「年5.90%」「年9.00%」。普通預金の金利が0.1%前後しかない時代に、そんな数字をかかげた「預金」が、いまネット銀行の店先にずらりと並んでいます。
はじめに、この記事の結論をお伝えします。その高い金利の上乗せ分は、銀行があなたに払ってくれる礼金ではありません。あなたが銀行に売った「約束」の代金が、利息の顔をして戻ってきているだけです。
2026年6月、その「仕組み預金」に金融庁がメスを入れる、というニュースが流れました。今夏の規制強化を前に、商品名ではなく「たった一行の見抜き方」を、投資歴18年の私の言葉で整理します。
結論:その高金利は、利息ではありません
仕組み預金(しくみよきん/満期の時期や受け取る通貨を、銀行に有利な形であらかじめ決めておく預金)。名前に「預金」とついているので、安心な商品に見えます。
ですが、これは出口の自由を、最初に手放す契約です。今夏、金融庁がこの商品の説明義務を強めます。とはいえ、勘違いしないでください。説明がていねいになっても、商品の構造は1ミリも変わりません。
あなたが覚えるべきは、商品名ではありません。たった一行です。──高い利回りには、必ずそれを払う理由があります。
何が起きているのか──金融庁が「仕組み預金」にメスを入れます【2026年6月・今夏に規制強化】
2026年6月6日、日本経済新聞が報じました。金融庁は今夏にも監督指針(銀行を監督するときの国のルール集)を改正し、解約制限のリスクなどを、顧客向けの説明資料にはっきり書くよう銀行に義務づけます。
月内にもパブリックコメント(国民から広く意見を募る手続き)を始め、ルール違反は検査の対象になります。市場に出回っている残高は、4,000億円超です。
引き金は、金利です。金利が動き出して、「解約したいのに出られない」という苦情が増えました。昔の低い金利のままお金が縛られ、今の普通預金や定期預金のほうが有利になっても、抜け出せません。これが苦情の中身です。
| 論点 | 今回の金融庁の動き |
|---|---|
| 時期 | 2026年の今夏に監督指針を改正(月内にパブリックコメント開始) |
| 内容 | 解約制限・元本割れのリスクを、説明資料に明記するよう義務づけ |
| 違反した場合 | 検査の対象になる |
| 対象の規模 | 残高4,000億円超の市場 |
世間の論調と、みんなが飛ばす「一行」
世の中の論調は、だいたい一致しています。「複雑だ、危ない、近寄るな」。これは正しいです。注意をうながす言葉としては、これで足ります。
ただ、私が読んだほとんどの記事は、一行を飛ばしています。なぜ、その金利が高いのか、という一行です。
そこを飛ばすから、「危ない商品があるらしい」で終わってしまいます。本当に自分の身を守る一行は、その先にあります。次の章で、その正体を分解します。
高金利の正体──あなたが売った「権利」の代金です
分解してみましょう。あなたは契約したとき、こう約束しています。「この先こういう相場になったら、銀行に都合のいい条件でお付き合いします」と。
満期を延ばすのか、別の通貨で返してもらうのか。その選び方の権利を、あなたは銀行に渡しています。
上乗せ金利は、その権利をあなたが売った代金です。銀行が得をする場面では銀行が権利を使い、あなたが損をする場面ではあなたが縛られます。だから金利が高いのです。礼金ではなく、権利の売却代金。これが正体です。
この「権利を売って、その代金を金利で受け取る」という構造は、仕組み預金だけのものではありません。仕組み債(しくみさい/株価や為替の条件しだいで、満期に現金ではなく株などで返ってくることがある債券)も、根っこはまったく同じです。下の図で、その共通の「罠」の構造を整理します。
仕組み預金・仕組み債に共通する「罠」の構造
(預金者)
▼ そして、その権利を「使うかどうか」を決めるのは、いつも銀行
表が出ても、裏が出ても、選ぶ側は銀行。だから高い上乗せ金利を払えるのです。──これが「罠」の正体です。
私は制度を「出口の自由」で測ります
私は制度や商品を、この「出口の自由」で測ります。いつでも、ほぼ手数料なしで、公正な値段で出入りできるもの。これは「施し」です。NISA(ニーサ/投資の利益が非課税になる国の制度)が、それにあたります。
逆に、出口を相手がにぎっているもの。これは「罠」です。仕組み預金は、教科書どおりに罠の側にいます。
| 出口の自由で見ると | 施し(自由) | 罠(不自由) |
|---|---|---|
| いつでも解約できるか | できる(NISA・投資信託など) | 原則できない(仕組み預金) |
| 出るときの値段 | そのときの公正な時価 | 相手が決める調整金を引かれる |
| 出口をにぎるのは誰か | 自分 | 銀行 |
金利の高さは、リスクの高さの値段です
実例を見たほうが早いです。2026年6月時点で、ネット銀行の店先に並んでいる「預金」の金利です(金利は募集回ごとに変わるため、契約前に各銀行の最新の数字をご確認ください)。
円から始めて、満期に米ドルで返ってくるかもしれない為替特約の定期が年5.90%。ユーロなら4.90%、豪ドルなら7.20%です。別の銀行の「コイントス」という商品では、米ドル絡みで6.00%、南アフリカランド絡みなら9.00%にもなります。
この並びを、もう一度見てください。返ってくるかもしれない通貨が荒れる順番に、金利が高くなっています。ユーロより豪ドル、豪ドルより南アフリカランド。偶然ではありません。
荒れる通貨を押しつけられる確率が高いほど、あなたが売っている権利は高く売れます。だから金利が上がります。金利の高さは、リスクの高さをそのまま値段にしたものです。お得の証ではありません。
商品名も、私はむしろ正直だと思っています。「コイントス」。コインを投げる、という名前です。賭けであることを、名前が認めています。嘘はそこにはありません。嘘があるのは、その手前に「預金」という二文字をつけている点だけです。
