従業員持株会(勤務先の株を給料から毎月積み立てて買う社内制度)、通称持株会。「入ったほうが得なのか、それともやめておくべきか」で迷って検索された方が多いと思います。
先に私の立場を書きます。私は持株会に入っています。そして今も続けています。
ただし、拠出額を増やすことはしません。理由は3つあって、そのどれもが「リターンが低いから」ではありません。奨励金(会社が上乗せしてくれる補助金)の数字は、正直に言って強いです。それでも増やさない理由が、この記事の中身です。
この記事では、東証が毎年出している一次データで持株会の実力を確認します。そのうえで、私が実際にぶつかった「出口の詰まり」まで書きます。
結論:奨励金は強い。それでも私は増額しません
最初に答えを出します。持株会の判断は、奨励金が何パーセントかでは決まりません。決まるのは次の3つです。
- 給料・退職金・株の震源が、同じ1社に重なること
- 売りたいときに売れない出口になっていること
- 配当も自社株になり、集中が自動で進むこと
世の中の持株会の議論は、「奨励金がもらえるから得」と「集中投資だから危険」の言い合いになりがちです。私はどちらの立場でもありません。
奨励金は本当に強い、と数字で認めます。そのうえで、勧めない理由をリターンではなく構造の側から出します。ここが、この記事でいちばん書きたいところです。
奨励金は平均10.7%。この数字は本当に強い
東京証券取引所(日本最大の株式市場を運営する会社)は、毎年「従業員持株会状況調査」を公表しています。最新は2026年2月16日公表の2024年度分で、2025年3月31日時点のデータです。上場3,265社が対象です。
ここで出てくる数字が、持株会のいちばん強い部分です。
| 項目 | 2024年度の実績 |
|---|---|
| 奨励金を出している会社 | 全体の96.6%(3,154社) |
| 奨励金の平均支給額 | 拠出1,000円あたり107.24円(約10.7%)・過去最高 |
| いちばん多い金額 | 100円(1,391社・42.6%)/次に50円(873社・26.7%) |
| 最高額 | 3,000円(拠出額の3倍を上乗せする会社が1社) |
| 加入率 | 40.12%(前年37.82%から上昇) |
| 加入者1人あたりの平均保有額 | 250.3万円(13.88単元・単元数は過去最高) |
拠出1万円に対して、会社が平均1,072円を上乗せしてくれます。買った瞬間に約1割増える金融商品は、ほかにありません。
投資信託を選ぶとき、私たちは信託報酬(保有中に毎年かかる手数料)の0.01%を血眼で比べています。その世界から見れば、10.7%の上乗せは桁が違います。ここをごまかす記事は信用できないと考えています。
ただし奨励金は「給与」として課税されます
正直に補足します。奨励金は税務上、給与所得として扱われます。毎月の給料に上乗せされる形で源泉徴収の対象になります。
つまり手取りベースで見れば、10.7%がそのまま丸ごと残るわけではありません。それでも上乗せが強い事実は変わりません。数字だけを見れば、持株会は魅力的な制度です。
理由1:給料と退職金と株の震源が、同じ会社に重なります
ここから、私が増額しない理由に入ります。
2026年7月の半導体株の急落を、私は自分の資産で実測しました。そのとき書いたのは「分散は勝つためではなく、全部が同時には死なないためにある」ということです。大事なのは震源からの距離です。
会社員の資産でいちばん大きいのは、じつは株ではありません。これから受け取る給料の総額です。40代なら、残りの勤続年数ぶんの給料が控えています。この巨大な資産は、まるごと1社に賭かっています。
そこに自社株を積むと、どうなるでしょうか。
JALの株主が経験したこと
実例を1つ挙げます。日本航空(JAL)は2010年1月19日に会社更生法(経営が行き詰まった会社を法的に立て直す手続き)を申請しました。
このとき100%減資が行われ、それまでの株式は無価値になりました。同年2月19日に上場廃止となり、2012年9月19日に再上場しています。ただし再上場したときの株は新しく発行された別物で、旧株主が救われることはありませんでした。
ここで重要なのは、同じ時期に賃金の引き下げと人員削減も進んだという点です。株がゼロになる場面と、給料が削られる場面は、同時に来ます。震源が同じだからです。
私の退職金は、会社の株かもしれません
もう1つ、正直に書いておきます。
