「金利が上がると、株価は下がる」。投資をしていれば、一度は聞く言葉だと思います。でも、なぜそうなるのかを最後まで説明できる人は、驚くほど少ない。
かくいう私も、投資歴18年です。それでも今回の米国の雇用統計を見た最初の一瞬、私は数字を読み違えました。「これだけ悪い数字なら株が下がるのも当然だ」と。——実際は、真逆だったのです。
だからこの記事を書くことにしました。先に結論を言います。今回の米国株(S&P500・Nasdaq100)の下落は、「景気が悪いから」ではなく「景気が強すぎるから」起きました。そして、この仕組みを一度きちんと理解すれば、こういう下落で慌てて売る理由は、一つもなくなります。
※用語の整理:S&P500は米国の代表的な企業約500社をまとめた株価指数、Nasdaq100はそのうちハイテク企業を中心にした指数です。FRB(米連邦準備制度、通称Fed)は米国の中央銀行で、政策金利を決めます。CPI(消費者物価指数)は物価の上がり方を示す代表的なインフレ指標です。
まず、今週何が起きたのか(最新データ)
📊 最新データ(2026年6月10日時点)
- 米・5月雇用統計(6/5発表):非農業部門雇用者数 +17.2万人(市場予想 +8万人の倍以上)、失業率 4.3%で据え置き、平均時給 +3.4%(前年比)。さらに前2か月ぶんが合計+9.3万人の上方修正。
- 米10年国債利回り:4.55%へ急騰
- FRBの年内「利上げ」確率(CME FedWatch・12月会合まで):約50%→約54%へ上昇
- 日経平均:前日比 -1,237円(-1.89%)の64,179円(6/10終値)(※こちらはイラン情勢の緊迫化と米CPI発表前の持ち高調整が主因。後述)
- ドル円:160円台前半(一時160.44円)(為替介入ラインの160円を突破、当局は介入を示唆)
- 米・5月CPI(6/10発表):headline 前年比 4.2%(前月3.8%から加速・市場予想通り)/コア 前年比 2.9%(前月比+0.2%は予想以下)。月間上昇分の6割超はエネルギー
ここで多くの人が引っかかります。雇用統計の「+17.2万人」を、私も一瞬「17万人も失業した」と読み違えました。けれど、これは失業した人数ではなく、その月に”増えた”仕事の数です。予想が「+8万人の雇用増」だったところへ、実際は倍以上の仕事が生まれた。つまり労働市場は絶好調だったのです。失業率も4.3%で横ばい。どこにも「悪い」要素はありません。
なのに、株は下がった。直感に反するこの現象を、順番に解いていきます。下の図が、今回の下落の全体像です。
仕組み①:株価は「将来のお金を、今の価値に直したもの」
株価とは何か。突き詰めると、その会社が将来生み出す利益を、「今の価値」に直して合計したものです。ここで鍵になるのが「割引(わりびき)」という考え方。
たとえば「1年後にもらえる1万円」は、今の1万円と同じ価値ではありません。今1万円あれば、それを運用して増やせるからです。その”目減り”を決めるのが金利です。金利が高いほど、将来のお金は今の価値に直すと小さくなります。
株価は将来利益の現在価値の合計ですから、金利が上がると、同じ会社・同じ将来利益でも、株価の理論値は下がります。業績が悪化したわけでもないのに、です。これが第一の仕組みです。
仕組み②:投資家は「株とリスクなしの債券」を、いつも天秤にかけている
二つ目は、もっと直感的です。国債は、満期まで持てば原則として約束された利回りがもらえる、株より安全な資産です。その米10年国債の利回りが4.55%まで上がった——これが効きます。
投資家はいつも、頭の中で天秤にかけています。「リスクを取って株を持つか、それともほぼリスクなしで国債の利回りをもらうか」。国債で4.5%もらえるなら、わざわざ値下がりリスクのある株を持つ妙味は薄れます。この「株を持つ追加の見返り」をリスクプレミアムと呼びますが、それが縮むと、資金は株から債券へ流れ、株が売られます。
仕組み③:だから「Nasdaq100(ハイテク)」が、いちばん下がる
ここまで分かると、なぜ今回ハイテク中心のNasdaq100がS&P500より大きく下げたのかも説明できます。鍵は「利益のタイミング」です。
成熟した割安株(バリュー株)は、利益の多くが”今”出ています。一方、ハイテクのような成長株(グロース株)は、利益の大半が”遠い将来”に期待されています。図2で見たとおり、遠い将来のお金ほど、金利上昇で現在価値が大きく目減りします。だから金利が上がる局面では、グロース株=Nasdaq100(ETFでいえばQQQ)が最も荒れる。これは性質であって、異常ではありません。
(補足すると、金利上昇は企業の借入コストも上げ、設備投資や自社株買いを鈍らせます。これも株価には逆風です。ただ、株安の主役はあくまで上の①②③です。)
ニュースは「利下げ期待の後退」と書く。でも、その手前が抜けている
