証券会社や銀行のサイトで国債の欄を開くと、似た名前が2つ並んでいます。「個人向け国債」と「新窓販国債(しんまどはんこくさい)」です。
どちらも国が発行する国債で、どちらも元本が戻ります。名前も似ています。それなら利率の高いほうを選べばいい、と考えたくなります。
ところが2026年8月の実数を並べてみると、同じ10年でも、100万円を置いたときの差が88,084円になりました。一方で5年で置くと、差はたった506円です。
同じ2つの商品なのに、なぜ年限を変えるだけで差が174倍にもなるのでしょうか。この記事では、その差の正体を財務省の数字で分解します。読み終わるころには、「どちらが得か」ではなく「何年置くか」を先に決めるべき理由が分かります。
結論:違いは「国が買い戻すか、市場で売るか」だけです
先に結論を書きます。個人向け国債と新窓販国債の違いは、突き詰めると出口の一点だけです。
個人向け国債は、国が額面どおりに買い戻してくれます。新窓販国債は、市場で誰かに売るしかありません。
財務省は新窓販国債の商品概要に、はっきりこう書いています。
国の買い取りによる中途換金制度はありません
この一文がすべてです。そして、この「国が買い戻す」という約束には値札が付いています。その値札が、2026年8月の実数ではこうなりました。
| 年限 | 新窓販国債(税引後) | 個人向け国債(税引後) | 差 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 2.236% 10年・第383回(表面2.7%) |
1.490% 変動10年・第197回(1.87%) |
0.746ポイント |
| 5年 | 1.651% 5年・第187回(表面2.2%) |
1.642% 固定5年・第185回(2.06%) |
0.010ポイント |
| 2〜3年 | 1.141% 2年・第487回(表面1.5%) |
1.363% 固定3年・第195回(1.71%) |
年限が違うため単純比較はできません |
10年では0.746ポイントの差がつき、5年ではほぼ差がありません。同じ「元本保証」を買っているのに、値札がまったく違います。
かんたん解説:税引後とは
国債の利子には20.315%の税金がかかります。表示されている利率は税金を引く前の数字です。実際に手元に残るのは、そこから約2割を引いた金額になります。この記事では比較をそろえるため、すべて税引後の数字で並べています。
新窓販国債とは何か。個人向け国債と何が違うのか
新窓販国債は「プロが買う国債」を個人にも売っているものです
新窓販国債は、正式には「新型窓口販売方式国債」といいます。国が機関投資家(銀行や保険会社などの大口の買い手)向けに発行している、普通の利付国債です。
それを証券会社や銀行の窓口で、個人にも売る仕組みになっています。
中身は市場で流通している国債とまったく同じものです。だから市場で売れます。そして市場で売る以上、そのときの値段で売ることになります。
個人向け国債は「個人専用」に設計された別商品です
いっぽう個人向け国債は、個人のために作られた専用商品です。市場では流通しません。その代わり、国が額面どおりに買い戻す約束が付いています。
2つの仕様を並べると、性格の違いがはっきりします。
| 項目 | 個人向け国債 | 新窓販国債 |
|---|---|---|
| 年限 | 変動10年・固定5年・固定3年 | 10年・5年・2年(すべて固定) |
| 買うときの値段 | 額面100円につき100円(常に同じ) | 毎回変わります(8月債は99円32銭〜100円45銭) |
| 最低購入額 | 1万円から1万円単位 | 5万円から5万円単位 |
| 途中でやめるとき | 国が額面で買い取ります 発行後1年たてばいつでも可能です |
市場で売ります 国の買い取り制度はありません |
| 元本割れ | しません | 途中売却ならあり得ます |
| 最低金利の保証 | 年0.05% | ありません |
| 金利タイプ | 変動あり(10年のみ) | すべて固定です |
買うときの値段が常に100円かどうかは、地味に見えて大きな違いです。個人向け国債は、いつ買っても、いくら買っても、額面と同じ金額を払います。損得の計算をする必要がありません。
変動10年だけ「基準金利×0.66」。34%はどこへ消えるのか
ここからがこの記事の核心です。
個人向け国債の利率は、市場の金利をそのまま使うわけではありません。財務省が決めた計算式で決まります。その式が、種類ごとに違います。
変動10年は掛け算、固定型は引き算です
財務省が定めている式は、次のとおりです。
- 変動10年 = 基準金利 × 0.66
- 固定5年 = 基準金利 − 0.05%
