2024年1月にスタートした新NISA。あっという間に2年余りが過ぎた。
S&P500、オルカン、NASDAQ100。SNSではテーマ株や高配当が連日話題になり、暴落のたびに「やっぱりインデックスはダメだ」「いや積立を続けろ」と意見が割れた2年余りだった。
そんな2年余りを経て、改めて手に取ったのが本書『インデックス投資は勝者のゲーム』。著者はジョン・C・ボーグル──バンガード創業者、インデックスファンドという発明そのものを世に出した男の、遺言とも言える1冊だ。
結論から書く。新NISA2年経過後の今だからこそ、ボーグルの言葉が刺さる。
本書が言っているのは「真新しいこと」ではない
正直に書くと、本書に書かれている内容そのものは、投資の世界では「当たり前」と言われ続けてきたことばかりだ。
- 長期で保有しろ
- 複利で稼げ
- 個別株に手を出すな
- アクティブファンドはインデックスに勝てない
- インデックスは投資信託で買え(ETFは初心者にはまだ早い)
- 市場のタイミングを計るな
- コストを徹底的に下げろ
どれも、ネットでも書籍でもさんざん言われてきた話。「またこれか」と感じる人もいるはずだ。
ではなぜ本書を読む価値があるのか。答えはひとつ。
「当たり前」を体系立てて、エピソードと数字とともに腹落ちさせてくれるから。これに尽きる。
新NISA2年経過の間に、まわりで握力を失って売却した人を何人か見てきた。彼らに足りなかったのは知識ではない。「当たり前」を信じ抜く根拠と、握力が弱った夜に読み返せる心の支えだ。本書はそれをくれる。
ボーグルの教えを10項目で圧縮
- 金融業界の構造:複雑な投資商品は手数料収入のために作られている。個人投資家にとって必ずしも有利ではない
- 株式投資は敗者のゲーム:プロでさえ市場平均を上回り続けることは難しい
- コストの威力:手数料は複利で拡大し、長期的にリターンを大きく削る
- タイミングは不可能:短期の動きを当て続けることはできない
- 配当と再投資:再投資すれば複利効果が高まる。ただし高配当株が常に優良企業とは限らない
- 長期保有が基本:市場全体に連動するインデックスを長期で持つ
- 個別株はハイリスク:分散の効かない個別銘柄は推奨されない
- ETFは上級者向け:低コストだが、初心者は投資信託の方が安全
- 変化への対応:過去の成功体験に固執しない
- 謙虚さ:市場は常に変化する。謙虚な姿勢で臨む
新NISA2年経過後に効いた3つの言葉
1. コストは複利で「拡大」する
多くの人は手数料を「足し算」で見る。年0.1%と年1.5%の差は1.4%だから、たいした差じゃない、と。
違う。コストは複利で拡大する。30年運用すれば、信託報酬の差は最終リターンの数百万円差に育つ。新NISAで枠を埋めていく途中の今、信託報酬の選別はまず最優先でやり切るべき仕事だ。
2. 市場のタイミングを計ることは不可能
この2年余り、何度も「今が買い場」「今は調整待ち」の声が飛んだ。後からチャートを見れば「あの時買えば」「あの時売れば」と言える。
でも、それを事前に言い当てることはほぼ不可能だ。ボーグルは何十年も前からそう言い続けてきた。新NISAでつみたてを止めなかった人が、結局2年経過時点で含み益を抱えている──それが答えだ。
3. 株式投資の常識は「謙虚さ」
含み益が出ると、自分が天才に思える。これが一番怖い。
ボーグルは何度も書いている──市場は常に変化する。謙虚であれと。新NISA3年目に入る今、この一文をもう一度噛み締めたい。
補足:年率7%という数字の正体
本書でも、インデックス投資の話題でも、繰り返し登場する「年率約7%」というフレーズは、誤解されやすい数字でもある。
これは数十年単位の長期平均であって、毎年7%が出るわけではない。年によってはマイナス30%もあれば、プラス20%もある。短期の上下は、長期リターンに織り込まれた「ノイズ」に近い。
この認識を持っているかどうかで、暴落時の行動は大きく変わる。「マイナス30%が出ること」は織り込み済みなのか、それとも「想定外の事故」なのか。本書を読み直すと、ボーグルがどれほど執拗にこの点を強調していたかがわかる。
握力が弱い人ほど、本書を本棚に置いてほしい
暴落で売ってしまう人。SNSで他人のリターンを見て焦る人。テーマ株に乗り換えたくなる人。
本書はそういう人のための「お守り」だ。読み直すたびに、当たり前の戦略を当たり前にやり続けることの強さを思い出させてくれる。
知識として知っている人ほど、定期的に読み返してほしい。
逆に、下がっても気にならない人にも本書は効く
もう一つの角度を書いておきたい。
株が下がっても、あまり気にならない人がいる。スマホを開くのが怖くもなく、夜眠れなくなることもない。こういうタイプは「達観している」「相場を信じている」と言われがちだが、本人にとっては違うことが多い。
正直、私もこのタイプだ。下がっている時、どこか他人事のように感じている。それは「信じているから」ではなく、「タイミングを計っても自分には無理だから、放置するしかない」と思い込んでいるだけだ。半分は、諦めに近い鈍感さに近い。
ところが、本書を読み直すと、その「放置するしかない」という思い込みが、ボーグル80年の研究結果と完全に一致していたと気づく。
「タイミングは計れない」「市場は予測できない」「コストを徹底的に下げろ」──私が「自分には無理だから」と消極的にやっていたことは、本書が積極的に推奨する戦略そのものだった。
ある種の鈍感さで握力を保っている人にも、本書は別の役割を果たす。自分の鈍感さに、理論的な裏付けをくれるのだ。
握力の強さに種類はない。「信念で握っている人」も「放置するしかなくて握っている人」も、握り続けられているなら勝者のゲームに残れる。本書はその両方を理論的に支えてくれる稀有な1冊だ。
あわせて読みたい1冊:チャールズ・エリス『敗者のゲーム』
本書のタイトル『勝者のゲーム』は、もう1冊の古典『敗者のゲーム』を反転させたメッセージだ。チャールズ・エリスがアマチュアテニスを例に「ミスを減らした方が勝つ」と説き、ボーグルが「だからインデックスで勝てる」と引き取った。
2冊を並べて読むと、インデックス投資の哲学的な背骨が完全に通る。
まとめ
- 本書の内容は「真新しい」ものではないが、「当たり前」を体系化して腹落ちさせてくれる
- 新NISA2年経過後だからこそ、ボーグルの教えが刺さる
- 長期・低コスト・分散・謙虚──この4つを握り続ければ、勝者のゲームに残れる
- 握力が弱い人、暴落で売ってしまう人ほど、本棚に置く価値がある
- 『敗者のゲーム』とセットで読むと、インデックス投資の哲学が完成する
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

