有事の金買いが通じない?中東危機で金価格急落の理由

投資全般

「有事の金買い」が通じない? 中東危機で金価格が急落したワケ

「戦争が起きると金が上がる」――そう聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。金(ゴールド)はこれまで長く「有事の安全資産」として知られてきました。ところが2026年、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始してから約1カ月が経つにもかかわらず、金価格は大幅に下落し続けているのです。なぜ「有事の金買い」が起きないのか。この記事では、その理由をわかりやすく解説します。

金価格はどのくらい下がったのか

英LSEGのデータによると、イラン攻撃前の2026年2月27日にはロンドン金現物価格が1トロイオンス5,200ドル台で推移していました。ところが3月27日時点では4,400ドル台と、約15%もの大幅な下落を記録しています。その後やや値を戻し、3月31日午前の時点では4,500ドル台での推移となっています。

金は3月に13%以上急落し、2008年10月以来の急激な下落を記録しており、1月下旬に設定された過去最高値からほぼ19%下回っています。これは約17年ぶりとなる最悪の月間パフォーマンスです。

金現物価格の推移(2026年)
金現物価格の推移(2026年)(単位:ドル/トロイオンス)

2022年のウクライナ侵攻との大きな違い

2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻したとき、金価格は小幅ながら上昇しました。原油価格も急騰し、世界的なインフレ圧力が高まったのは今回と似た状況です。しかし、金価格の動きはまったく逆でした。

それぞれの軍事攻撃開始前日を「ゼロ」として比較すると、戦闘開始から約20日が経過した時点で、2022年の金価格はやや上昇していたのに対し、2026年は1,000ドル近く下落という、まったく異なる動きを見せています。

軍事攻撃開始から約20日後の金価格変化比較
軍事攻撃開始から約20日後の金価格変化比較(単位:ドル)

なぜ有事なのに金が売られるのか? 2つの理由

理由① ドル高と利上げ観測の浮上

一般的に、金価格と米ドルは逆相関関係にあるといわれています。つまり、ドル高になると金の価値が下がる傾向にあるのです。

今回の中東紛争では、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで原油価格が急騰しました。この売りは、投資家のセンチメントの大きな変化を反映しており、中東の戦争の激化がインフレ懸念を煽り、タカ派的な金融政策の見通しを促しています。その結果、トレーダーは2026年の米国金利引き下げの見通しを完全に排除しており、戦争前の2回の引き下げの期待からの大きな逆転となっています。

楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは、「金融政策が転換する可能性が意識される状況にある」として、ドル高が金を押し下げていると指摘します。金の大きな買い材料の一つだったはずの「利下げ観測」が一転し、利上げへの警戒感に変わったことが、金売りを加速させているというわけです。

実際、投資家は米ドルに逃避し、安全な避難所としての地位を強化し、金に対して継続的な圧力をかけています。ドルインデックス(主要通貨に対するドルの強さを示す指標)は攻撃前の97台から100台に上昇し、ドル円も1ドル=156円前後から160円近辺にまで上昇しました。

理由② 攻撃前にすでに上がりすぎていた

もう一つの大きな理由は、軍事攻撃が始まる前から金価格が記録的な高水準にあったことです。

2025年の金相場は、世界的に力強い上昇トレンドとなりました。ドル建て金価格は年初の2,600ドル台から大きく上昇し、12月には4,500ドル超の史上最高値を更新しました。年間騰落率は+70%前後に達し、主要資産の中でも際立ったパフォーマンスを記録しています。

トランプ政権による相互関税をきっかけに世界的なドル離れへの警戒が高まり、金は上昇を続けていました。軍事攻撃の前に最も上昇していた資産の一つが金だったのです。そのため、持ち高(ポジション)が集中していた投資家が有事の発生をきっかけにそれを解消しようとしたほか、株式など他のリスク資産の損失を補うために金を売る動きも広がりました。ニッセイ基礎研究所の上野剛志主席エコノミストは「利益確定による損失補塡の需要が増した」と分析しています。

金価格の年間騰落率の比較
金価格の年間騰落率の比較(単位:%)

中央銀行も金を売っている?

この売りの動きは、個人・機関投資家だけではありません。MOGマーケッツの齋藤和彦代表は、「エネルギーを輸入に依存するアジア地域や、石油の輸出に困難が生じている中東の中央銀行が手元資金を確保するために金を売却するのではないかとの臆測が金相場の重荷になっている」と指摘しています。

実際にトルコ中央銀行が3月26日にまとめた20日時点の金保有量は772トンで、前週より49トン減少していることが確認されています。安全資産として買い増してきた中央銀行が売り手に回っているという、これまでにない状況が起きています。

それでも「金の長期上昇トレンドは崩れていない」

では、金はこのまま下がり続けるのでしょうか。市場関係者の間では慎重ながらも強気の見方が根強く残っています。

近年は、中国やロシアなどの中央銀行による金準備の大幅な積み増しが目立ってきました。また、中東情勢やイラン情勢のみならず、米中貿易摩擦などの経済・金融市場的な事象も広義の地政学リスクとして「有事の金買い」ニーズを強めています。これらが続く限りは、金価格の調整が長続きする可能性は考えにくいでしょう。

短期的に見れば暴落中の金相場ですが、長い目で見れば十分に投資先としては魅力があります。戦争が長引けば戦費が膨らんで財政が悪化し、最終的にはドル安を招くリスクもあります。また、大手投資銀行や機関投資家が金の保有比率を高める方針を示しているほか、2026年も800トン前後の大量購入が予想されており、これが金価格を今後押し上げる可能性が非常に高いという見方もあります。

比較項目 2022年(ウクライナ侵攻) 2026年(イラン攻撃)
有事後の金価格変化 小幅上昇(+数十ドル) 大幅下落(約-15%)
攻撃前の金価格水準 ほぼ横ばい(前年比) 歴史的高値圏(年間+70%超)
FRBの金融政策方向 利上げ局面 利下げ→利上げ転換懸念
ドル相場 ドル高(利上げによる) ドル高(有事の逃避買い)
中央銀行の動向 金の買い増し 一部で売却の動き
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まとめ:「有事の金」は今も有効か

今回の中東危機で金が売られた背景には、「原油高→インフレ→利上げ観測→ドル高→金安」という流れと、「攻撃前の上がりすぎ」という2つの要因が重なっていました。有事だからこそ、すでに高すぎた金に売りが出たという逆説的な状況です。

ただし、突発的な経済危機や地政学リスクの高まりがある際は、逆相関関係が崩れることもあります。金相場は常に複数の要因が絡み合って動くため、「有事=金上昇」という単純な公式は通用しないことがよくわかります。

筆者の考えでは、足元の下落はあくまで短期的な調整局面であり、中央銀行による金準備の積み増しや地政学リスクの常態化などの構造的要因が下支えとなり、長期的には緩やかな上昇トレンドを維持する可能性が高いのではないでしょうか。金への投資を考えている方は、短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことが大切だと思います。

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