- 固定3年 = 基準金利 − 0.03%
固定型は引き算です。市場の金利から0.05%を引くだけなので、ほぼ実勢どおりの利率がもらえます。
ところが変動10年だけが掛け算です。0.66を掛けるということは、市場の金利の34%が差し引かれるということになります。
8月の数字で逆算すると、消えた分は年0.96%でした
2026年8月の変動10年の利率は1.87%でした。ここから基準金利を逆算します。
1.87% ÷ 0.66 = 2.833%。これが8月の基準金利、つまり10年国債の入札利回りです。
裏付けもあります。同じ8月に募集された新窓販国債10年の応募者利回りは2.788%でした。逆算値の2.833%とほぼ一致します。差の0.045ポイントは入札のタイミングの違いです。
つまり同じ10年の日本国債から生まれた利回りなのに、個人向け国債の変動10年を選ぶと、年0.96%が手元に来ません。
かんたん解説:消えた0.96%は損なのでしょうか
損ではありません。元本保証と金利の追随という2つのサービスを買っている代金と考えるほうが正確です。変動10年は半年ごとに利率が見直されるので、金利が上がれば受け取る利子も増えます。その仕組みの代金が0.96%だと理解すると、判断がしやすくなります。
元本保証の値札は、年限によって174倍も違います
ここで最初の数字に戻ります。100万円を置いた場合の到達額を計算しました。
10年で置くと、新窓販国債10年は1,247,494円、個人向け国債の変動10年は1,159,410円になります。差は88,084円です。
5年で置くと、新窓販国債5年は1,085,321円、個人向け国債の固定5年は1,084,815円になります。差は506円しかありません。
88,084円 ÷ 506円 = 約174倍。同じ「国が買い戻してくれる安心」を買っているのに、10年で買うと5年で買うより174倍高くつきます。
ここから導かれる答えは、はっきりしています。
5年で置くなら、個人向け国債の固定5年を選ばない理由がほとんどありません。利回りはほぼ同じで、元本保証と1万円単位という使いやすさが無料で付いてきます。
いっぽう10年は、年0.75ポイントの保険料を払う価値があるかどうかの判断になります。金利がこれから上がると考えるなら、変動10年の追随機能はその保険料に見合います。金利が動かないと考えるなら、割高な買い物になります。
新窓販国債で見落とされやすい3つの落とし穴
1. 途中で売ると元本割れがあります
これがいちばん大きな違いです。新窓販国債は市場で売るので、金利が上がっていれば債券の値段は下がっています。
財務省も「償還期限前に売却する場合には、売却損が出ることもあります」と明記しています。買い手がつかず売れないこともあります。
2. 買うときに「初回の利子の調整額」を先払いします
これは意外と知られていません。新窓販国債は、発行日から最初の利払日までがちょうど半年になりません。
そのため半年に満たない分の利子を、購入時に先に払い込みます。そのうえで最初の利払日に半年分をまとめて受け取ります。
2026年8月債では、10年債が額面100円につき0.5917808円(80日分)でした。100万円分を買うと約5,918円を先に払う計算になります。
あとで戻ってくるお金なので損ではありません。ただし買うときに必要な現金が、想定より増える点は知っておく価値があります。なおこの調整額は、売却や償還のときに取得費として加算できます。
3. 最低金利保証がなく、単位も5万円です
個人向け国債には年0.05%の最低金利保証があります。新窓販国債にはありません。
また購入単位が5万円からです。個人向け国債の1万円と比べると、細かく積み上げる使い方には向きません。
実践|年限を先に決めれば、商品は自動的に決まります
ここまでの数字を、判断の順番に組み替えます。商品から選ぶのではなく、置く期間から選びます。
| そのお金を使う時期 | 向いている置き場所 | 理由 |
|---|---|---|
| 1年以内 | 現金・普通預金 | 個人向け国債は1年間は換金できません |
| 2〜3年 | 個人向け国債 固定3年 | 税引後1.363%。年限は1年長くなりますが、新窓販2年の1.141%を上回ります |
| 5年前後 | 個人向け国債 固定5年 | 差はわずか506円で、元本保証がほぼ無料で付きます |
| 10年・満期まで持つ | 新窓販国債 10年 | 途中で売らないなら、年0.75ポイントの保険料は不要です |
| 10年・途中で使うかも | 個人向け国債 変動10年 | 元本保証と金利追随の代金として0.96%を払います |
途中でやめても、元本は減りません
