お金の話には、貯める話と使う話がよく出てきます。ところが、貯めたお金を守る話は、あまり出てきません。
1000万円を貯める途中で失う人は、そう多くありません。危ないのは、貯まったあとです。お金は、貯まった瞬間から狙われる側に回ります。
この記事では、お金を失う直前に出る7つのサインを整理します。読み始めた方の多くは「自分は当てはまらない」と思うはずです。私もそう思っていました。実際には2つ当てはまりました。
そして、いちばん危ないのは、自分は大丈夫だと思っている状態です。
結論:貯める力と守る力は、別のスキルです
先に答えを書きます。
お金を貯める力と、お金を守る力は、まったく別のスキルです。片方が身についても、もう片方は自動では身につきません。
貯める力は、家計の管理と入金力の話です。守る力は、市場と他人から資産を切り離しておく話です。使う筋肉が違います。
これは「最初の1000万円は、投資では作れません」(貯める力)と「人生で損するお金の使い方7つの罠」(使う力)に続く、シリーズ3本目です。今回は守る力を扱います。
以下の7つが、そのサインです。1つでも当てはまるなら、貯めた資産はすでに攻められている状態です。
| 群 | サイン | 何に奪われるか |
|---|---|---|
| 市場に 奪われる |
1. 集中投資している | 1つの震源で全部が同時に倒れます |
| 2. 楽観シナリオしか持っていない | 期待が裏切られた日に退場します | |
| 3. いま、ブームに乗っている | 引き際の日付は誰にも見えません | |
| 人間に 奪われる |
4. 誰かを妄信している | 善人でも間違えます |
| 5. 資産状況を言いふらしている | 見返りのないリスクだけが残ります | |
| 6. パスワードが全部同じ | 盗まれたうえに補償も消えます | |
| 7. 預け先が1社だけ | お金に触れない時間が生まれます |
市場に奪われる3つのサイン
まずは、相手が人間ではないほうから見ていきます。この3つは、悪意のある誰かがいるわけではありません。それでも資産は減ります。
サイン1:集中投資している
分散には3つの軸があります。資産クラス(株・債券・金など)、地域、時間の3つです。このどれかが1点に寄っていると、下がるときに全部が同時に下がります。
ただし、ここで初心者がよく誤解する点があります。分散とは、持っている本数のことではありません。中身の銘柄数と、値動きの重なり方の話です。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称オルカンは、1本で約2,500銘柄に分散されています。一方、S&P500に連動する投資信託を3本持っても、中身はほぼ同じ500社です。S&P500とは、米国の代表的な500社で作る株価指数のことです。
本数は3倍でも、分散は増えていません。むしろ管理の手間だけが3倍になります。
積立を続けること自体が、時間の分散になります。毎月同じ額を買い続ければ、高い日にも安い日にも買うことになるからです。
この「2本持てば分散になる」という誤解は、以前くわしく検証しました。オルカンとS&P500の両方を半分ずつ買った場合、実際の米国比率はかえって高くなります。
サイン2:楽観シナリオしか持っていない
「20年で2倍以上になる」という計算だけを見ている状態は、危ないサインです。シナリオは、楽観・普通・悲惨の3本立てで持っておく必要があります。
毎月5万円を20年積み立てた場合で比べます。元本は1,200万円です。
| シナリオ | 前提 | 20年後 |
|---|---|---|
| 楽観 | 年7%で回り続ける | 約2,605万円 |
| 普通 | 年4%で回り続ける | 約1,834万円 |
| 悲惨 | 10年目に半値になり、戻るのに10年かかる | 長い期間、元本を割ったままになります |
そして、悲惨シナリオの根拠になる指摘もあります。株価が長期で右肩上がりだったのは、過去100年ほどの出来事にすぎないという見方です。世界人口が増え、経済のつながりが広がった時代の話であって、次の100年が同じとは限らない、という主張になります。
私は、この主張に反論する気がありません。反論できる必要もないと考えています。大事なのは、この可能性を織り込んだうえで積立を続けられるかどうかです。
実践としては1つだけです。悲惨シナリオが来ても生活が壊れない金額しか入れないことです。
絶望は、期待が裏切られたときに生まれます。そして人は絶望した日に売ります。相場から退場する人の多くは、下落そのものではなく、想定していなかったことに耐えられなくなって降りています。
サイン3:いま、ブームに乗っている
先に誠実に書いておきます。ブームに乗って大きな資産を作った人は、実際に少なくありません。米国株、暗号資産、不動産、動画配信、そしてAI関連。どの波にも、当てた人はいます。
ですから、ブームそのものを否定はしません。ただ、整理は必要です。
ブームで稼ぐのは「稼ぐ力」のゲームです。それは守る力の話ではありません。そしてブームには、必ず終わりがあります。問題は、終わりの日付が誰にも見えないことです。