7月にiDeCo(自分で積み立てる私的年金制度)の出口を計算した記事を書きました。そこで私は、自分の退職金規程を一度も開いたことがないと白状しています。金額も条件も、実のところ分かっていません。
正直、退職金が想定どおり出るのかも怪しいと感じています。だから持株会の株は、私にとって退職金の代わりという位置づけになっています。
ただ、これは何も保障されていません。制度として約束された退職金ではなく、値段が動く株です。心もとない、という言葉がいちばん近い感覚です。
理由2:売りたいときに売れません(私の実体験)
2つめの理由が、私にとっていちばん体に染みています。
持株会は、入口が毎月自動で、出口が手動です。この非対称が想像以上にきついです。
私の場合、株を自分の口座に移せるチャンスは年に2回しか来ません。現金化するまでの道のりはこうです。
私が口座を持っているのは野村證券です。以前の記事でも書きましたが、これは持株会の事情で持っている口座で、投資の主戦場として選んだものではありません。売却手数料はネット証券より高くなります。
ネットで手続きできるのが救いではあります。それでも、高値だと思った日に売れるわけではありません。
制度としても、出口だけが縛られています
これは私の会社の事情だけではなく、制度の設計そのものです。
まず、単元株(売買の最小単位。多くの銘柄で100株)に達するまで引き出せません。1単元が100株なら、100株たまるまで動かせない仕組みです。
さらに、インサイダー取引規制の扱いが買いと売りで違います。会社の未公表の重要情報を知る人が、それを使って売買することを禁じるルールです。
| 行為 | インサイダー取引規制の扱い |
|---|---|
| 計画にそった毎月の定時定額の買付 (1回の拠出が200万円未満) |
適用除外(重要情報を知っていても買えます) |
| 引き出した株式の売却 | 適用除外にならない(規制の対象です) |
| 拠出額の増額・新規加入 | 重要情報を知りながら行うのは対象です |
つまり入口は法律に守られていて、出口は縛られています。制度としてそう作られています。
「勤務先だから他社よりよく分かる」という感覚は、たしかにあります。ただ、よく知っているという感覚と、株価が上がるかどうかは別です。
むしろ勤務先の情報を知っているほど、売るときの制約は重くなります。知っていることが、この制度では自由を狭める方向に働きます。
私は7月に、米国株が1日23時間取引になる話を書きました。そこでの結論は「いつでも売れるということは、いつでも売ってしまえるということ」でした。
持株会は、その正反対です。売ってしまえない代わりに、売りたいときに売れません。長期保有を強制される仕組みは、悪い面だけではありません。ただ、それを自分で選んだのかどうかは、まったく別の話です。
理由3:配当も自社株になり、集中が自動で進みます
3つめは地味ですが、じわじわ効きます。
持株会で受け取る配当金は、原則としてそのまま持株会のなかで自社株の買い増しに使われます。現金として受け取って、自分の判断で別の資産に回すことはできません。
複利という言葉で語れば聞こえはいいです。しかし中身を見れば、自社株が自社株を増やしている状態です。放置している期間が長いほど、震源への集中は自動で進みます。
私自身、配当については「出るけれど再投資されるので微妙」と感じています。増えているのは資産額であって、分散ではありません。
付け加えると、持株会はNISA(少額投資非課税制度)の外にあります。持株会の枠で自社株を非課税で買うことはできません。値上がり益にも配当にも、通常どおり課税されます。
では、どうすればいいのか
ここまで3つ書きました。整理すると、比べるべきものはこうなります。
| 比較軸 | 従業員持株会 | 新NISAでのインデックス積立 |
|---|---|---|
| 買った瞬間の上乗せ | 平均10.7%(奨励金) | なし |
| 税金 | 奨励金は給与課税・利益にも課税 | 利益が非課税 |
| 分散 | 1社に集中 | 世界または米国の数百〜数千社 |
| 給料との震源 | 同じ | 別 |
| 売りたいときに売れるか | 単元化+引き出し待ち | 平日ならいつでも |
| 配当の使い道 | 自社株に強制再投資 | 自分で選べます |
見るべきは奨励金のパーセントではありません。家計全体で、自分の勤務先に何点を賭けているかです。給料と退職金でもう相当な点数を賭けています。そこにさらに株を積むかどうか、という話になります。
私が実際にやっていること(そして読者への検討材料)
私の保有と、読者の方への検討材料は別のものです。分けて書きます。
