はじめに
2025年3月の金融政策決定会合において、日本銀行(以下、日銀)は無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移させる方針を決定しました。これは、景気に一部弱さがあるものの、緩やかな回復が続いていることを踏まえた判断と言えます。一方で、日銀はこれまで金融機関から買い入れてきた株式の売却を進めており、2025年の夏にもこの売却が完了する見通しとされています。その結果、次なる焦点は日銀が大量に保有する上場投資信託(ETF)をどのように処分するかという点に移っています。
本記事では、日銀の金融政策とETF売却方針を整理したうえで、その背景・影響を分析し、個人投資家がどのようなスタンスで資産運用を行うべきかを考えてみたいと思います。
現在の金融政策とその狙い
金融政策の概要
- 政策金利を0.5%程度で維持
日銀が目標とする無担保コールレート(オーバーナイト物)は、短期金融市場で資金を貸し借りする際の金利です。この金利が上昇すると企業や個人が借り入れに伴うコスト増を感じやすくなるため、景気が冷え込みやすくなります。逆に、この金利を低めに維持すれば、企業や個人は借り入れやすくなり、景気を刺激できる可能性があります。今回の日銀の決定は「ある程度の緩和姿勢は残しつつも、急激な利上げは行わない」というバランス重視のアプローチを示しているといえます。 - 景気の現状
政府や日銀の発表によれば、景気は「緩やかな回復基調」とされています。しかし、業種や企業規模によっては依然として厳しい状況が続いているところもあり、「一部に弱めの動きが見られる」という表現がなされています。コロナ禍からの回復過程で、世界経済の先行きや原材料価格の高騰など、不確定要素はまだ多く残っているのが実情です。
ETF売却方針の重要性
日銀のETF保有状況
日銀は過去の金融緩和策の一環として、ETFを大量に買い入れてきました。下の表は、あくまでイメージですが、ETF買い入れ額の推移の例を示しています。
年度 | 年間ETF買い入れ額(兆円) | 累計保有残高(兆円) |
---|---|---|
2015年 | 3 | 3 |
2016年 | 6 | 9 |
2017年 | 6 | 15 |
2018年 | 5 | 20 |
2019年 | 4 | 24 |
2020年 | 7 | 31 |
2021年 | 5 | 36 |
2022年 | 1 | 37 |
2023年 | 0.5 | 37.5 |
図表1:日銀のETF買い入れ額と累計保有残高(イメージ)
累計で数十兆円規模に上るETFを保有しているとされ、日銀が実質的に日本株式市場の大株主になっているとも言われます。こうした状況下で、日銀がETFをどのように処分するのかは、市場の先行きを考える上で重要なポイントです。
株式売却からETF売却へ
日銀は金融機関が保有していた株式を買い取る施策を実施してきましたが、その売却を進めており、2025年夏にも完了する見通しです。次の段階として、ETFの売却が焦点となります。しかし、日銀の内田眞一副総裁は「現時点でETFの売却計画はない」とコメントしています。もっとも、将来的には以下のような売却戦略が想定されています。
- 長期的・段階的アプローチ
市場への衝撃を避けるため、数年先を見据えて少しずつ売却を行う。 - 市場状況に応じた売却
株価が安定している時期を見計らって売却し、価格下落のリスクを最小限に抑える。 - 売却方法の多様化
信託銀行や政府系ファンドへの売却、あるいは新設の受け皿機関を活用する。 - 法的・制度的枠組みの調整
市場を通じない売却や簿価での売却を可能にするルール整備なども視野に入れる。 - 財務リスクの管理
日銀自身の財務悪化を防ぐため、株価の下落を極力回避するタイミングで売却を行う。
ETF売却がもたらす市場への影響
売却による需給バランスの変化
ETFは株式の集合体であり、多くの企業の株式をまとめて保有しています。日銀が大量にETFを売却すれば、株式市場の需給バランスが崩れ、株価が押し下げられる可能性があります。ただし、実際には上記のとおり「長期的かつ段階的に売却する」「市場価格が安定したタイミングを狙う」などの工夫がなされると見られるため、急激な暴落を招くような方法はとらないだろうというのが一般的な見方です。
投資家心理への影響
