最近、ニュースを開くたびに「プライベートクレジット」という言葉を見かけます。
しかも論調が、どうにも穏やかではありません。「第2のリーマンショックが来る」。そんな見出しが並んでいます。気づけば、英国の中央銀行までが同じリスクに警鐘を鳴らしていました。どうやら、対岸の火事ではないようです。
もし本当に火がつけば、米国や日本の経済に打撃が来る。株価が下がり、不景気がやってくる。今はマグニフィセント7(アップルやエヌビディアなど巨大テック7社の総称)が相場を牽引してダメージを吸収していますが、情報分野の外まで不景気が広がれば、無視はできません。
ただ、私は怖いと感じたときほど、煽られる前に「何が起きているのか」を自分で調べます。今回も調べました。この記事では、いま米国で起きている「プライベートクレジット問題」を、中学生でも分かるところから順番に解きほぐします。最後まで読むと、リーマンショックと同じところ・違うところ、そして個人投資家として取るべき行動が見えてきます。
結論を先に言います
長くなるので、先に結論を3つにまとめます。
- プライベートクレジット問題は「第2のリーマン」とは言い切れません。仕組みは似ているところと違うところが両方あります。
- VOO・オルカンを積み立てている個人投資家への直接の影響は限定的です。ただし「強制売却の連鎖」という間接経路で、巻き添え下落が来る可能性はあります。
- 取るべき行動は、結局いつも通りです。安くなったら買い増す。淡々と積み立てる。それだけです。
面白くない結論で申し訳ないのですが、これが正解だから仕方ありません。なぜそうなるのかを、これから順番に説明していきます。
そもそも「プライベートクレジット」とは何か
まず言葉の意味からです。プライベートクレジット(直訳すると「私的な貸付」)を、もう少し丁寧に言うとこうなります。
銀行を経由せず、投資ファンドが企業に直接お金を貸す仕組みです。
普通、企業がお金を借りたいときは銀行に行きます。銀行は私たちの預金を集めて、それを企業に貸す。これが昔からある「間接金融」です。
ところがリーマンショック後、世界中で銀行への規制が厳しくなりました。「銀行はリスクの高い貸付をするな」というルールができたのです。リーマンの反省でした。
すると、銀行から借りられなくなった中堅企業がたくさん出てきました。彼らはどうしたか。銀行の代わりに、投資ファンドからお金を借りるようになった。これがプライベートクレジットです。
ファンドからすると「銀行より高い金利で貸せて、投資家には社債より高い利回りを払える」というおいしい商売です。市場は急拡大しました。
格付け会社ムーディーズ(米国の三大格付け会社の一つ。企業や金融商品の信用力を採点する組織)の予想では、世界のプライベートクレジット運用残高は2026年に2兆ドルを超え、2030年には4兆ドルに迫る勢いです。
このグラフは、プライベートクレジット市場が今後数年でどれだけ膨らむ見通しかを示しています。
ちなみに、銀行以外の金融全般を指す「ノンバンク金融(NBFI、銀行を介さないお金の流れ全体のこと)」まで含めると、その規模は2024年時点で約256.8兆ドル。世界の金融資産のおよそ51%を占めるまでになっています(金融安定理事会=FSB、各国の金融監督当局が集まる国際組織の集計)。世界の金融の半分が、銀行の外で動いている。これが、いまの実態です。
このグラフは、世界の金融資産が「銀行」と「銀行以外」でどう分かれているかを示しています。
何が起きたのか――ファースト・ブランズという会社の話
2025年9月下旬、米オハイオ州の自動車部品メーカー「ファースト・ブランズ」が、連邦破産法11条(チャプターイレブン。日本の民事再生に近い再建型の手続き)を申請しました。負債は100億ドルを超えています。
この会社、別に潰れそうな会社ではありませんでした。スパークプラグ、ワイパー、ブレーキ部品などを作り、ウォルマートやオートゾーンといった大手小売に納入していた。事業は普通に回っていたのです。
では、なぜ潰れたのか。資金繰りでした。事業は黒字でも、お金が回らなくなって倒れた。いわゆる「黒字倒産」です。
そして、この破綻には市場を震撼させる「もう一つの問題」が含まれていました。
同じ担保を何度も使い回していた疑い
ファースト・ブランズは、複雑な資金調達をしていました。売掛債権(顧客から将来お金を受け取る権利)を担保にお金を借りる「ファクタリング」という手法を多用していたのです。
ここまではよくある話ですが、問題はその後でした。破産申請の関係書類で、こう指摘されたのです。
「同じ売掛債権が、複数の貸し手に何度も担保として差し出されていた可能性がある」。
