「いま、景気がいいからね」。お金の勉強系で有名なYouTuber、両学長(リベラルアーツ大学)がそう話しているのを聞きました。
たしかに数字は良いのです。日銀短観(日本銀行が全国約9千社に3か月ごとに聞く、企業版の景気アンケート)は8年ぶりの高水準。日経平均株価は6月、初めて7万円台に乗りました。
でも正直に言います。私はその翌週、コンビニのレジで「不景気だな」と感じました。昼メシと軽い買い足しで、支払いが3,500円だったからです。
景気は良いらしい。なのに、良いとは感じない。この記事では、そのズレの正体を数字で3つに分解し、私たちがどう立ち回ればいいのかまで整理します。
結論:景気は「平均値」、あなたの財布は「個別値」です
先に結論です。「景気が良い」も「良いと感じない」も、両方本当だと私は考えています。嘘をついている人はどこにもいません。測っている場所が違うだけです。
ズレの正体は3つあります。
- ズレ①:企業の景気と、家計の景気は別物(短観が測るのは会社の景況感です)
- ズレ②:儲かっているのは一部の業界(半導体・AIが平均を引っ張り上げています)
- ズレ③:統計は「前年比」で語り、財布は「水準」で感じる(値上がりが止まっても、上がった値段は戻りません)
そして立ち回りの結論は、いつもの答えになります。感じられない景気を追いかけず、平均ごと買って取りこぼさない。つまり低コストのインデックスファンド(日経平均やS&P500など市場全体に自動で分散投資できる金融商品)です。
ありきたりに聞こえるかもしれません。でも今回の「偏った好景気」は、むしろインデックスの強みが一番効く局面だと私は考えています。理由を順番に見ていきます。
「景気は良い」は本当か——数字で確かめました
まず「良いらしい」側の数字を並べます。感覚ではなく、公表されている統計です。
| 指標 | 直近の数字 | 補足 |
|---|---|---|
| 日銀短観(大企業製造業DI) | +22 | 2018年3月以来、約8年ぶりの高水準。5四半期連続の改善 |
| 日経平均株価 | 6月に初の7万円台 | 5月末時点で年初から約3割高。一時7万2,000円台まで上昇 |
| 公共工事設計労務単価 | 25,834円(+4.5%) | 14年連続の上昇で、初の25,000円超え(国土交通省) |
| 米国の実質GDP(2026年予想) | +2%台前半 | AI関連の設備投資は年6,500億ドル規模(GDP比約2%)の見込み |
短観の+22という数字は、「良くなった」と答えた会社が「悪くなった」と答えた会社より22ポイント多い、という意味です。企業に聞くかぎり、景気はたしかに良いのです。
学長の「景気がいい」は、正しい認識だと私も思います。米国も実質GDP+2%台の成長が見込まれ、AIへの投資が続いています。世界の景気は本物です。
ただし短観には続きがあります。3か月先の見通しは+17と、悪化を見込んでいるのです。6月下旬には、日経平均が1日で過去5番目の下げ幅を記録する場面もありました。「良い」は本当。ただし、盤石でも全員の話でもありません。
建設業の現場は好景気です。それでも私はコンビニで不景気を感じました
私は施工管理の仕事を18年やっています。建設の現場から見ると、景気の良さは実感できます。
たとえば公共工事設計労務単価(国が公共工事の予算を組むときに使う、職人さん1日あたりの賃金の基準)は、14年連続で上がり続けています。2012年度は全国平均13,072円でした。それが今は25,834円。ほぼ倍です。
資材の値段も上がり続けています。それでも工事の受注は止まりません。私の勤める会社の売上も好調で、この夏はボーナスも出ました。建設業は、わりと好景気の側にいる業界だと思います。
その私が、です。6月のある平日、現場に出る前にコンビニで昼メシを買いました。ななチキ2個、カップラーメン数個、昼の総菜、ちょっとしたお菓子。レジの表示は3,500円でした。
一瞬、打ち間違いかと思いました。豪遊した覚えはありません。コンビニの昼メシと買い足しです。ボーナスが出た月ですら、レジの前で「高いな」と立ち止まったのです。私にとって一番「不景気」を感じる場所は、株価ボードではなくコンビニのレジでした。
景気の良さは3か月に1度、統計で届きます。でも物価は毎日、レジで届きます。実感の勝負では、最初から物価が圧倒的に有利なのです。
「良いのに感じない」——3つのズレを分解します
ズレ①:企業の景気と、家計の景気は別物です
短観が測っているのは企業の景況感です。会社が儲かることと、家計が楽になることの間には、時差と目減りがあります。
