を買う必要はない。
- 組み入れ期待は織り込み済み、初値買いは統計的に不利、売り圧力は8月から階段状に。自分の意思で買うなら今ではない。
- 結論:個別株を追う前に、世界全体を仕組みで持つ土台を作る。お祭りの外にいても、ちゃんと持てる。
あなたは、昨夜のお祭りをどう見ていましたか。買いましたか、それとも眺めていましたか。私は——眺めていました。だって、待っているあいだも、私のオルカンが勝手に持ってくれているのですから。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