分かりやすく言うと、1万円の借用書を、A・B・C3人に「これがあるから貸して」と見せて、それぞれから1万円ずつ借りていた構図です。本来1万円しか借りられないはずが、3万円借りていた。
貸し手の一社レイストーンは、最大23億ドル(約3,500億円)が「行方不明」になっていると主張し、米国の管財当局もこれを追認しました。2026年1月には、創業者ら2人が詐欺などの疑いで起訴されています。
誰が損したのか
ファースト・ブランズに資金を出していたのは、ウォール街の大物たちでした。代表例が、米投資銀行ジェフリーズ(中堅の名門投資銀行)です。子会社系のファンドを通じて、7億1500万ドルものエクスポージャー(損失にさらされている金額)を抱えていました。
この事実が明らかになった日、ジェフリーズの株価は7.9%下落しました。ほかにもモルガン・スタンレー、UBS、複数のヘッジファンドが損失や評価減を計上しています。
そして同じ時期、サブプライム自動車ローン会社「トライカラー」も破綻しました。これを受けて、JPモルガン・チェース(米国最大手の銀行。リーマンショックを乗り越えた経営者ジェイミー・ダイモン氏が20年以上トップを務め、その発言は世界中の投資家が注目する)のダイモンCEOが、2025年10月に有名な「ゴキブリ発言」をしたのです。
「キッチンでゴキブリを1匹見つけたら、まだ何匹もいると思った方がいい。信用リスクの問題も同じだ」
リーマンショックと、同じところ・違うところ
ここで「リーマンって何だっけ」という人のために、簡単におさらいします。
リーマンショックを5分で理解する
2008年、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し、世界中の金融市場がパニックに陥った事件です。原因を一言で言うと「サブプライムローン問題」でした。
サブプライムローンとは、信用力の低い人たち(普通なら住宅ローンが組めない人たち)向けの住宅ローンです。「住宅価格は上がり続ける」という前提で、返済能力が乏しい人にもどんどん貸していました。
問題は、その後の加工プロセスでした。個別のローンを束ねて証券(売り買いできる金融商品)にし、それをさらに束ねて、また証券にする。何重にも加工した結果、最終的に買った投資家は「自分が何にお金を貸しているのか」が分からなくなったのです。
そして2007年、住宅価格が下がり始めた瞬間、サブプライムの返済が滞り始めた。投資家は「自分の持つ証券に、どれだけ不良債権が入っているか」を即答できませんでした。誰も分からない。だからパニックになった。
銀行同士もお互いを信用できなくなり、銀行間の取引が凍結。リーマン・ブラザーズが破綻し、世界金融危機に発展しました。
6つの軸で比べてみる
では、いまのプライベートクレジット問題と、リーマンを比べてみます。6つの軸で並べると、違いがはっきりします。
| 比較軸 | リーマン(2008年) | プライベートクレジット(現在) |
|---|---|---|
| ① 借り手 | 信用力の低い個人(サブプライム) | 中堅企業(信用力は相対的に高い) |
| ② 貸し手 | 銀行(証券化して転売) | 投資ファンド(銀行を迂回) |
| ③ 不透明化の手段 | MBS→CDO→CDO²の多層化 | SPV・ファクタリング・ファンド連鎖 |
| ④ 最終的に損する人 | 機関投資家(≒投資家側) | 機関投資家(≒投資家側) |
| ⑤ 銀行の関与 | 銀行自身が保有し連鎖破綻 | 銀行は迂回されている |
| ⑥ 個人預金への直撃 | あり(銀行間市場が凍結) | 経路としては薄い |
同じところ:不透明性が最大の問題
表の③を見てください、と言いたいところですが、画面を見なくても伝わるように言葉でも説明します。最も重要な「同じ点」が2つあります。
1つ目は不透明性です。リーマンのときはCDOの多層化で、誰がどれだけリスクを取っているか見えなかった。今回はファンドがファンドに貸し、そのファンドがさらに別の器に貸す。連鎖が複雑で、全体像が見えません。
英国の中央銀行であるイングランド銀行も、2025年末の金融安定報告書で、プライベート市場の「高いレバレッジ(借金を使った投資)」と「不透明さ」を名指しで警告し、ストレステスト(危機が来たときの耐久試験)を開始しました。さらにFSBも2026年5月、プライベートクレジットの脆弱性に警鐘を鳴らしています。米国だけの問題ではないのです。
2つ目は最終的に損するのが投資家という構造です。借り手が個人か企業かの違いはあっても、お金を出していた人が最後に損をするのは、リーマンも今回も同じです。