家計側の数字も見てみます。実質賃金(物価の上昇を差し引いた、本当の給料の価値)は、2026年1月にようやく前年比プラスへ転じました。4月は+1.9%で、4か月連続のプラスです(厚生労働省・毎月勤労統計)。
「じゃあ良くなってるじゃないか」と思うかもしれません。私も最初はそう読みました。でも2つ、注意点があります。
1つ目。このプラスには、ガソリン補助や旧暫定税率の廃止といった政策による物価押し下げが効いています。エコノミストからは、秋以降に再びマイナスへ沈むリスクが指摘されています。
2つ目。プラスに転じる前、実質賃金は長くマイナスが続きました。私が今年4月に書いた記事の時点でも、年度ベースで4年連続のマイナスでした。数か月のプラスでは、この数年で削られた分はまだ埋まっていないのです。
ズレ②:儲かっているのは、一部の業界です
短観の中身をよく見ると、改善を引っ張ったのは半導体・AI関連の需要でした。生産用機械や電気機械などが伸びる一方、窯業・土石や石油・石炭といった素材系の業種は、原油高の影響もあって悪化しています。
株式市場は、もっと極端です。このグラフを見てください。今年3月末から4月にかけての上昇率の比較です。
このグラフは、半導体株の指数と日経平均の上昇率の差を示しています。
SOX指数(フィラデルフィア半導体指数。米国の主要半導体株をまとめた指数)が+38.7%に対し、日経平均は+15.8%。日経平均は半導体関連銘柄の影響(寄与度)が大きい指数なので、一部の勝ち組が平均を引っ張り上げている構図です。
日本経済新聞の見出しも「勝ち組『半導体』に資金集中」でした。市場の合言葉は「乗り遅れるな」だったと報じられています。この言葉が出てくる相場を、私は警戒しながら見ています。
気になる比較もあります。米国のIT関連投資はGDP比4.5%に達し、2000年のITバブル(インターネット関連株が急騰し、その後暴落した相場)のピーク時に匹敵する水準という指摘があります(第一生命経済研究所)。
バブルかどうかは、はじけるまで誰にも分かりません。私も「バブルだ」と断定はしません。ただ、景気の良さが一部の業界に偏っていて、あなたの業界が半導体でないなら「感じない」のが自然——ここまでは、数字で言えることです。
ズレ③:統計は「前年比」で語り、財布は「水準」で感じます
3つ目が、私のコンビニ3,500円の正体です。
直近の消費者物価指数(モノやサービスの値段の動きを測る統計)は、生鮮食品を除く総合で前年比+1.4%。数字の上では、値上がりはかなり落ち着いてきました。食品の値上げ件数も、今年は前年より大きく減る見通しです(帝国データバンク)。
それなのに、なぜ高く感じるのか。このグラフが答えです。
このグラフは、食料品の物価の「水準」がこの5年でどれだけ上がったかを示しています。
2020年を100とすると、食料の物価指数はいま128前後。5年前に1,000円だった食料品が、約1,280円になった計算です。
ここが錯覚のポイントです。ニュースの「物価が落ち着いてきた」は、値上がりのスピードが緩んだという意味です。値段が下がるわけではありません。統計は「前年比」で語り、私たちの財布は「5年前との差」で感じる。だから統計が改善しても、レジの体感は改善しないのです。
ちなみに円安も、この水準を押し上げてきた要因の一つです。円安は輸出企業には追い風、輸入価格を通じて家計には逆風。同じ円安が「誰かへの施し」で「誰かへの罰」になる構図は、以前の記事で書いたとおりです。
どう立ち回るか——「感じる景気」と「乗る景気」を分けます
ここからが本題です。3つのズレを前提にすると、やるべきことが見えてきます。
熱狂に飛び乗らない。次の勝ち組を当てにもいかない
「儲かっているのは半導体らしい。じゃあ半導体株を買おう」。これが一番危ない動き方だと私は考えています。「乗り遅れるな」が合言葉になった相場に後から乗るのは、高値を掴みにいく行為になりがちだからです。
逆に「まだ上がっていない業界を先回りして当てる」のも、言うほど簡単ではありません。プロでも外します。少なくとも私には無理です。SpaceXの上場騒ぎのときに書いたとおり、乗りそこなっても「儲けそこない」であって実損ではありません。
全部に乗って、取りこぼさないのがインデックスです
だったら、勝ち組もこれから来る業界も全部まとめて持てばいい。それがインデックスファンドです。
時価総額加重(大きくなった会社ほど多く持つ仕組み)のインデックスは、半導体が伸びれば自動で半導体の比率が上がり、次の主役が現れれば自動でそちらに乗り換わります。「どの業界が勝つか」を当てる必要そのものを消してくれるのです。