今回の下落を、多くのニュースは「利下げ期待が後退したから売られた」と説明します。間違いではありません。ただ、それだと「なぜ”強い雇用”が”利下げ後退”になるのか」という肝心の一段が飛ばされている。ここまで読んだあなたは、もう順番で言えるはずです。
強い雇用 → 景気が熱い → インフレが再び燃えかねない → FRBは利下げできない、むしろ利上げもありうる → 国債利回りが上がる → 株が下がる。一本の鎖です。
私の見立て:これは「良いニュースが、悪いニュースになる」現象
市場の世界には「Good news is bad news(良い報せが、悪い報せになる)」という言葉があります。まさに今回がそれです。雇用が強いという”良いニュース”を、市場は「金融引き締めが長引く”悪いニュース”」として受け取った。
ここが、私がいちばん伝えたい点です。今回の下落は、企業の中身が壊れて起きたものではありません。むしろ経済は強い。下がったのは「金利という”ものさし”が変わったから」であって、会社の価値そのものが毀損したわけではない。6/10に発表された5月のCPI(消費者物価指数)も、見出しは前年比4.2%と高く見えます。けれど5月の上昇分の6割超はエネルギー価格で、物価の基調を示すコア(食品・エネルギーを除く)は前年比2.9%、前月比は+0.2%と市場予想を下回りました。「見出しは怖いが、中身は別」——ここを原文で確かめるのが、私のやり方です。
仕組みを知る者は、見出しに動じない
私は「絶望は買い」を信条にしてきたコントラリアン(逆張り)の長期投資家です。でも、今回の下げに対して私がやっていることは、拍子抜けするほど地味です。——何もしていません。積立を止めず、淡々と続けているだけです。
理由は単純で、今回の下げはまだ”絶望”ではないからです。好景気を嫌気した金利の付け替えであって、世界が壊れたわけではない。「絶望は買い」が本当に効くのは、世界の終わりのような投げ売りが起きたときです。仕組みを知らないと、こういう”普通の調整”を”絶望”と取り違えて、慌てて売ったり、逆にFOMO(取り残される恐怖)で高値に飛びついたりする。仕組みを知ることは、自分の感情に振り回されないための装備なのです。
📖 もっと深く学びたい人へ
金利、株価、円安、原油——この記事で触れたテーマは、どれも「お金の大きな流れ」の一部です。基礎の基礎からまとめて押さえたいなら、ニュース解説でおなじみのジャーナリスト・池上彰さんの新刊『池上彰のマネーはどうなる?』(文春新書・2026年5月刊)が分かりやすい。本書にも「株価について」「日銀の長期金利コントロール」「なぜ円安が進むのか?」といった章があり、この記事と地続きで読めます。
では、どうするか
- 積立は止めない。S&P500やオール・カントリー(全世界株式)のような指数を、淡々と。金利でものさしが動いても、私が積み立てる理由は変わりません。
- 金利上昇局面では、Nasdaq100(QQQ)はS&P500より荒れると、あらかじめ知っておく。荒れたときに「異常だ」と慌てないためです。
- 為替も意識する。日本でも日銀(日本銀行)が6/16の会合で利上げ(現在0.75%→1.00%)に動くとの見方が強い(日銀ウォッチャー調査では約9割が利上げを予想)。円高に振れると、私のような米国資産中心の投資家は、円換算の評価額が目減りすることがあります。これも「動じない」が試される場面です。
最後に一つ。この記事は「今すぐ買え」とも「売れ」とも言っていません。仕組みさえ分かっていれば、慌てて動かない、という判断は自分でできる。それで十分だと、私は思っています。
これから指数の積立を始めるなら、口座はネット証券が基本です。私が選ぶなら、米国株・投資信託に強いマネックス証券か、サポートの手厚い松井証券。どちらも新NISAでS&P500やオール・カントリーの積立ができます。※相場のタイミングを狙うためではなく、長く積み立てる”土台”として。
🎥 この記事の内容は動画でも解説しています(約11分30秒・5章構成)。
なぜ金利が上がると株価は下がるのか?「好景気なのに株安」の正体を10分で図解
▼関連記事:ジェイミー・ダイモンが警告した「債券危機」と、私が動じない3つの理由/米国債ストリップス債、5.111%が来た日/ネット証券の選び方【2026年】/投資が怖くてNISAを始められない人へ
「結局、自分はいくら積み立てればいいのか」——下落のニュースを見るたびに手が止まる方へ。18年の目線で、一緒に見立てます(個別相談・任意)。▶ 相談を見てみる
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではありません。数値は各公的機関の発表・報道に基づく概算で、市場環境により変動します。投資判断はご自身の責任でお願いします。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