違うところ:銀行が守られている
一方で、決定的な違いもあります。銀行のバランスシート(財務状況)が、今回は守られていることです。
リーマンは銀行自身がCDOを大量に保有していたから、銀行が次々と破綻し、世界経済が止まりました。今回のプライベートクレジットは、最初から銀行を迂回している仕組みです。リーマン後の規制強化が、リスクを「銀行の外」へ押し出した結果として生まれた市場だからです。
だから「銀行が一斉に潰れる」というリーマン型の最悪シナリオは、起きにくい。ただし、これは諸刃の剣でもあります。「銀行の外」ということは、「監督当局の目が届きにくい場所」でもあるからです。
なぜ怖いのか――トイレットペーパー理論で考える
ここで少し脱線します。2020年のコロナ初期、日本中のスーパーからトイレットペーパーが消えました。覚えているでしょうか。
あのとき、トイレットペーパーの供給能力は十分にありました。工場も稼働し、在庫もあった。それでも棚が空になった。理由は、SNSで流れた「不足する」というデマと、それを受けた人々の「念のため買っておこう」という行動です。
供給に問題はなかったのに、不安心理が連鎖した瞬間に、棚が空になった。これと同じことが金融市場で起きるのが「取り付け騒ぎ(バンクラン)」です。
事実、これは既に起きつつあります。2026年2月、米大手投資ファンドのブルー・アウル・キャピタルが、個人投資家向けファンド(約16億ドル規模)の解約請求を恒久的に停止しました。
「解約停止」というニュースは、それ自体が次の投資家の不安を煽ります。「うちのファンドも止まるかも」「いま現金化しないと」と。これがバンクランの始まりです。事業が健全な中堅企業でも、貸し手が一斉に資金を引き上げれば倒れます。これを「貸しはがし」と呼びます。
では、私たち個人投資家への影響は
ここからが本題です。VOO・オルカン・QQQを積み立てている私たちに、何が起きるのか。影響を3つの層に分けて整理します。
第1層:直接の影響(ほぼなし)
VOO(米国の代表的な株500社にまとめて投資できるETF)やオルカン(全世界の株にまとめて投資できる投資信託)に入っているのは、上場している大企業の株です。プライベートクレジットは「未上場の中堅企業向け融資」なので、インデックスファンドの中身とは直接の関係がありません。
S&P500に含まれる銀行株も、いまのところ大幅な貸し倒れの備え(貸倒引当金)の積み増しは起きていません。直接的な経路では、ほぼダメージはありません。
第2層:間接の影響(これが重要)
問題はここです。米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BofA、米国の代表的な商業銀行の一つ)が2025年10月20日、衝撃的な警告を出しました。
多くの年金や財団は、片方に「安くていつでも売れるインデックス」、もう片方に「高利回りだが売れないプライベート資産」を持つ「バーベル戦略」を採っています。プライベート資産で損が出て現金が必要になっても、それはすぐ売れません。ではどうするか。「売れるものを売る」。
その「売れるもの」の代表が、S&P500などのインデックスファンドなのです。
アップルもマイクロソフトも、何も悪いことはしていません。それでも、ファンドが現金を作るために売るので、指数が下がる。「会社が悪くなったから下がる」のではなく、「別の市場の混乱の巻き添えで下がる」。長期投資家にとって、最も理解しがたい下落です。
第3層:長期投資家にとっては「買い場」
ここでようやく光が見えます。強制売却で下がるなら、それは「実体経済は悪化していないのに価格だけ下がる」状態です。長期投資家にとっては、明確な買い場です。
私の投資哲学である「絶望は買い」を厳密に当てはめると、こうなります。これは絶望ですらありません。ただの安売りです。絶望よりも、さらに買いやすい状況だと言えます。
誰が得をして、誰が損をするか
市場で何かが起きるとき、必ず勝者と敗者がいます。今回の構造を整理しておきます。
| 得をする可能性がある人 | 損をする可能性がある人 |
|---|---|
| 規律ある大手運用会社(質の悪いファンドが淘汰された後に生き残る) | プライベートクレジットに直接投資した個人投資家 |
| 巻き添え下落で安く仕込めた長期インデックス投資家 | 「高配当」だけでBDC(融資ファンドの上場版)を買った個人 |
| 空売り勢・倒産再生の専門家(短期の混乱で稼ぐ) | 借金頼みの中堅企業/一部の年金・保険の受給者 |
結局、私たちはどうすればいいのか
「複雑さ」は、リスクを隠す技術
