1.取り崩しは「老後の話」ではない

── 現役期から、すでに始まっている
「取り崩し」という言葉を聞くと、
多くの人は老後に資産を売る行為を思い浮かべます。
でも実際には、
取り崩しはもっと前から始まっています。
たとえば、次のような行動。
- 円安局面で、一部を円転する
- 配当金を生活費に回す
- 税金を支払うために、現金比率を下げる
- 為替差益・為替差損を受け入れる
これらはすべて、
「資産を減らす」という意味では、立派な取り崩しです。
重要なのは、ここ。
取り崩し = 資産売却
ではない
ということ。
すでに出口に足を踏み入れている
- 配当は「現金化されたリターン」
- 税金は「確定的な資金流出」
- 円転は「為替ポジションの解消」
「売っていないから、取り崩していない」
そう思っていても、
形を変えた出口戦略は、
現役期から少しずつ進行しています。
円転・為替・税金・配当。
この時点で、すでに出口に立っている。
問うべきは「時期」ではない
だから本当の問題は、
「いつから取り崩すか」ではありません。
どんな思想で、取り崩しに向かうか。
この視点を持たないまま
「老後になったら考える」設計をすると、
いざ出口に立ったとき、判断が壊れます。
取り崩しは、
老後のイベントではなく、
**現役期から続く“思考の設計”**です。
2.「何から売るか」より「何を最後まで残すか」

多くの出口戦略は、こう問いかける。
「どの資産から売ればいいですか?」
だが、
「売らない前提」で資産設計をしてきた人にとって、
この問いは少しズレている。
本当に重要なのは、
「何から売るか」ではない。
**「最後まで残す資産は何か」**だ。
売却順ではなく、
生き残り順を決める。
ここが、この設計の核心になる。
最後まで残す3つの資産
① 個人向け国債(または同等の安全資産)
- 価格変動が小さい
- 日本円建て
- 精神的な支柱になる
リターンを狙う資産ではない。
**不安が最大化した局面でも、手を付けずに済む「錨(いかり)」**として持つ。
② ゴールド
- 国家・通貨リスクの外側
- インフレ・金融不安への保険
- 「使わなくていい安心」を持つための資産
利益を生むためではなく、
想定外に備えるための資産。
③ キャッシュバッファ
- 生活防衛資金
- 相場を見ないための装置
- 感情を壊さないための余白
非効率に見えるが、
感情を守るという点では、最も効率的な資産でもある。
この3つは、
リターンを最大化するための資産ではない。
人生を壊さないための資産だ。
Hiroの視点だと、この順番の強さはここにある
この設計の特徴は、
資産の性質ではなく、人間の感情を基準に並べている点にある。
多くの出口戦略は、
「効率」や「理論」から順番を決める。
私の考えは違う。
感情が壊れにくい順に、資産を並べる。
ここが、
一般的な出口戦略との決定的な違いだ。
Hiroの「壊れない」取り崩し順(対応関係)
※これは「売却を勧める順番」ではない。
不安が最大化した局面でも、精神的に最後まで触らずに残したい順を示している。
- 攻めの投資 → 最初に消える
- インデックス → 調整用クッション
- 国債 → 精神の防波堤
- 金 → 本当に最後
「最後まで残すもの」を先に決めているから、
売る判断で迷わない。
まとめ(2章の締め)
取り崩し順は、
「効率がいい順」ではない。
感情が壊れにくい順だ。
これが、
「売らない前提」で設計してきた人のための、
現実的な出口戦略になる。
3.4%ルール vs DIE WITH ZERO を整理し直す

出口戦略の議論では、必ず出てくる考え方が2つある。
- 4%ルール
- DIE WITH ZERO
どちらも有名で、
どちらも一理ある。
ただし、
どちらも「そのまま使う」には極端だ。
4%ルールの現実
4%ルールは、
「資産を減らさずに取り崩し続けられる」という点で、
非常に分かりやすい指標だ。
しかし、前提条件をよく見る必要がある。
- 米国市場の長期平均が前提
- 為替・税制・個人の生活事情は考慮されていない
- 「資産を減らしてはいけない」という心理的制約が強い
結果として、
使うための資産が、
守るための資産に変わってしまう
という矛盾が生まれやすい。
DIE WITH ZERO の現実
一方、DIE WITH ZERO は思想として美しい。
- 経験にお金を使う
- 使い切ることを恐れない
- 人生の満足度を最大化する
ただし、現実に落とすと難易度は高い。
- 人は未来を正確に予測できない
- 健康・寿命・市場環境は不確実
- 不安耐性が高くないと成立しない
多くの人にとっては、
精神的コストが高すぎる戦略になりがちだ。
現実解は「段階的ハイブリッド」
どちらかを選ぶ必要はない。
思想ではなく、フェーズで使い分ける。
これが現実的な解になる。
前半フェーズ
- 資産に余裕があるうちは
定率・柔軟な取り崩し - 相場環境や生活状況に応じて調整
- 4%ルール的な考え方を“目安”として使う
後半フェーズ
- 資産が生活費に近づいてきたら
定額・安定的な取り崩し - 生活費ベースで考える
- 「減らさない」より「続けられる」を優先
まとめ(3章の結論)
4%ルールも、DIE WITH ZERO も、
極論としては正しい。
だが、現実はその中間にある。
正解の思想を選ぶのではなく、
その時点の自分に合ったフェーズを選ぶ。
これが、
「売らない前提」で設計してきた人にとって、
もっとも壊れにくい出口戦略になる。
4.壊れない取り崩し

取り崩しで一番怖いのは、
資産が減ることじゃない。
感情が壊れることだ。
感情が壊れる瞬間
感情は、ある日突然壊れる。
- 相場下落と生活不安が同時に来たとき
- ルール通りにできなかったとき
- 「これで良かったのか?」と毎月考え始めたとき
このとき、
資産額よりも先に、判断力が削られていく。
ルールが守れなくなる瞬間
多くの場合、
壊れるのは数字ではない。
- 数字は正しいのに、心が追いつかない
- SNSやニュースに振り回される
- 他人の成功と自分を比べ始める
この状態になると、
どんなに優れた理論も意味を失う。
「正解」より「続けられる設計」
だから必要なのは、
最適解ではない。
必要なのは、
続けられる設計だ。
- 少し非効率でもいい
- 少し保守的でもいい
- 自分の言葉で説明できるルールであること
それだけで、
判断は驚くほど安定する。
Hiroの視点
私に言わせれば、
これは思考のガバナンスの問題だ。
- 理性(数字)は合っているか
- 社会性(環境・情報)に振り回されていないか
- 感情(不安・焦り)が暴走していないか
この3つが同時に保たれている状態を、
**「壊れていない」**と定義する。
取り崩しは「耐久戦」
取り崩しは、
一度の正解で終わるイベントではない。
何十年も続く耐久戦だ。
だからこそ、
正しくやることより、
壊れずに続けることが重要になる。
4章の結論
取り崩しとは、
資産を減らす作業ではない。
判断力と感情を守り続ける作業だ。
これができていれば、
資産設計は最後まで崩れない。
まとめ|取り崩しは「終わり」ではなく「設計の完成」
資産形成は、
増やすフェーズだけで完結しない。
どう使い、
どう終えるかまで含めて、
はじめて「設計」になる。
売らない前提で、
時間をかけて積み上げてきた人ほど、
出口では慎重になる。
それでいい。
取り崩しは、
資産運用の敗北ではない。
資産設計の完成形だ。
正しく終えることは、
正しく始めることと同じくらい難しい。