なぜ今になって、トラブルが噴き出したのか
なぜ、何年も前から売られていた商品が、今になってトラブルになったのでしょうか。答えはシンプルです。金利が動いたからです。
仕組み預金は、突きつめれば「金利は当分、低いまま」という前提への賭けでした。前提がくずれた瞬間、それまで見えていなかった損が顔を出しました。水が引いて、誰が裸で泳いでいたかが分かる。あれと同じです。
そして、こういう商品が寄ってくるのは決まって、相場が凪いで、退屈で、「少しでもお得を」と人が思っているときです。恐怖のときではありません。油断のときです。
私は18年やってきて、ひとつだけ確信していることがあります。──絶望は買い、安心は売られる。「安心」という言葉で売られるものほど、疑ったほうがいいのです。
規制は、いつも後追いです。被害が出てからしか来ません。だから最後に自分を守るのは、指針ではありません。あなたの中の一行です。
では、私たちはどう守るのか──3つの手
私は、契約してしまった人を責めません。複雑な商品を、複雑だと知らせないまま売る側にも問題があります。なにより、責めても傷は戻りません。代わりに、これだけ持って帰ってください。
手① 上乗せ分の理由を「一行」で言えるか試す
普通預金や定期預金を、はっきり上回る金利の「預金」を見たとします。その上乗せ分の理由を、自分の言葉で一行で説明できるか試してください。できないなら、まだ契約しないことです。
手② 「中途解約」「元本割れ」の文字を確認する
説明資料に「中途解約」「元本割れ」の文字があれば、自分が何の権利を渡しているのかを確認します。今回の指針で、この記載は前より目立つようになるはずです。
どれくらい削られるのか。金利が大きく動いた局面での中途解約では、元本の約3割が調整金として引かれた例も報じられています。100万円を預けて、戻ってきたのが約71万円、という世界です。
手③ すでに持っているなら、慌てて動かない
すでに持っているなら、慌てて動かないことです。解約のペナルティと、今の定期預金の金利を、紙に並べて損益分岐だけ把握します。動くか動かないかは、それを見てから決めればいいのです。
この「お金の流れを自分の手で並べて確認する」という作業は、仕組み預金に限った話ではありません。自分のお金が、いつ・いくら・どこへ動くのかを自分でにぎっている人ほど、こういう商品に足をすくわれません。副業や事業のお金も同じです。数字を自分で見る癖が、いちばんの防具になります。
お金の流れを自分でにぎる道具(任意)
副業・事業のお金を自分で把握したいなら、クラウド会計ソフト「freee会計」のように、入出金を自動で見える化する道具を一つ持っておくと、数字に強くなれます。私自身は「数字は自分で握る」を投資でも実践しています。
「出口の自由がある制度」で、米国株を買うという選択
仕組み預金が「出口を相手がにぎる罠」だとすれば、その対極にあるのが、いつでも売れるNISAや証券口座での投資です。私自身は米国株を中心に、足掛け6年保有しています。
ここで一点だけ、はっきり分けて書きます。下の表の「私の保有」は、あくまで私個人の選択です。「読者のみなさんも同じものを」という意味ではありません。
| 区別 | 私(筆者)の保有 | 投資が初めての読者への第一候補 |
|---|---|---|
| 中身 | VOO(米ドル建てのS&P500 ETF)を直接保有 | NISAのつみたて枠で買える低コスト投資信託 |
| 出口 | いつでも公正な時価で売れる | いつでも公正な時価で売れる |
米ドル建てで米国株やETFを直接買いたい人にとっては、どの証券会社を使うかで手数料が変わります。米国株の取引手数料を抑えたい人にはDMM株、現地の市場で幅広く買いたい人にはサクソバンク証券、サポートや少額からの取引・相談のしやすさを重視する人には松井証券、米国株の銘柄分析ツールや取扱の幅で選ぶならマネックス証券が選択肢になります(NISAでつみたて投信を買うだけなら、SBI証券や楽天証券で十分です)。
まとめ:覚えるのは商品名ではなく、一行だけ
今夏の規制で、説明はていねいになります。それでも、構造は変わりません。最後はあなた自身の一行が、守りの線を引きます。
- 高金利の「預金」の上乗せ分は、礼金ではなく、あなたが売った「権利」の代金です。
- 金利の高さは、お得の証ではなく、リスクの高さをそのまま値段にしたものです。
- 制度は「出口の自由」で測れます。出口を相手がにぎるものは、罠の側にあります。
まずは、高すぎる金利の「預金」を見たら、その理由を一行で言えるか試してみてください。言えないうちは、契約しないことです。
高い利回りには、必ずそれを払う理由があります。その理由が自分で言えるかどうか。守りの線は、結局そこに引かれます。
関連書籍
「金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ(幻冬舎新書)」— 銀行・証券・保険の「売る側の論理」を、初心者の言葉でほどいてくれる一冊です。
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この記事の内容は、約10分の動画でも解説しています。文字を読むのが苦手な方、家事や通勤のすきま時間に聴きたい方は、こちらもどうぞ。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。記載した金利・残高・制度の内容は2026年6月時点の公開情報をもとにしており、最新の数値は各金融機関・金融庁の発表をご確認ください。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