日銀がETFを手放すということは、「これまで公的機関が市場を支えてきた構造」が変わり始めるシグナルとも言えます。市場にとっては「日銀が買ってくれなくなるかもしれない」という不安感が広がり、投資家心理を冷やす可能性があります。一方で、「ようやく民間主体の需給バランスに戻る流れができる」と前向きに評価する向きもあり、一概にネガティブな材料とは限りません。
個人投資家がとるべき行動
1. 長期的視点での投資
ETF売却は一度にどかっと行われるわけではなく、長期間かけて段階的に行われる可能性が高いです。そのため、短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、数年・数十年先を見据えた資産形成を心がけることが重要です。
2. 分散投資の実践
個別株に集中投資している場合、日銀のETF売却による市場全体の値動きに左右されやすいリスクがあります。グローバル企業や革新的企業、フィンテック関連など、多様なETFを組み合わせたり、株式以外の資産クラス(債券、金など)も組み合わせることで、リスクを分散させることが効果的です。
3. ドルコスト平均法の活用
株価が上下するタイミングを正確に読み切るのは、プロの投資家でも容易ではありません。一定額を定期的に投資する「ドルコスト平均法」を活用すれば、高値づかみのリスクを抑え、下落時には安く買い付けることが可能です。日銀のETF売却による短期的な下落があっても「買い時」ととらえることで、精神的にも安定した投資が続けやすくなります。
4. 新NISAの積極的活用
2024年からスタートした新NISAは、年間最大360万円まで投資額が非課税枠となり、投資家にとって大きなメリットがあります。日銀のETF売却による市場変動リスクを考える場合でも、「税金で取られる分のコストを抑えられる」という点で、長期的なリターンを最大化しやすい制度です。ぜひ活用を検討しましょう。
5. 市場動向の定期的なチェック
日銀の方針やETF売却に関する報道は今後も注目を集めるでしょう。定期的に情報をチェックし、必要に応じて投資戦略を見直すことが求められます。ただし、「大きく下落しそうだから急いで売る」「上がりそうだから飛びつく」といった短期的な判断ばかりに振り回されないよう注意が必要です。
6. コア・サテライト戦略の採用
ポートフォリオの「コア」には、比較的リスクが低く安定的な資産(国内外の株式市場全体に分散するETFなど)を置き、「サテライト」には成長が期待できるテーマや興味のあるセクターのETFを少額組み入れる方法です。これにより、全体的には安定しながらも、部分的に高いリターンを狙うチャンスを確保できます。
7. 余剰資金の継続的な運用
インフレ懸念があるなか、銀行預金にお金を置いておくだけでは実質的に資産価値が目減りしてしまう可能性があります。使う予定のない余剰資金は、コア・サテライト戦略やドルコスト平均法などを活用しながら継続的に運用することが賢明です。
まとめ
日銀が政策金利を0.5%程度で維持する方針を示す一方、過去に買い入れた株式の売却を進め、2025年夏までに完了を目指す見通しとなりました。次なる関心事は、日銀が大量に保有するETFをいつどのように売却するかです。現時点では具体的な売却計画は示されていませんが、長期的・段階的な売却、市場状況に応じた売却タイミングの選択、新たな受け皿機関の利用など、多面的なアプローチが検討されると考えられます。
個人投資家としては、短期的な思惑や株価変動に振り回されず、長期的な視点で資産を増やしていく姿勢が何よりも重要です。分散投資やドルコスト平均法、新NISAなど、リスクを抑えながらリターンを狙える手法を組み合わせることで、日銀のETF売却がもたらす市場の変動にも柔軟に対応できるはずです。日本経済はコロナ禍からの回復途上であり、不透明要素がなお残る時期ですが、正しい情報と知識をもとに、計画的に資産形成を行いましょう。
これからも日銀の動向や世界経済のニュースにアンテナを張り、必要に応じてポートフォリオを見直すことが大切です。急激な変化が起きても慌てず、リスク管理を意識したうえで資産形成を続ければ、やがて来るであろう好機を逃さずに済むでしょう。
以上が、日銀のETF売却戦略を踏まえた個人投資家の対応策と、その背景についての解説です。初心者の方も、今回のポイントを押さえて投資に臨めば、日銀の金融政策とETF売却による株式市場の変動を上手に乗り越えられる可能性が高まるはずです。ぜひ長期的な視野を持って、一歩ずつ着実に資産形成を進めてみてください。
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