個人向け国債の中途換金には手数料のようなものがかかります。正確には直前2回分の各利子(税引前)相当額に0.79685を掛けた金額が差し引かれます。
変動10年(利率1.87%)を100万円分持っていて、2年で解約したとします。差し引かれるのは14,901円です。
大事なのは、それでも元本の100万円は必ず戻るという点です。減るのは受け取った利子の一部だけで、投資したお金そのものは1円も減りません。
口座の使い分けについて
個人向け国債は、どの金融機関で買っても利率が同じです。国が決めた利率をそのまま買うためです。差が出るのはキャンペーンと、その口座で他に何ができるかになります。
私の主軸はSBI証券ですが、用途で使い分けています。日本の国債と外国債券を同じ口座で見比べたい場合は、外国債券の取扱いが厚い証券会社が便利です。
「いつ・どの通貨で使うか」を先に決めます
ここまで国債の話をしてきましたが、本当の結論は商品の外側にあります。
お金の置き方は、期間で3つに分かれます。
- 短期(1年以内):現金。増やす場所ではなく、いつでも動かせることが価値になります
- 中期(1年〜10年):国債。元本を守りながら、預金より少しだけ多く受け取ります
- 長期(10年以上):インデックスファンド(日経平均やS&P500など市場全体にまとめて投資できる商品)。時間を味方にします
この3層に、米国債の居場所はあるのでしょうか
私は米国債について、税引後で年5%(表面でおよそ5.7%)を超えたら買うというルールを持っています。このラインは今も動かしていません。2026年8月時点でも、私は米国債を保有していません。
ただし今回、3層に整理してみて気づいたことがあります。ラインが来るかどうかと、そのお金を3層のどこに入れるかは、別の問題でした。
円で暮らし、円で使う予定のお金であれば、短期は為替リスクがある時点で向きません。中期は満期時の為替次第で目減りする可能性があります。長期は株式インデックスの期待リターンに届きにくくなります。
つまり米国債が悪い商品なのではなく、円で使う予定のお金には、置き場所として噛み合わないということになります。逆に、子どもの留学や海外移住などでドルを使う予定があるなら、為替リスクが消えるので中期の枠として有力になります。
金利上昇に追随して元本も守られるのは、日本の個人だけの特典です
調べていて、私自身が知らなかったことがありました。米国にも変動利付国債(FRN)があります。2014年1月から発行されている2年物で、13週の米国短期国債の入札利回りに連動し、毎週金利が見直される仕組みです。
ただし私が確認した範囲では、日本の証券会社の外国債券の一覧に並んでいませんでした。日本の個人が実際に買える米国債は、固定利付債とゼロクーポン債(利子がない代わりに安く買う債券)がほとんどです。
「金利が上がれば利率も上がり、しかも元本は保証される」という組み合わせ。これは日本の個人向け国債の変動10年にしかありません。
0.96%という代金は、その独占的な機能の値段だと考えると腑に落ちます。
私の保有と、読者への提案は分けて書きます
| 私(筆者)の実際 | 読者への提案 |
|---|---|
| 自分名義では国債を保有していません | 使う時期が決まっているお金があるなら、検討する価値があります |
| 子ども名義の口座で、勉強用に個人向け国債を持っています | 少額から仕組みを体験するなら、1万円単位の個人向け国債が向きます |
| 米国債は未保有で、税引後5%のラインを待っています | ドルで使う予定がないなら、無理に持つ理由はありません |
まとめ
- 個人向け国債と新窓販国債の違いは出口です。国が額面で買い戻すか、市場で売るかの一点に集約されます。
- その安心の値札は、年限によって174倍違います。10年なら100万円あたり88,084円、5年なら506円になります。
- 変動10年だけが「基準金利×0.66」です。市場金利の34%、2026年8月なら年0.96%が、元本保証と金利追随の代金になります。
まずは、そのお金を何年後に使うのかを紙に書いてみてください。年数さえ決まれば、選ぶべき商品は判断表のとおり自動的に決まります。商品の比較サイトを何時間見ても、この年数だけは出てきません。
利回りの比較は、他人と同じ土俵に立つ行為です。けれど「そのお金をいつ、どの通貨で使うか」だけは、自分にしか答えられません。最適解は市場の側ではなく、自分の人生の側にあります。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。記載の利率・価格は2026年8月募集分の実数であり、最新の条件は財務省および各金融機関のサイトでご確認ください。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