引き際を当てる自信があるなら、それは稼ぐ力の領域として続ける選択もあります。自信がないなら、それは守る力の管轄になります。
この「引き際を外す」がどう見えるかは、実例で書きました。半年で10倍になった銘柄が、1か月で半値になった記録です。上がっている最中に降りるのは、思っているより難しいことが分かります。
人間に奪われるサイン:信じる相手と、話す相手
ここからは相手が人間になります。残り4つは、悪意のある人だけの話ではありません。善意の人が関わっていても、資産は減ります。
サイン4:誰かを妄信している
未来を正確に見通せる人はいません。これは能力の問題ではなく、原理の問題です。
妄信がまずい理由は、その人が悪人だからではありません。善人でも間違えるからです。そして間違えても、その人はあなたの損を肩代わりしません。これは人柄の話ではなく、構造の話になります。
私にも実例があります。コロナ禍の時期に、両親に勧められてバイオ関連株を買いました。両親は善意で勧めてくれましたし、母は個別株で結果を出している人です。信じるだけの理由はありました。
結果は、13万円が1万円になりました。実損12万円です。
後から調べると、その業界には赤字の企業が多いという、調べれば誰でも分かることが分かりました。私はそれを調べていませんでした。
負けた原因は、勧めた人ではありません。自分で確認する手順を飛ばした私です。誰かの判断を、自分の判断の代わりに使ってしまいました。
ですから、こう書いておきます。このブログも含めて、誰かの言うことをそのまま買う行為は、全部これに当たります。参考にするのは構いません。参考のまま止めておく必要があります。
サイン5:資産状況を誰彼構わず話している
これが、私に当てはまった2つ目です。
資産額を人に話して得られるものは、基本的にありません。これは、見返りのないリスクです。一方、失いうるものは3つあります。
- お金を借りにくる人が寄ってきます
- 詐欺を仕掛ける人が寄ってきます
- 物理的に狙われる可能性が上がります
私は資産額を人に言ったことはありません。ただ、「好調です」「ホクホクですわ」と言ったことはあります。
金額は一言も出していません。それでも「この人は勝っている」は、十分に伝わります。あれは言いふらしの入口に立っていた状態でした。反省点として書いておきます。
人の嫉妬は、資産額に比例して静かに濃くなります。声に出る形では、あまり出てきません。だから黙ります。それだけで防げるリスクがあります。
SNSで資産額を公開している発信者もいます。あれは公開そのものが仕事の一部になっている形です。個人が真似をする理由はありません。
ちなみに、この記事にも私の資産額は書いていません。書かないこと自体が、このサインへの答えになります。
人間に奪われるサイン:鍵と、置き場所
残り2つは、手口ではなく置き方の話です。地味ですが、失う金額はいちばん大きくなり得ます。
サイン6:銀行・証券・カードのパスワードが全部同じ
使い回しの本当の怖さは、盗まれやすくなることではありません。盗まれたときに、補償が消えることです。
クレジットカードの規約を読むと、こう書かれています。暗証番号の入力を伴う不正利用は、原則として補償の対象外です。ただし、暗証番号の管理に会員の故意や過失がないとカード会社が認めた場合は、この限りではありません。
つまり、使い回しは二重の損になります。推測されやすくなるうえに、被害が出たときの後ろ盾も外れます。
実害の規模も出ています。証券口座の乗っ取りは、2025年に1万7,559件を超えました。他人事の数字ではありません。
正解は、意味のないランダムな英数字16文字を、パスワード管理アプリに任せることです。全口座で違うものにするのが本来の形になります。
ただ、そこまで一気にやるのが難しい方もいます。その場合は、証券口座と銀行だけでも独立したパスワードにしてください。あわせて2段階認証もオンにします。ログイン時に、スマホなどでもう一度確認する仕組みのことです。ここだけで、守れる金額の大半が守れます。
私自身のことも書いておきます。銀行の4桁の暗証番号は、メモを取っています。ただし、そのまま読める形では書いていません。自分にしか復元できない書き方に変えてあります。
これは「メモを取りましょう」という話ではありません。どうしても記録が必要なら、平文のままにはしないという話です。完全版の手順は証券口座の乗っ取り対策にまとめてあります。
サイン7:資産をごく少数の会社にだけ預けている
制度の数字から確認します。
銀行は、預金保険制度(ペイオフ)によって1金融機関につき預金者1人あたり元本1,000万円と、その利息までが保護されます。証券会社は分別管理(顧客の資産と会社の資産を分けて管理する仕組み)があるため、理屈のうえでは全額が戻ります。万一それが機能しなかった場合の備えとして、投資者保護基金が1人あたり1,000万円まで補償します。
ここまでだと「証券は1社で十分」に見えます。ところが、守る力の観点ではもう1つあります。