| 項目 | 私(Hiro)の実際 | 読者への検討材料 |
|---|---|---|
| 持株会 | 加入して継続中。増額はしません | 入る前に、家計全体の自社比率を数えてから |
| 中核の資産 | VOO(米国のS&P500に連動するETF)とQQQ | 迷うならオルカン、米国1本ならスリムS&P500 |
| 売った資金の行き先 | 最近は一部を再投資に回しています | 生活の穴埋めが先。余った分を指数へ |
| 使っている証券口座 | 主力はSBI証券。野村證券は持株会の事情 | 手数料の安いネット証券に自分の口座を1つ |
私のルールは1つだけです。引き出せる単元になったら移して売り、指数に回す。そして増額はしない。持株会をゴールにせず、通過点として扱います。
正直に書くと、この使い方に落ち着くまで時間がかかりました。若い頃は、遊ぶ金が欲しくて売っていました。売った金がどこに行ったかも覚えていません。
いまは生活の穴埋めに充てることもありますが、一部は再投資に回しています。同じ制度を使っていても、出口の使い方は18年で変わりました。
持株会の外に、自分の口座を1つ持つこと
ここで1つだけ、具体的な手順の話をします。
持株会の口座は、会社が事務を委託した証券会社に置かれます。自分で選んだ会社ではありません。売却手数料が高いことも普通にあります。
だからこそ、持株会の外に、自分で選んだ証券口座を1つ持っておくことを私はおすすめします。売った資金の行き先が決まっていないと、結局は使ってしまいます。私が若い頃にやっていたのは、まさにそれでした。
出口の受け皿にする口座について
私の主力はSBI証券ですが、用途で使い分けています。米国株や個別株を触るならマネックス証券、少額から始めたい方や電話で相談したい方には松井証券が向いています。私が使っているから皆さんも、という話ではありません。持株会の委託先より手数料が安い口座を、自分で1つ選んでおくという意味です。
関連書籍
持株会の「毎月自動で買い続ける」という形だけは、じつは正しいです。問題は買っている中身が1社だという点です。買い続ける行為そのものの強さを数字で確かめたい方に。
「JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則(ニック・マジューリ著・ダイヤモンド社)」
よくある不安(Q&A)
Q. 奨励金がもらえるなら、入らないほうが損ではありませんか?
入口だけを見ればそのとおりです。ただ奨励金は買ったその一度だけのものです。そのあとは、ずっと1社の値動きを持ち続けることになります。
10.7%は、1社に集中し続ける対価として受け取っている、と考えるほうが正確です。入口の得と、保有中のリスクは別の勘定です。
Q. 退会したほうがいいですか?
私は退会していません。ですから「やめましょう」とは書きません。
私自身、投資に回せる経路が限られている事情があります。その中身はここでは書きませんが、最適ではないと知りながら使い続けているというのが正直なところです。
おすすめするのは、退会ではなく上限を決めることです。増額の案内が来ても乗らない、と決めておくだけで集中は止まります。
Q. 持株会の株をNISAに移せますか?
移せません。持株会はNISAの外にある課税口座の世界です。いったん売って現金にしてから、NISAで別の商品を買うという形になります。
売却時の税金や含み益の扱いは、特定口座からNISAへ資金を移すときの考え方と同じです。この点は別記事で計算しています。
まとめ
- 奨励金は平均で拠出1,000円あたり107.24円、約10.7%です。この数字は素直に強いです。
- それでも私が増額しないのは、給料・退職金・株の震源が同じ1社に重なるからです。
- 持株会は入口が毎月自動で、出口が手動です。私の場合、株を動かせるのは年2回だけです。
まずは、家計全体で勤務先に何点を賭けているかを数えてみてください。給料と退職金を入れて数えると、自社株を積む前にもう相当な集中になっていることが分かります。そのうえで、上限を決めておけば十分です。
持株会は、入口が自動で、出口が手動な商品です。私は年2回しかない出口を使って、少しずつ震源から離れています。
動画でも解説しています
この記事の内容を、9分15秒の動画にまとめました。章ごとに耳に残す数字を1つだけ置いてあるので、手が離せないときは音声だけでも追えます。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