プライベートクレジットの仕組みを見て分かるのは、こういうことです。複雑な金融商品は、リスクを減らす技術ではなく、リスクを隠す技術だということです。
多層化、SPV、ファクタリング。これらはすべて「リスクを見えにくくする」装置です。リスクを減らしてはいません。むしろ見えなくすることで、参加者全員が「自分は安全だ」と思い込める仕組みになっています。
これに対し、VOO・オルカンが優れているのは、リターンが高いからではありません。何にリスクを取っているかが、誰の目にも透明だからです。S&P500を買うとは、米国の代表的な500社の株を、時価総額に応じて買うこと。それだけです。隠れた構造はなく、価格は毎秒見え、いつでも売れます。
なお、私自身はVOOとQQQを米ドル建てで、足かけ6年保有しています。ただし、これは私個人の保有であって、そのまま読者の皆さんに勧めるものではありません。米ドル建てETFは為替手数料や配当の二重課税といった手間が伴うからです。読者の皆さんが同じ中身を、より手軽に持つなら、円建ての投資信託のほうが現実的です。下の表で分けて整理します。
| 区分 | 私(筆者)の保有 | 読者が検討するなら |
|---|---|---|
| 米国株の中核 | VOO(米ドル建てETF・6年保有) | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) |
| 全世界に広げるなら | オルカンを少額(参考保有) | eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン) |
| 共通する強み | 中身が透明・低コスト・いつでも売れる(プライベートクレジットの逆) | |
関連書籍・おすすめ
「世紀の空売り――世界経済の破綻に賭けた男たち」— リーマンの「不透明化」がどう作られたかを描いた名著です。映画「マネー・ショート」の原作で、今回の話の「予習」に最適です。
「インデックス投資は勝者のゲーム」— 複雑を避け、シンプルなインデックスを持ち続ける。本記事の結論そのものを、創始者の言葉で確かめられます。
取るべき行動は、いつも通り
ここまで難しい話をしてきましたが、最終的に取るべき行動は、面白いほどシンプルです。
- VOO・オルカンの積立は継続する:プライベートクレジット問題は、インデックスファンドの中身を直接は傷つけません。
- 強制売却で下がったら、買い増す:実力と無関係な下落は、長期投資家にとってのチャンスです。
- BDC高配当や個別の複雑な商品には手を出さない:利回りの裏側に何があるか分からない商品は、私はパスします。
監視しておきたい指標
とはいえ「何も見ずに放置」ではありません。次の本物の絶望が来たときに動けるよう、いくつかの指標を四半期に1回くらい眺めておくとよいでしょう。
| 指標 | 警戒ライン |
|---|---|
| 米失業率 | 4.5%超で景気後退の警戒水準 |
| ハイイールド債スプレッド(低格付け債と国債の利回り差) | 500bp(5%)超で信用不安のサイン |
| 大手ファンドの解約停止報道 | 増えてきたらバンクラン心理の指標 |
| 大手銀行の貸倒引当金 | 積み増しが始まったら本格的な信用悪化 |
どれも難しい指標ではありません。経済ニュースで普通に報じられます。眺めているだけでいいのです。
まとめ
プライベートクレジット問題は、リーマンと「似ているところ」と「違うところ」が両方あります。ここまでの内容を、3つに整理します。
- 似ているのは不透明性と、最後に損するのが投資家という構造です。違うのは、銀行が迂回されていることと、借り手が中堅企業であることです。
- 私たち個人投資家への直接の影響は限定的です。ただし強制売却の連鎖という間接経路で、巻き添え下落が来る可能性はあります。
- その下落は「絶望ですらない、ただの安売り」です。長期投資家にとっては買い場になります。
まずは、ご自身のポートフォリオが「何にリスクを取っているか説明できる中身か」を、一度確認してみてください。
市場が複雑な事件で揺れるときこそ、自分の持ち物がシンプルであることの価値を、再確認する機会になります。シンプルなものを持ち続け、絶望が来たら買い、平時は淡々と積み立てる。今回も、それでいいのです。
▼この記事の内容を、約15分の動画でじっくり解説しました。通勤中や家事の合間に、耳だけでも分かる構成です。
関連動画:プライベートクレジットの「見えない焦げ付き」を15分で解説(YouTube)
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