不正アクセスが起きたとき、口座が凍結され、調査のあいだ自分のお金に触れない時間が生まれます。
失うだけが損ではありません。使いたいときに使えないことも、立派な損です。暴落が来て買いたい日に、口座が止まっているかもしれません。生活費を出したい日かもしれません。
ですから実践解はシンプルです。銀行も証券も、2社に分けておくことです。片方が止まっても、もう片方で動けます。
私自身の話も正直に書きます。ここは私も迷っている点です。
| 私(投資歴18年)の実際 | 読者の方への提案 |
|---|---|
| 証券はSBI証券と野村證券の2社です | メイン1社+サブ1社の2社構成にしてください |
| この組み合わせが最適かは、いまも迷っています | 最適解を探すより、2社にすること自体が先です |
| 米ドル建てETFを直接保有しています | 円建ての投資信託で十分です。為替の手間が要りません |
サブ口座を作るなら
サブ口座は、たくさん入れておく場所ではありません。メインが止まった日に動ける、という一点のための口座です。維持費はかからないので、開けておくだけで意味があります。
私の主軸はSBI証券ですが、用途で使い分けています。これから2社目を作るなら、下の2社は方向性が違うので選びやすいはずです。マネックス証券は米国株や個別株に強く、松井証券はサポートと少額の取引に強い形になります。
同じ構造は、お金だけでなく収入にもあります。勤め先1社に給料も退職金も持株も預けている状態は、同じ震源に全部を寄せている形です。ここでは深追いしませんが、頭の片隅に置いておくと効きます。
7つに共通する、たった1つの構造
7つを並べると、対策は2種類に整理できます。
市場に奪われる3つ(1・2・3)への対策は、分散と悲観シナリオです。どちらも、当てにいかないための道具になります。
人間に奪われる4つ(4・5・6・7)への対策は、黙る・散らす・任せきらないの3つです。こちらは、判断と管理を自分の手元に残す作業です。
そして、どちらの群にも共通する構造が1つあります。
失敗はすべて、自分のタイミングで降りられなくなることから始まります。
集中投資は、下がったときに逃げ場がありません。ブームは、降りる日を自分で決められません。妄信は、判断の主導権が他人にあります。言いふらしは、狙われる時期を相手が決めます。パスワードと預け先の集中は、口座が止まった日に何もできなくなります。
言い方を変えると、こうなります。7つとも、自分のお金の主導権を、知らないうちに他人や相場に渡している状態です。
お金の世界は、どこまでいっても自己責任です
ここが、この記事でいちばん書きたかったことです。
自分以上に、自分のお金に真剣になれる人はいません。家族でも、担当者でも、有名な発信者でも同じです。悪意があるからではなく、その人の人生ではないからです。
そして、投資で失ったお金を肩代わりしてくれる人もいません。12万円を失ったとき、それを埋めてくれる人は誰もいませんでした。当たり前ですが、当たり前を実感として持つには授業料が要りました。
お金の世界は、残酷なほど自己責任でできています。守る力とは、この事実を受け入れた人だけが持てるスキルです。
今日からできる、7つの対策
最後に、チェックリストの形で整理します。当てはまったものだけ、順番に片づけていけば十分です。
| サイン | 対策(一行) |
|---|---|
| 1. 集中投資 | インデックス1本で分散は足ります。本数ではなく中身を見てください |
| 2. 楽観だけ | 悲惨シナリオでも生活が壊れない金額しか入れないでください |
| 3. ブーム | 引き際を当てる自信がないなら、降りておくほうが安全です |
| 4. 妄信 | 誰の話も「参考」で止めてください。このブログも含みます |
| 5. 言いふらし | 黙ってください。それだけで防げるリスクがあります |
| 6. パスワード | 証券と銀行だけは独立したパスワードと2段階認証にしてください |
| 7. 預け先集中 | 銀行も証券も2社構成にしておいてください |
まとめ
- 貯める力と守る力は、別のスキルです。片方が身についても、もう片方は自動では身につきません。
- 7つのサインは2つの群に分かれます。市場に奪われる3つと、人間に奪われる4つです。
- 共通するのは1つだけです。自分のタイミングで降りられなくなることから、失敗は始まります。
まずは、7つを上から読み返してみてください。当てはまったものに丸をつけて、いちばん手間のかからないものから1つだけ片づけてみてください。2段階認証をオンにするだけなら、5分で終わります。
私は2つ当てはまりました。妄信で12万円を失い、「ホクホクですわ」と口を滑らせました。どちらも、自分は大丈夫だと思っていたときに起きています。
いちばん危ないのは、自分は大丈夫だと思っている状態です。
前回の記事で、1000万円を貯めた実績そのものが宝物だと書きました。今回はその続きになります。宝物は、奪われ方を知っている人だけが持ち続けられます。
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