偏った好景気の局面こそ、この仕組みが効きます。私の実際の持ち方と、読者のみなさんへの推奨は、いつもどおり分けて書きます。
| 私(Hiro)の保有 | 読者のみなさんへの推奨 |
|---|---|
| Vanguard S&P 500 ETF、通称VOO(米ドル建て・2020年から保有) | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称オルカン(信託報酬0.06%・新NISA対応) |
| Invesco QQQ Trust、通称QQQ(米ドル建て・NASDAQ100連動) | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)、通称スリムS&P500(信託報酬0.09%・米国集中派向け) |
「日本の景気が良いなら日本株では?」と思った方へ。オルカンには日本株も約5%入っています。日本の勝ち組にも、米国のAI投資にも、全部まとめて乗る。それが「世の中がどうなっているかを見て、取りこぼさない」という私のスタンスです。
インデックスに乗る「口座」を整える
感じられない景気に乗る回路は、証券口座からです。私の主軸はSBI証券ですが、用途で使い分けています。米国株・投信の情報が厚いマネックス証券、サポートが手厚く少額・相談向けの松井証券が定番。外国株を広く持ちたい方はサクソバンク証券(取扱銘柄の広さが強み)も選択肢です(保有≠推奨。ご自身の設計で選んでください)。
もう一つの乗り方——景気の恩恵は「道具」でも受け取れます
ボーナスが出た方へ。私はボーナスの全額投資はおすすめしていません。守り・攻め・今の自分の3分割が私のやり方です。
「今の自分」の枠で買うなら、欲しいものではなくパフォーマンスが上がるもの。AIの時代なら、その筆頭はパソコンだと私は思います。私自身、MacBookを仕事と発信の道具にしていて、これは消費ではなく攻めの自己投資だと位置づけています。
「今の自分」枠の自己投資に
私もMacBook・iPhone 17・AirPods Pro 3を仕事と発信の道具にしています。AI活用からブログ・動画編集まで、道具の性能がそのまま作業速度になります。左からMacBook Air 13.6インチ、AirPods Pro 3、iPhone 17(256GB・SIMフリー)、iPad Air です。
「いま何が売れて、どの業界にお金が流れているか」の定点観測には、雑誌が手軽です。ヒットの偏りを眺めるのも、立派な景気観測です(左:日経トレンディ2026年2月号 / 右:同5月号・いずれも電子書籍)。
よくある不安Q&A
Q1. 景気が良いなら、日経平均に連動する投信を買えばいいのでは?
否定はしません。ただ本文で見たとおり、いまの日経平均は半導体の寄与が大きく、業界の偏りをそのまま抱えた指数です。私なら、日本を含めて世界全体に分散するオルカンを選びます。日本の勝ち組にも乗れて、偏りは薄まるからです。
Q2. 半導体・AIのファンドに乗り換えるべきですか?
「乗り遅れるな」で動くのは、私の規律では買いではなく警戒のサインです。恐怖は買い場、熱狂こそ危険——これが投資歴18年の私の結論です。すでに積立中の方は、何も変えないことをおすすめします。
Q3. 実質賃金がプラスになったなら、待っていれば楽になりますか?
政策要因込みのプラスなので、私は当てにしていません。上がった物価水準は戻らない前提で、先取りの仕組みで種銭を確保し、投資に回す。給料側の回復を待つより、株主側の回路を先につくるほうが確実だと考えています。
まとめ:景気は感じるものではなく、乗るものです
- 「景気が良い」も「感じない」も両方本当です。企業と家計、勝ち組業界とそれ以外、前年比と水準——測る場所が違うだけです。
- 好景気の中身は半導体・AIへの偏りです。熱狂に飛び乗らず、次の勝ち組を当てにもいかないのが規律です。
- 時価総額加重のインデックスなら、勝ち組も次の主役も自動で全部持てます。偏った好景気こそ、取りこぼさない仕組みが効きます。
まずは、ご自身の新NISA口座で積立設定がいまも生きているかを確認してみてください。それだけで、あなたはもう「感じられない景気」に乗る側にいます。
景気は、財布で感じようとすると逃げていきます。株主として乗ってしまえば、感じられなくても、取りこぼしません。
動画でも解説しています(約13分・5章)
この記事の内容は、動画でも解説しています。家事や通勤の「ながら聴き」にどうぞ。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
