TV広告費率と営業利益率(概念図)

まず要点をまとめると――企業がテレビCMを急増させる現象は「十分なキャッシュを確保しつつも課税所得を圧縮したい」「ブランド資産を長期的に積み上げたい」という2つの狙いが重なって起こります。広告は費用計上できるため節税に役立ち、同時に売上の将来成長をブーストする投資でもあるからです。この“利益圧縮シグナル”を読み取り、CM出稿トレンドと財務指標の両方を組み合わせて銘柄選定を行う――というのが本理論の骨子になります。
1. テレビCMと企業収益のマクロ動向
2024年、日本のマス四媒体広告費は前年比0.9%増の2兆3,363億円と3年ぶりに拡大しましたdentsu.co.jp。テレビCM枠の需要は復調し、CM総合研究所の放送回数ランキングでも新規出稿企業が大幅に増加していますmdata.tv。一方、広告費と企業業績の正の相関を示す学術研究は国内外に多く存在しますjstage.jst.go.jpsciencedirect.com。
2. 財務面:広告は「利益圧縮=節税」ツール
- テレビCMは媒体費の中でも単価が高く、広告宣伝費として全額損金算入できますsogyotecho.jp。
- 決算直前に利益が想定以上に残った場合、広告費を増やして当期課税所得を抑える節税策は税理士実務でも定番とされていますvs-group.jp。
- したがって 突然テレビCMを増やした企業=利益水準が高くキャッシュが潤沢 と読むことができます。
図解:広告費率と営業利益率(概念図)
上の散布図は「広告費率が高いほど営業利益率も高い」という典型的な関係をモデル化したイメージです(実データではなく理論図)。広告に回せる資金的余裕がある企業ほど高収益という直観を視覚化しています。
3. 経営戦略面:シグナリング理論
広告は高コストゆえ“まがい物”には続けにくく、品質や財務力のシグナルになる――というのが経済学のシグナリング理論ですcontextsdk.comjstor.orgpapers.ssrn.com。テレビCMは特に到達コストが大きいため、
- 品質シグナル:視聴者は「CMを流せる=信頼できる会社」と認識
- 資本シグナル:投資家は「まとまった広告投資を実行=フリーキャッシュフローが潤沢」と認識
という二重の効果が期待できます。
4. ケーススタディ
企業 | TV‐CM開始/増加タイミング | 直後のKPI変化 | 出典 |
---|---|---|---|
Sansan | 2023末~24年初に全国CM拡大 | ARR+28%、営業CF黒字化 | ir.corp-sansan.com |
freee | 2020年秋に初の大量CM投下 | 純売上+45%、継続課金率向上 | biz.fujitv.co.jp |
P&Gアリエール | 24年に放送回数2倍 | 市販洗剤市場シェア首位維持 | mdata.tv |
カバー(VTuber) | 24年3月に初大型動画広告 | IP関連売上大幅増 | cover-corp.com |
これらはいずれも 黒字拡大局面でTV施策を強化 し、成長ドライブと税負担軽減を同時に狙った例です。
5. リスクと限界
- 一過性のブランディング投資:多額CM後に費用先行で利益が急減する場合もある(例:大型タイトル失速を懸念するメディア企業)jp.wsj.com。
- ROAS悪化の可能性:ブランド施策とパフォーマンス施策のバランスが崩れるとROIが20~50%低下するとの報告もありますtheaustralian.com.au。
- 規模の錯覚:ディフェンシブ企業(食品・日用品)の広告増は「値上げに伴う販促強化」で利益圧縮とは限りません。
6. 投資ストラテジー構築フレーム
- 新規・急増CM企業リスト化:エム・データやCM総合研究所の月次ランキングをスクリーニングcmdb.jpcmdb.jp。
- 財務フィルター:直近3年営業CF+・手元現金増、広告費率>業界平均。
- 税効果チェック:広告費増で実効税率が低下していないかを見る(有報注記)。
- バリュエーション:広告投資による利益圧縮を補正してPER・EV/EBITDAを再計算。
- エグジット基準:広告増が前年対比マイナス転換したら一旦利益確定。
7. まとめ
- テレビCMは 「費用であり投資」 という両面性を持つ。
- 多額CMの実行には潤沢なキャッシュと黒字基盤が前提 → 利益圧縮シグナル。
- シグナリング理論と節税実務が裏付け。
- CM出稿量データ×財務データを組み合わせた定量スクリーニングで、収益力の高い銘柄を先回りできる余地がある。
本理論は万能ではありませんが、広告ビッグデータとIR情報を組み合わせることで、従来のファンダメンタル分析に新しい角度を加える有効なツールとなり得ます。